第9話 先パイ

「くだらない話はそのくらいにしましょうか」

 風呂は決してくだらない話ではないんだけど、まぁいいか本題に入ろう。


「それで、どうなの?」

「どう?ってアレだろ、声のことだよな?」

「そうね、話が早くて助かるわ」

 俺も本当はその話をしたかったんだよね。


「昨日もあれからずっと聴き耳を立ててたんだよ」

 人聞きの悪い言い回しになっちまったぜ。

「それで、どんな声が聴こえるの?」と促される。


「そうだなぁ。『アレが欲しい、コレが欲しい』ってのが大半で、次いで『助けてください』ってのが多いな。後は、あれだ『感謝を示す礼』だな。

 それと言葉が理解できないのか呻き声みたいなのが、『礼』と同じくらいの頻度であるんだよ」

 何語か理解できないヤツだ、人間じゃ無かったりしてな…。


「ん~どういうことなのかしら、それにしても統一感がないわね」

 あぁそういう風に捉えるのか、確かに俺を神として構成してる重大な要素な訳だしな。

「ってことは、普通は統一されてるのか?」

「普通かどうかは置いておくとしても、私の場合はそうね。

『誰それを好きだ!』だの『〇〇ちゃん結婚して!』だの『愛している!』だの『妹はお兄ちゃんが守ってみせる!!』だの。爆発しろ!と叫びたくなることが多いわね」

 なんか顔が引き攣ってるぞ。ヤバイヤバヤバイヤバイ、地雷原だったようだ。

「………それは、なんと言いますかご愁傷様です。要するに、愛情ってやつで構成されているということか?」

「そんなもんよ、恋愛・親愛・兄弟愛みたいなものかしらね。爆発すればいいのに」

 ヤバイ引き摺ってるよ。でもこの話題は俺の根幹に関わるんだよな、どうするか?とりあえずこのヤバイ空気をなんとかせねば。



「先ぱいの話はわかった。俺の統一感のないってのは、どういうことよ?」

 先ぱいという代名詞をつかってみる、勿論、先ぱいの『ぱい』はおっぱいの『ぱい』だ!

「先輩?」

 よし掛かった、手応えありだ。こっそりテーブルの下で右手の拳を握る。


「俺の先達なんだから『先ぱい』でいいでしょ?」

 音は同じだから大丈夫のはずだ。

 ふと顔を横に向けるとリタちゃんが両手で口を押えている、正面を向くとおっぱいが何故か冷たい目をしていた。なんだ?嫌な予感が…。


「私は日本生まれの神じゃないから、言葉を翻訳するよう力を行使しているのよ」

 拙い、非常に拙い、背筋に冷たいものが…。ちくしょー、余計な気を利かせたばかりに、墓穴を掘ったようだ。誤魔化せるか分からないが、そっと目を逸らす。

「まぁいいでしょう、今回だけだからね?

 統一感だったわね。私の場合は、あなたの言った通り広い意味での『愛情』で固定されていると思うの。あなたの場合は、どういう意味なのかしら」

 右に左にと首を傾げだした、俺に聞かれてもわからねぇよ。

「まだ聴こえた声の数が少ないのかもしれないし、数をこなして判断するしかないでしょう。

 それと言葉の分からないのは、先ぱいがやってるように翻訳すれば判るようになるんでしょうか?」

「それは後回しになるでしょうね。第一にあなたの構成要素を把握しないと力の行使も覚束ない訳だしね」

 意味不明な呻き声も俺を構成する一部だと思うんですけど、思うんですけど!

 しかしマジで統一感なんてないぞ。自分で言ったとはいえ、数熟してどうにかなるもんなのか?気長に考えるしかねぇか。

 俺が考え事に夢中になっていると、おっぱいは席を立ち一言。


「ちょっと私、下行ってくるから、また夜にでもお話しましょ」

 そのようなことを言い放ち、食堂を出て行ってしまった。

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