第23話 おっさんと新たな従者
ソフィーが従者になってからまた一月程経ったある日のこと。特に従者になったからといって、何が変ったということもない。
そうではなく、先ぱいの従者であるリタちゃん休暇に入ることになったらしい。『らしい』というのは、理由を知らないのだ。
詳しく説明された訳でもないのだが、なんでも三か月毎の交代勤務だそうだ。
リタちゃんに替わって配属されるのは、『アンバー』という名の英国人だという。ちなみにリタちゃんはザクセン人だと自称していた。ザクセンってどこだ?
本日付で引継ぎがあるそうで、時期に顔を出すだろうと先ぱいはお茶を飲みながら言った。暫くすると、食堂の扉が開いた。
「おはようございます、ご主人様。とお客様?」
彼女がアンバーさんだろうか?恐らくそうだろうな。第一印象は背が高い、俺と変わらないか少し低いくらいかも。顔立ちは白人でまぁ普通 ——— 失礼な言い方かもしれないが ——— 、髪は薄く金の混じった茶色、瞳は青っぽいグレー、歳の頃は二十代半ばくらい。総括すると、スレンダーなお嬢ちゃんといった感じだな、素朴といってもいいかも。
「アンバー遅かったのね、こちらはお客様、え~とお客様よ。そしてお隣はその従者のソフィーリア様。くれぐれも失礼のないようにね」
あぁ俺、名乗って無いからな、今のは仕方ないよな。
「はい姉さん」
どういうこと? リタちゃんの方が遥かに幼く見えるのだが、色々あるのかね。
「詳しい話は奥でします、付いてきなさい」
と言い、キッチンの方に二人は消えていった。
「どんな感じの子なの?」
見た目だけで判断できないからね、聞いておかないと。
「そうね、なんて言ったらいいのかしら、ちょっと面倒な子ね。理由は話せばわかるわ」
しれっと自分の従者を面倒な子と言い放った。どう面倒なんだろうか? 俺がソフィーを見たら、視線が重なった。
「ちょっとあなた、私の前でイチャつくなっていったでしょ!」
なんか妙な勘違いをしている先ぱい。
「イチャついてねぇよ。ただ俺の従者がソフィーで良かったなって思っただけだ」
そう言うとソフィーは頬を赤くして俯き、先ぱいは俺を睨みつけた。ただソフィーは正体が不明なだけで、決して面倒ではないはずだ、たぶん。
そんな話をしながら、先ぱいとソフィーはお茶を飲み、俺はただ浮遊していると二人が戻って来た。
「それでは皆さま、また半年後にお会いできると思いますが、それまでご壮健であられますように」
リタちゃんは深く丁寧な礼をすると、食堂を後にした。折角、慣れたところなのに寂しくなるな。
「本日付でリタ姉さまに替わりまして、このアンバーが皆様のお世話をさせていただきます。どうぞ宜しくお願い申し上げます」
アンバーさんもまた丁寧な礼をした、これはカーテシーというやつか? さすが英国人ということかね。
「リタから引継ぎは済んだと思うけど、何か質問は?」
「お客様のことは、なんとお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
おおっと俺に向けて、質問をしてきた。
「そうだな、俺はただのおっさんだから、『お兄ちゃん』とでも呼んでくれ」
これがおやじギャグクオリティ。
「はい、では、『お兄ちゃん』宜しくお願いいたします」
先ぱいは、あ~やっちゃったって顔してるし、ソフィーも苦笑している。面倒とはこういうことか、冗談が通じないと!
まぁおっさん呼ばわりされるよりは幾分マシだ、年若い娘に『お兄ちゃん』と呼ばせるプレイってことにしよう。
「えっとね、冗談なんだけど……」
「何がですか? お兄ちゃん」と訊かれ「ごめん、何でもないです」と答えた、ヤバイ心が痛い。
先ぱいを見ると首を横に振っていた。先に教えておいてくれよ!
本当に俺の従者はソフィーで良かったとしみじみ思う。
「あ~そうだ、お風呂が出来たのよ。後で一緒に入りましょう」
余りにも悲惨な出来事で無言の空間と化していた食堂に、一筋の光が齎された。
「お風呂ですか?」
「そう、とっても気持ちが良いの。アンバーあなたも絶対ハマるわよ」
相変わらず、風呂大絶賛だな。最初のお風呂ナニソレ美味しいの?発言を思い出してほしい。
「じゃあ、俺も一緒にに入ろうかな?……あ!」
ついいつもの調子で、悪ノリしてしまった…。これは拙い、冗談が通じないのだった。やってしまった感が表情に出る。
「はいお兄ちゃん、是非ともご一緒しましょう」
しまったー! と思うが後の祭りだ。先ぱいかソフィーにフォローしてもらおうと目線を送る。
「全くもう、駄目よアンバー。男性と女性は、入浴時間をズラしているのよ。いいわね」
先ぱいのフォローが入った、軽く目を伏せ頭を下げる。借りが増えてしまった、借りだらけだ。
「残念ですね、お兄ちゃん」
ふと気になり、右手側を見るとソフィーと目が合う、何故か頬を膨らませている。
しかし、アンバーさんここまで冗談が通じないとなると痛々しいな。先行きが不安だ、主に俺のだが。
「リタちゃんは作る食事は和食だったけど、アンバーさんはどんな感じなのかな~?」
会話するのにも神経つかうわー。
「なんでも作りますよ、リタ姉さんにも十二分に仕込まれましたから、期待してください」
アンバーさんは自慢げに無い胸を張った、これは本当に期待しても平気なのだろうか?先輩を見る。
「お昼までの分はリタが準備してあるから、夕食から腕を奮って頂戴」
先ぱいはそう言うと、俺から目を逸らした。なにか嫌な予感がする。
そもそも俺の飯は、一日一食の流動食を流し込むだけだけど、週一の楽しみが潰れるのはキツイ。
アンバーの料理はどういうものなのか、夕食時に先ぱいとソフィーをじっくり観察しようと心に誓う。
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