第7話 盟約実行!①

「僭越ながら、私と盟約の儀をお願いできますか」


「了解した。汝、我との盟約を望する者か。なれば汝の紋様を我に示し、盟約を印すると宣言せよ。然らば、我の力は汝の力となろう」


 ああ出た出た、自動の口上が。これを述べている数秒間は何も考えられないが、終わったあとは確実に自己嫌悪だ。

 何だよ、我って。

 

「……盟約を印したく、ここに宣言させて頂きます」


 ナイトの紋様が瑠璃色の閃光を発し、オレとの間に冴え冴えと白い光の鎖ーー光鎖オウレンと呼ばれる盟約の証が出現。

 非物質である光の鎖に伸び縮みの表現が適しているかは別にして、十メートルまで伸縮自在なこの鎖は盟約を交わしている間は消えない。ゆえに盟約の相手とは三年の歳月を共にすることになる。基本は。

 自由を縛りつける鎖を睥睨したくもなるが、まずオレは他の奴らも盟約を済ませたことを確認。

 行動に鎖がかかった感触に戸惑う人間らをよそに、オレは早くこの場を離れたい衝動に急かされていた。


「で、ナイトよ。これからどうするんだ? 今からその天使とかいう奴を倒しに行くか? 居場所わかってんの?」


「まずは、命を落とした仲間を弔わせて頂きたい」


 置くように言い、バフォが後ろに縛った白髪を前に垂らす。おいおい、先に済ませておけよ、と舌の根元あたりまで出かけたが、縁もゆかりもないであろうゴモラの地に仲間を弔う彼らの哀しげな顔に、さすがのオレも思い止まった。

 まあ、仲間や友達を持たないオレには理解不能な感情だが、悲哀に暮れていることくらいはわかる。

 皆を集めて埋葬するか否かで議論が続いたが、結論は一つの穴に六人全員を葬る、になったようだ。このあたりの感覚は輪をかけて理解できないな、オレには。

 イオンが振るった大剣から疾った漆黒の閃光が、敷き詰められた煉瓦に深さ二メートルの穴を穿つ。

 へえ、あの女の光気オウラ、わりと濃いな。人間にしてはやるもんだ。それに奴の大剣自体も何か光気を持っているのか、嫌な感じが漂ってくるな。

 まあ、フンババをどうにかしてきているんだから、それなりに濃い光気を駆使できるのは至極当然、か。

 少し感心するオレをよそに、ダハーカはランにひたすら話しかけている。笑んでいるランのほうは話を聞き流しているようだが、まず自分の居場所を確立しようとするのは奴の本能のようなものだろうか。ああいうのが気持ち悪いんだが。

 よく考えたらあの二人は不快同士だな、オレにとって。


 土葬を終えたナイトは、まずオリム皇国の皇帝への謁見をお願いしたいと言い、下大陸の情勢を説明し始めた。

 三百年前、二千年近く下大陸を治めていた統一大帝国が内紛により三つの国に分裂。三カ国は長らく戦力均衡だったが、近年ではナイトらが属するオリム皇国が頭をひとつ抜け出し始め、版図の様相に変化が起きていた。

 だが、天使の出現によってその構図は一変。

 互いに協力せざるを得なくなった三カ国は二年前に停戦条約を締結したが、それぞれの国内では鬱積した不平不満が怨嗟に繋がり、天使を打倒すべく編成した勇者や英雄らによる討伐隊も帰らずーーそれでも天使が活動を止めてからは少しずつ落ち着きを取り戻していたが、その安定剤も失った今は不安定そのものだと。

 事態打破のため、オリム皇国のナム皇帝は国防のため国内に残していた精鋭十三人を使う賭けに出た。国内の守りを捨て、有識者たちからは単なる創作話に過ぎないと一笑に伏されていた神獣召喚を目指すという賭けに。


「っておい、ナイト。さらっと言ったが、そこに埋められた奴らも紋様を持っているわけじゃないよな?」


「皆、同じものを胸に持っていました。リンドヴルム様のお話では、この紋様は相当に珍しいとのことですが……確かに、少なくとも皇国では我々だけでした」


 いやいや、そういう度合いの希少じゃないんだがな。ただまあ何というか、今さらな気もしてきたな。

 七人が十三人になったところで、元から異様だ。


「……おかしな世界だな、色々と。まあ、それで、お前たちは犠牲を出しながらも目的は達成、オレたちを皇国に連れて帰ればまさに救世主のような感じになるわけか」


「リンドヴルムさま。私たちは決して名を上げたいわけではございません。ただただ、平和に暮らせる世界を望むのみ、でございます」


 メアか。仰々しい言葉遣いがどうにも鬱陶しいな。

 背中が痒くなる。で、掻いてみてその細さに驚いた。


「はいはい。だとしても、結果的にお前らは名を上げることになると思うが。まあいい、他の六柱たち、まずは皇国に向かうことに異存はあるかい?」


 フレスヴェルグは鋭い三日月を惚けたように見上げたままだが、他の五柱は各々に違う色を浮かべて肯く。あの爺さんが月を見て何を考えているかわかる気もするが、どうあれオレには関係ないことだしな。


「異存はないみたいだよ、ナイト」


 水を向けられ、ナイトは深く頷いてから言う。


「ご理解を頂き、感謝いたします。それではこれより、この廃都市ゴモラを出て、皇国へ向かわせて頂きますーー」

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