第20話 眠るおっさん

 夢を見るのはいつ振りだろうか? そもそもこれは夢なのか? 俺は……。


 ここは数年前に出戻って来た俺の部屋だ、俺はベッドで体を起こし周囲を見回している状態だ。


 空のビール缶が数本立ったまま床に置いてある、ティッシュの空箱が数個積み重ねて置いてある。潰して捨てるだけなのに、億劫なのだ。

 その体勢のまま軽く振り返り枕に手を触れる。高校生の頃、母に汚いと謂われ捨てられたお気に入りの蕎麦殻の枕だった。それからしばらく寝つきが悪かったな。


 枕元の煙草が目についた、そういえばあの日から吸いたいと思わなくなった。


 体勢を戻し右手の窓ガラスの先を見遣る。木蓮の綺麗な赤紫色の花が咲き誇っている、これも好きだったな、小鳥がよく巣を作っていたものだ。これも母が手入れが面倒といいぶった切った。


 少し先に置いてあるウサギケージには初代がいた。人見知りで我が道を征くウサオと違い、初代は甘えん坊だったのを覚えている、よく草食動物らしからぬ寝姿をしていたものだ。


 いろんな年の記憶が混ざっている、俺の記憶、人としての記憶。


「・・・・・・・・・・・」

 誰かが呼んでいる。誰だろう、こんな夢の中で俺を呼ぶのは………。




   □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




「目を覚ましてください。ご飯の準備が出来ましたよ」

 ソフィーの声がする。先程までの眠気が嘘のようになくなっていた、目がすんなりと開く。


「あぁ、おはようソフィー。心配を掛けたようで、すまないな」

「そう思うなら早く起き上がってくださいね。ごはん少し冷めてしまいましたから」

 俺は起き上がりベッドから抜け出る、彼女の顔を見ると目元がほんのりと赤い、まるで泣いた後のようだった。

 自然に右腕が伸びソフィーの頭を撫でていた。彼女ははにかみながらも、俺の顔色を窺っているようだ。


「ごめん、待たせたね。もうすっかり眠気は吹き飛んだから、食事にしようか」

 俺もなんだか自分の行動が恥ずかしくなって、誤魔化した。

「はい。では、こちらにどうぞ」

 彼女と共にソファに腰掛け、食事をとることにする。


「冷えた味噌汁ってのも、久しぶりで悪くないさ。酒飲んだ後とかによく飲んだもんだしな」

 ご飯も味噌汁も半端に温かったが、折角持ってきてくれたものだ、残さずに全て腹に収める。

「あ、そうだ。少しお待ちいただけますか」

 そう言うや否や立ち上がり、颯爽と部屋を後にするソフィー。


 食後の余韻を保ってまったりと座っていると、彼女が戻って来た。どうやら、リタちゃんを連れてきたようだ。


「リタさんにお茶を準備していただいておりました」

 そう言うと、ヤカンと急須を持ったリタが早速お茶を淹れてくれる。

「どうぞ」と差し出されたお茶は玄米茶だった。香ばしい香りがなんだか気持ちをホッとさせるくれる。

「わざわざありがとうね」

 礼をいうと、「いえいえ」とリタちゃんは首を横に振る。まったりとした時間が、更にまったりとしたものになった気がした。


「もう、心配させないでくださいね。ソフィーリア様なんて大変だったのですよ」

 リタちゃんにそう言われると、ソフィーは恥ずかしそうにあたふたしている。

「心配を掛けてしまったようで申し訳ない。だが、もう平気だ、体も軽いしな」

 俺は軽く頭を掻いた。二人には、否、恐らく先ぱいにも心配を掛けたのだろう。


 体に戻る度に、睡魔として襲ってくる違和感への対策を早急になんとかせねばなるまい。

 これだけ心配を掛けたのだ、皆に相談するのもありかもしれないな。


「問題ばかりだな、俺は。それで相談がある、どうするべきか意見をもらいたい」

「はい。みんなで考えましょう」

 リタちゃんの返答にソフィーも頷く、とても嬉しい気持ちになった。

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