第21話 おっさんの相談

「あら、やっとお目覚めかしら? この子も心配しているのよ」

 嫌がるウサオを無理矢理に抱いた先ぱいはそう言った。

 リタちゃんが一旦食堂へと戻り、先ぱいを連れて帰ってきたのだ。その手に茶菓子を持って。


「あなたたちはベッドにでも腰掛けなさいな。私たちがソファに座るわ」

 確かに四人も座れそうにないソファだが、それなら食堂とか応接間とかに移動したらどうよと思うが、なるべく俺を動かさないようにと考えているのだろうな。言われるがまま仕方なくベッドに座ると、ソフィーも当然の如く隣に座った。



 リタちゃんが先ぱいの分のお茶を淹れ、茶菓子を人数分取り分ける。それを横目に見つつ先ぱいは話し始める。

「それじゃあ始めましょうか。私たちは『あなたの精神と肉体の結び付きに齟齬が発生した』という仮説を立てたわ。

 まずこれを起点にして、考えていくのが適切だと思うのだけれど、どうかしら?」

 なんか申し訳ないな、現状の仮説まで考えられているのかよ。


「私はその仮説に賛成する。状況を整理するとそれが尤もだと思うわ」

 俺の横でソフィーが挙手し賛成した、リタちゃんも頷いている。


「では、対処としてどうするかなのだけど…。これは分離して過ごす以外に解決策はなさそうよね」

「しかし、問題もあると?」

 えっ何、問題あるの?なんだろう。


「『生命維持に問題はない』というのは、あなたの考察だけど大丈夫?」

「ああ、流動食と水、それさえ摂取できるなら恐らくは問題ないはずだ。感情が抜け落ちただけで、身体機能は問題ないと思う」

 それに関してはたぶん大丈夫だと思う。あくまでも『思う』の範疇だけど。


「問題は、寝たきりになってしまう筋肉等の維持よね?」

「ああ、筋肉もだけど骨も恐らく弱ることになると思う。筋肉に関しては、低周波治療器やダイエット器具なんかで意図的に電気信号を流して、どうにか出来ないものかと思わなくもないが、骨はどうしたら良いものかさっぱり見当がつかない。何より医療は門外漢なのでな」


「これは参りましたね。レポートには筋肉のことしか言及していなかったので、骨に関しては盲点でした」

 リタちゃんが困った顔で言葉を口にする。

「でも、まあずっと放置するのならばだ。たま~に運動してやれば当面の問題はないと思われる。ただ都度、一旦眠りにつかないとならない、かもしれんが」

 実際にところ、試してみるしかない。


「では『普段は分離して生活するけども、数日に一度の割合で肉体の維持に努める』ということね」

「ならそれで様子をみることにしますが、絶対に無理はしないでくださいね」

 ソフィーは真剣な面持ちで、少し怒っている?

「ああ、無理はしないよ、約束する」

 俺は安心させるように、宣言した。



「さあ、この話はもう終わりです暗い顔はやめましょう。ウサオちゃんみたいに気にしないのが一番です」

 リタちゃんの言にどういうことかとウサオを観ると、リタちゃんの左側のソファの上で茶菓子を齧っていた。なんだかな~もう。


 早速俺はベッドに横になり肉体と分離する。我ながら暢気な寝顔に笑いが漏れる。フヨフヨゆっくり漂いながら、ベッドの端の方に浮かんでいるとソフィーは隣に腰掛けた。


 先ぱいはもうウサオに茶菓子を与えるのに必死だし、リタちゃんはそれを横目に見つつ声を出して快活に笑っている。


「先ぱい、ウサオばかり相手にしないで、ヤギちゃんも遊んでやれよ」

「いいのよ、ヤギちゃんは不愛想で面白くないの。ウサオくんほら、これも美味しいわよ~」

 可哀そうなヤギちゃん、今度遊んでやろう。先ぱいは必死だが、ウサオはリタちゃんからしか茶菓子を受け取ろうとしない。初対面の時に、無理に嫌いな人参を与えようとするから嫌われているのだろう。



 俺は新しい日常を手に入れたのだ、まだ慣れないがこれからこれが普通になっていくのだろう。

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