第27話 時の流れとおっさんの秘策
俺は近頃ずっと実験をしている、これは肉体の維持に関することだ。
先日ソフィーと一緒に買い物に行って買って来た、目覚まし時計と砂時計それと蝋燭を用いての実験だ。
どんな実験かといえば、時間の流れをどうにか出来ないものかと色々試している。
一応成果は上がっているものの、酷く疲れるので多用は出来ない。
中でも特に停止については、現状では無理と判断するしかない。これについては、ほんの一瞬だけなら止められるのだが、消耗が凄まじいく維持が困難どころか不可能なのだ。
次に加速と遅延なのだが、これは比較的消耗も押えられる。ただやはり、停止に比較して押えられるという程度でしかない。
俺が肉体の維持に際し、最も期待していたのは遅延なのだが、かなり難しいということが判明しただけだった。
まぁそんな感じのレポートを完成させた。
こういった研究資料はもう俺のプライベートに属するものなのだが、ソフィーの助言により恩人である先ぱいには今回開示することにした。また、何らかの助言が得られるかもしれないという打算も含まれてはいる。
フヨフヨと食堂にゆっくり移動していく。何故まだこの屋敷に居候してるかというと、俺の肉体の食事の介助がソフィーだけでは難しいからだ。
折角建てた家は、俺の訓練で使う程度の秘密基地に成り下がっている。しかも、ただの転移ポイントとしてしか利用していないので、現状空き家以外の何物でもない。
「ごきげんよう、諸君」
レポートを先ぱいに渡す。やっと物を持てるようになったのだ。正確には、空中に座標を指定して固定しているのだけども。
「何がごきげんよう、よ」
「いや~思っていたより、ずっと難しくてな。まぁ読んでくれ」
「………何よ、これ…時間を操るなんて、普通じゃないわ」
「でも、ヒントは先ぱいから貰ったんだぞ」
「私そんなこと一言も口にしてないわ」
「あれしろ、これしろとは言ってないが、口にはしたよ?
以前、なんで屋敷には時計がないのか訊いたろ? その時に、この世界の一日は二十時間に固定されていると口にしたよな。
それで、もしかしたら出来るんじゃないかと判断したわけだ」
「……たったそれだけで」
なんだか凄くショックを受けている。
「だが、結局現状では困難を極めるってのが、分かっただけだがな」
俺は頭を掻く。さて、どうしたものか。
「難しくても、出来ているのでしょう?」
「書いてある通りだぞ、消耗が激しすぎる。繰り返してキャパシティが上がったところで、高が知れているぞ」
「今まで時を自在に操る神なんて聞いたこともないわよ?」
「聞いたことがないだけでいるだろうよ。結構危ない橋だろうし、表層に出てこないだけだと思うぞ。
だってこんな、言い方は悪いが実験場とか創っているのだろう? 出来ないはずがない」
実際に先ぱいは意図せず行っていた訳だしな。
「別に俺は口論をしたい訳じゃないんだ。で、ひとつ訊きたいんだけど、もし俺が全力を出し切って消耗したらどうなる?」
今打てる最後の手段をとると、恐らく瀕死に近く消耗すると思われる。
「どうもならないわ、ただ数日身動きが取れなくなる程度よ。私たちは生物じゃないのよ、あなたは肉体については例外だけど」
ならイケる…か。
「何をするつもりなの?」
これは答えたくない、俺は目を逸らす。
「答える気がないのね、いいわ。でも、ソフィーリアを悲しませるのは無しよ」
痛いところを突いてくる、俺は目を瞑り俯いた。
「………あぁわかった。辞めた、その手はつかわない。約束する」
使えばどう考えたって、彼女は悲しむだろう。
「もう少しマシな手がないか、考えてみるよ」
「せかっち過ぎるのよ、全く」
まるで、俺がやろうとしていたことが分かっているみたいだな。
確かに、焦りから導き出した答えだから実行しなくてよかったってのもあるが、参ったね。
こうして『俺が、神になる前の俺を殺す』という策は実行する前に潰れたのだった。
「旦那様、どうしたのですか?」
俺が項垂れて、思案を巡らせているとソフィーがやってきた。
ソフィーは近頃よくリタちゃんとよく話をしている、故郷が近いのか話が合うようだ。
「いや、別になんでもないよ」
ちょっと後ろめたいことがあるので、まともに顔を見れない。
「本当ですか?」
しつこく顔を覗き込んでくるソフィー、「ああ」と返事はしたが、非常に気まずい。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、触れたり抱き締めたりして誤魔化すことが出来ないのは辛いな。
無性に馬鹿らしくなってきて、笑ってしまった。
「ソフィーの仕草が妙に可愛らしくてな、可笑しかったのさ」
思い切り嘘をついて誤魔化した。
本当、何やってだろうな俺。
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