第25話 おっさんの覚悟
風呂上がりの先ぱいとウサオを迎え、俺以外は夕食を食べている最中だ。
問題のアンバーの料理についてだが、見た目的には何ら問題ない。寧ろ美味しそうだ。
自分で食べられないので、じっと先ぱいやソフィーを観察している。先ぱいは慣れているのか、表情を取り繕っている感じが否めない。
ソフィーに至っては、表情から感情が読めない。しかし、笑ってはいない。
料理を作ったアンバーはというと、普通に食べている。作った本人が食えない料理なんて最悪だけどな。
メニューはというと、クリームシチューにサラダとパンだ。
問題があるとすればパンだ、目の詰まった明らかに硬そうなライ麦パンだと思う。だって黒いもの。まぁ、スープに浸して食べる分には、酸味が丁度良かったりするんだろうけども。
ウサオですら、正体の判らない葉っぱを食わされているというのに、俺だけお預けである。泣きたい。
漸く食後のまったりタイムに突入した、皆は茶を嗜んでいる。俺は引き続きお預けだが、まぁいいや。
「結局、アンバーの料理の評価ってどうなの?」
見てるだけだと、何もわからなかったので正直に訊く。
「美味しかったですよ、とても懐かしいパンも食べれましたしね」
ソフィーはそう答えた、あの硬そうなパンを懐かしいと言ったか。
「じゃあ、アンバーご褒美だ。風呂上がりのウサオをモフる権利をやろう」
「……うわーサラサラなのにフワッフワですよ、ウサオさん。何ですかこの毛並みは!」
風呂上がり二日間限定のサラサラヘアーなんだよ、満喫しとけ。横でソフィーと先ぱいがソワソワしている、モフりたいのだろう。
「ところで、レポート読んでくれてれば大体分かると思うんだが、俺の残滓についての……」
「ちょっと待ちなさい。私もモフりたいの」
「旦那様、私も触りたいです」
……ぐっ、ソフィーにまで話を遮られた。
「わかったわかった、好きにしろよ」
ヤレヤレと手を振った。本当は俺が一番モフりたいんだぞ、出来ないから我慢してるんだぞ。
結局彼女たちが再起動したのは、一時間ほど後のことだった。
アンバーがお茶を淹れ直し、食事の片づけを始める。
「しかし、ウサオくんの毛並みは魔性ね。惚れ直したわ」
訳の分からないことを言い出す先ぱい、スルーしよう。
「で、さっきの話なんだけど、俺の残滓についての統計と考察な」
「そんなこと言ってたかしら?」
「聞いてなかったのかよ!でだ、詳しくはレポートに書いてあるんだが、
大まかに分類すると『○○をしたい・食べたい』が六割、『◇◇を助けて・救って』が三割、『感謝を示す言葉・礼』残り一割ってとこだ。理解できない言語に関しては省いてある」
何語だかわからない、呻き声みたいのは除外した上での統計だ。
「前にも言ったけど、それだと統一感がないのよ」
「それなんだが、こう考えたらどうだろうか『祈りや願いそのもの』と」
「それは!?」
そう驚くのは仕方ない。もしこれが仮定でないなら、莫大な力になる。と思う。たぶん。
「まぁあくまでも仮定の話だ。だが、この自説が最も有力だと思える証拠が俺にはある、それはこれも以前述べたが俺の意思が残滓に変わったことだ」
「……そうね、確かにそう考えるとしっくりくるわね。でも」
俺が人間の常識に囚われているように、彼女らもまた神の常識とやらに囚われているのだろう。だからこそ、とても信じられる話ではないのだろうな。
「結論を急ぐ必要はないのだろうが、俺はこれからそう仮定して活動することにするよ。
先ぱいや他の神とやらがどう捉えようが関係ないさ、だってそういうもんなんだろう?神ってさ。
もし何かあってもそれだけ莫大な力があれば、抑え込めるだろうしな」
俺は笑いながら話す、ソフィーは微笑んでくれている、大丈夫だろう。
「でも、使いこなせなければ、どうにもならないわよ?」
難しい顔をして先ぱいは言う。
「残滓の調査主体から、訓練というか特訓を主体に切り替える。俺の人間の肉体を維持するために、試したいこともあるしな」
今の俺自身には時間はそれこそ無限にあるのだろうが、肉体はあくまでも人間だからな、寿命だってあと五十年もあれば御の字だ。
ゆっくりまったりと百年、二百年も掛けて、手前の正体を探ってるわけにはいかない。タイムリミットがあるのだ。
恐らく俺は現状のまま肉体を失えば、心が堪えられずに壊れるだろう。それイコールで神だというのなら、余りにも酷すぎる。
あと千年くらい待ってくれりゃ、意識も変わって耐えられるのかもしれないけどな。
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