行方不明のおっさん

第28話 飛んでったおっさん

 俺はあれから色々と思案している。だが、一向に良さげな案は湧いてこない。正直なところ、手詰まりだ。

 

 気分転換でも図ろうと出掛けることにした。自販機でなら買い物もできるからな。


「ソフィー、ちょっと出かけてくる」

「どちらへ行かれるのですか?」

「実家近辺をウロつくだけだ、そう心配するな」

「一日程度の留守番なら待ちますが、それ以上だったら怒りますからね?」

「居なくなったりしないから大丈夫だよ」

「大人しく待っていますから、ちゃんと帰ってきてくださいね」

「じゃちょっと行ってくる」

 全く心配性なんだから、俺はそう言って転移することにした。



  △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




 おかしい、ここがどこなのかさっぱりわからない。また迷子かよ……。

 何が起こったかわからない、しかもスゲー怠い、動けない。

 考えろ、考えろ、考えろ、何が起こった?………ダメだ、少し休もう。




 どのくらい経ったのだろうか? 気を失っていたかのようだ、辺りを見回す。

 暗くて見通しが悪い、どこだここ?…森だよな

 俺の実家の周りには、林はあったが森の規模のものはなかったはずだ。いやそうじゃない、何が起こった? なんか久しぶりだなこんな気分。


 俺は実家近辺の自販機目指して転移したはずだ。

 思い出せ、そして考えろ、ソフィーと話をして、しつこく心配されて、転移した。転移に伴う暗転があって、気が付くとここに居た。ってことは、転移に失敗したのか!

 しかしなんだこの怠さ。少し休めば、いつもなら何とかなるはずなのに。まぁいい、とりあえずは位置確認でもするか。



 怠いので、ゆっくりフヨフヨ動き出す。進めども進めども森だ、しかも深い森林だ。確定したのは、俺の実家の付近では無いということだ。

 普段この程度の怠さなら数時間もすれば、動けるようになるのだが殆ど回復の兆しがない。

 どういうこった? 目覚めてからかなりの時間が経っているはずなのに、ずっと夜なんだけど。

 怠いが眠る必要のない体というのは便利だ、延々と進んでいく。なんなんだこの森、深すぎるだろ! 上空に飛び上がりたいが余力がない、上から見渡せば一発だと思うのだがな。

 


 あ~怠い、なんなんだよ、半日くらい平然と進んでるのに夜が明けない。ほんのちょっと薄明るくなったような感じがした。

 エンドレス石器時代でも陽は昇るはずなんだけどな…。他の神の世界には、招待されないと入り込めないとか、以前先ぱいが言っていたからな、恐らくここは地球だろうな。根性で進もう。



 なんか開けたところが見えてきた、あそこまで行ったら休憩しよう。と思ったら森を抜けた、街道がある土の道だ。アスファルトじゃないんだな。


 少し休んでから、見付けた街道に沿って進む、人が全然居ねぇ~。居たところで、認識してもらえないと何にもならないのだが。

 あ! なんだあれ看板がある、てか立て札だな。え~と文字はアルファベットのようだけど、英語圏じゃないのか……何語だ?…こりゃ、言語は完全に理解不能だな、困った。

 看板の大きい矢印の方に進むことにする、何かあるだろ。


 暫く進むと、大きな町が見えてきた、えーなんで中世なの?

 全身鎧で兜だけはずした兵士っぽい人がたくさんいる。とりあえずは町に入ってみよう、これだけ人が居れば俺を認識できる特異な人が一人くらいはいるだろう。

 もし居たら念話で話せば、ここがどこか分かるかもしれない。ついでに時代も知りたいところだ。



 この怠さの原因がわかった気がした、過去に跳んだのだ。

 どちらにしろ、今は普通の転移すらできない。屋敷にソフィーの元に帰るにしろ、力が足りない。どうして、こうなった……。


 かなりの広さの町だが、何日か掛ければ制覇できるだろうとフヨフヨ移動する。

 商店だろうが、民家だろうが構わず突っ込みすり抜けていく。誰でもいい、誰か俺を認識してくれ!


 人々が起きて活動している時間帯を選んで、周囲をフヨフヨしていたけど、認識してくれるような人は誰もいなかった。

 時間の感覚が既におかしいのと、天候から時間帯が読めないことでの相乗効果で、何日経ったのかすら把握できていない。


 この町には俺を認識できる人間は居なかったようだ、立て札の所まで戻りもう一方の小さな矢印目指して進むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る