第8話 お風呂に入りたい

「あら、おはよう。何だかスッキリした顔をしてるわよ?」

「まぁ冷たい水で顔を洗ったので、そのお陰でしょうか」

 俺にとって怒涛のように問題が攻め寄せる現状で何を言っているのか、このおっぱいは。


 昨日座った席に着くとリタちゃんが食事を配膳してくれた。

 白いご飯に味噌汁と卵焼きが目の前に、俺には嬉しい日本の朝ごはんだけど、この人たちが食べてると違和感が半端ないな。パンとか食ってそうな顔立ちだもの。

「わざわざ俺の為にこんな日本食を準備して頂いて、ありがとうございます」

「何言ってるんですかぁ? うちの主食はお米なんですよ。私は伊達や酔狂で割烹着を着ているわけじゃないんです!」

 礼を言った直後、間髪入れすにリタちゃんに怒られた。あれ~?

「それでも、ありがとう」とお茶を濁す。

 なんとか彼女の機嫌は戻ったようで、寿司屋の湯飲みのような大きくて分厚い湯飲みにたっぷりとお茶を淹れてくれた。この上なく熱い! もうちょっと低い温度で淹れた方が甘みが出て美味しいなんて、口が裂けても言えんな。また機嫌を損ねられて、おっぱいの神様話が再燃したら目も当てられない。

 

 食後のまったりした時間を利用しおっぱいと話をする。手始めに、他愛もない内容から。


「あの~、風呂入りたいんですが……」

「お風呂? 無いわよ、そんなもの。昼間に水浴びでもしたらいいわ、うちの子たちもそうしてるわよ」

 風呂無いのかよ……。

「私も出来ればお風呂に入りたいです」

 リタちゃんが参戦してきた。これは好機、畳み掛けよう。


「なんだったら俺が作りますよ、簡単な右衛門風呂みたいなので良ければですが」

「木ならそこら辺に生えてるけど、それ以外に材料はないわよ?」

 即答だ、バッサリ切られててしまった、流石に木材だけじゃ燃えちゃうよ。

 この流れだと拙い、このままだと押し負けてしまう。 


「水浴びってあの冷たい井戸水でするんですか、おっさんには少々辛いんですが?」

「あのですね、お湯を沸かしてタオルに含ませて、体を拭いたりもするんです」

 リタちゃんが優しく説明してくれる、いい子に育ったものだ。

「てか、この世界とやらで鉄製品は作られていないんですか?」

「無理ね、まだ木やら石の武器持って野山を走り回ってる程度だもの」

 偉そうに自慢してた癖に、石器時代かよ!


「そうだ! この家の物はどう見ても他から持ってきてますよね?買いに行きましょう」

「お金どうするのよ?うちは余り貯えが無いの、食料だけで精一杯なの」

 ぷぅと頬を膨らませるおっぱい、ちょっと可愛い。しかし万時急すだ、もうこの手しかない。

「うちの実家の工場に行けば、鉄板なんかゴロゴロしてますから取りにいきましょう」

 どうよ?

「駄目よ、だってあなたの物じゃないでしょう?それにそんなに重い物は運べないの!」

 くっ、ぐうの音も出ないとはこのことか。


 だがまだだ、これぞ最後の一手。

「風呂はもういいです。ただ俺ちょっと私物取りに行きたいんで送ってもらえませんか?僅かですか、何かの足しになると思いますし」

 私物を取りに行ったついでに、我が家の風呂に入ってやるぜ!昼間なら誰もいないはずだ。

「もう面倒くさいわね~、明日でいいかしら? 今日はやることがあるの」

 足しになると言葉が利いたのか、ぶつくさ文句を垂れながらも承諾してくれた。

「ありがとう」

 

 何か他に話さないといけないことがあったような気がするのだが…。

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