第24話 時間の感覚と時計

 う~ん時間がわからないな、この屋敷には何故か時計がないのだ。肉体がないので腹時計というか時間の感覚が恐ろしく曖昧だ。

 肉体と分離した俺は食事とする必要がない為、基本的に用がないと食堂に赴く必要がない。その為また一段と時間の感覚が狂っているのだが、そこはソフィーが食事から戻ってくる時間を基点として考えれば多少なんとかなるような気がする。


 ソフィーが昼食から戻った時間から換算すると、恐らく十五時くらいだろうか。おやつの時間だ、食べられないが…。


 今日の日課と特訓は終わりにした、それに付随したレポートをソフィーに預け食堂へ行く。憩いの場と化した食堂である、応接間って転移の帰還地点にしか使われてないのかもしれない。

 食堂に着く、飯時でもないのに珍しく先ぱいが居た。

 この神様、放って置くと四六時中風呂入ってるんだよね。お陰で風呂場には転移実験が出来ないのだ、弊害だな。


「今日をおやつは何?」

 先ぱいにレポートをソフィー経由で渡す。

「ラスクよ、あぁレポート? 受け取るわね」

「ラスクって作ったのか? 先ぱいの待ちに待ったパンじゃねーか、硬いけど」

 ラスクってフランスパンだかバゲットだか、薄くぶった切って焼いて砂糖ぶっかけたやつ。

「アンバーはパンを作るのが得意なのよ、硬いけど」

 硬いの種類にも依るだろ。バゲットとかなら旨いが、ロクに発酵させてない小麦粉じゃね?ってボソボソの硬パンはツライ。


「今日の夕食は期待して観てるぜ。で、そのアンバーは?」

「中庭で洗濯物を弄ってるんじゃないのかしら」

 まだそんな時間なのか、う~む時間の感覚がおかしい。



「あのさー話は変わるんだけど、なんでこの屋敷って、時計がないの?」

 謎は少しでも取り除きたい、多すぎるからな。

「対応できる時計がないのよ」

「どういう意味?」

「この世界の構造は教えたわよね、最初にちょっと失敗して一日が二十時間に固定しちゃってるの。直すのも色々と難しいし」

 またか! ああ、うん、なんだかわからんがわかった気がする。

「時を加速させているとかじゃなくて、通常の時の流れで一日二十時間な訳だな?だから、対応する時計がないと」

「そういうこと~大正解!」

 先ぱいは目を逸らしながら言う、誤魔化そうとしやがった。



「色々と無理のある世界だな。そういや下ってこの先もエンドレス石器時代なのか?」

 落ち込み気味の先ぱいに、少しだが助言をしてやろう。

「この前あなたに指摘された通り、鉱物がないの。どこかに埋め込みたいのだけど」

「どうせなら獣耳の時みたいに、金属加工の技術持ちの人種でも創って街でも形成させた後、精製・精錬した金属を先ぱいが流通させたらどうよ?それに金属の精製や精錬ってのは、余程の技術を伴わないと毒を撒き散らすぞ」

「それやるにしても、まだ早いわね。でも、案としては貰っておくわ」

 少しずつでも借りを返していかないと、莫大な借りが残っているしな。



「ところで、ウサオはどこいった?」

「あら、そういえば見当たらないわね」

 ウサオを行方を探していると、アンバーがウサオを抱っこして裏口から入って来た。


「このうさぎちゃん可愛いですね~、知ってました? 右足と左足で爪の色が違うんですよ」

 ウサオはアンバーを嫌がっていない、嫌いな相手が抱くと爪で引っ掻かれて酷い目にあうのだ。しかも稀に噛みつく、アレは痛い!

 それにしても爪の色の違いに気付くとは、中々どうしてやるじゃないか。

 アンバーはウサオを床に降ろす、すると何故かウサオはソフィーの足元に寄っていく。

「ウサオちゃん、今日はオネムじゃないの?」

 ウサオの鼻先と耳の後ろを優しく撫でるソフィー、ウサオはとても気持ち良さそうにしている。

「ソフィーは、ウサオを弱点を心得ているな」

 ソフィーはにっこりと微笑む、ちょっと見惚れたのは秘密だ。


「私とも遊びましょうね、ウサオくん! 鼻先を撫でられるのが好きなのね?」

 相も変わらず必死な先ぱいに可笑しくなった。

「じゃあ悪いけど、風呂入れてやってくれよ」

「お風呂!じゃあウサオくん、お風呂行きましょうね。何か注意することはあるの?」

「耳に水が入らないように気を付けて、シャンプーとリンスしておいて」 

 風呂上がりのウサオの毛並みは最早極上だ、くーモフモフ出来ない体がない!


「じゃ、お風呂行ってくるから晩御飯の支度をよろしくね、アンバー」

 嫌がるウサオを無理矢理抱いた先ぱいは、お風呂へと喜び勇んで出掛けていった。


「ソフィー」ソフィーを呼ぶ「はい旦那様」と返事が返ってくる未だに擽ったい。

「料理や家事は出来るのか?」

 何とはなしに尋ねる。

「出来ますよ。どうしてそんなことを?」

「いつになるか判らないがここを去る時が来るだろうと思ってな」

「任せてください。どこまでだって、ずっと付いて行きますからね」

「ああ、ありがとう」

 

 本当にこの娘は何者なのだろうか? 

 何故こんなにも俺なんかに固執するのだろうか?

 

 この疑問はいつか解ける日がくるのだろうか…。

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