第7話 おっぱいの神様
部屋に戻ると、体が眠いと訴えているので休むことにした。
ベッドにに寝転がりそこで気が付く、体だけ休ませられるのではないか?と。
普通は体と精神で一心同体だけど、今の俺は分離できるのだ。体が眠っている間にまた残滓とやらの声を聴こう。
幽体離脱をして体から抜けだす、体の方は早くも寝息を立てている。分離したままでも、生命維持的には大丈夫なのか?う~ん。
雑念を切り捨て集中する。
『あのおみせのけーきをおなかいっぱいたべたい』
若い男の声がする、さっきはシリアスに『子供を助けて』だったのに、どうしてこうなった……。
気を取り直して集中する。
『まごとりょこうにいかせてくれてありがとうございました』
柔らかい女性の声、お婆ちゃんかな。お礼を言われているが、俺の婆さんは両方とも鬼籍に入ってるから関係ないな。
『りょうたくんのおよめさんになりたい』
リョウタ君って誰だよ、お嬢ちゃん。
『・・・ヴゥゥゥゥゥ・・・グゥグゥゥ・・・・』
・・・・・・・・何語?なんだろう左か、左側をみて集中する。
『・・ウアウゥ・・・オゥウゥグィ・・・・・・』
これは判らないな、おっぱいへの質問にしよう。
その後も様々な声が聴こえたきた、分離した状態なら少し周囲に集中するだけで聴こえるようだ。
人間の体が残滓の声を阻害しているのかもしれない、声を聴くなら体とは分離していろってことだな。
ふと気が付くと窓の外が白み始めていた、いつの間にか朝を迎えていたようだ。
体はというと、寝返りすら打たず仰向けのまま静かに眠っている。胸の辺りが上下しているから死んではいないはずだ。
そんなこんなで残滓の声を聴いたり、体の観察をしたりしていると部屋の扉がノックされた。
「おはようございます、朝です。起きてください、ご飯ですよ」
どうやらリタちゃんが起こしに来てくれたようだ。しかし、俺の顔を見るやいきなりプッと吹き出す。
「どうしたの?」と尋ねると、呟くように小声で「おっぱいの神様 プッ」とまた吹き出した。
昨晩は焦ってて、どうしようもなかったんだ。俺はそっと目を逸らす。
彼女が落ち着くのまで待って、顔を洗いたいという旨を伝える。すると、先に中庭の井戸まで案内してくれるということとなった。
中庭に着くと、彼女は井戸を指さし「どうぞ」といい、どこかへ行ってしまう。
どうぞと言われたが、井戸の前で少し呆然としてしまった。
見たことはあるよ。あるけど、使ったことはあるか?と問われれば、否としか言えない。
時代劇とかで見るような釣瓶井戸なので、見様見真似で釣瓶を垂らしロープを引っ張ってみるが、少ない水しか掬えない。顔を洗う程度の量だから十分だけど。
暫くすると、リタちゃんが戻ってきた。中庭は食堂の裏口と繋がっているらしく、すぐにタオルを持ってきてくれたそうだ。
「歯ブラシは無いの?」
図々しくも尋ねてみる。
「客室はあるのですが、初めてのお客様で、しかも突然のお客様なので準備出来ていないんです」
申し訳なさそうに答えてくれた。
あぁ、俺が悪いみたいだ仕方ないね、もう一度井戸で水を汲み、軽く口を濯いで納得する。
俺の顔を見る度、プークスクスしてるリタちゃんを急かし食堂へ向かうと、おっぱいの神様がお茶を啜っていた。
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