第3話 六柱連続召喚①
苦々しい思いを噛みしめているうちに、光柱の輝きが増していく。他の神獣が召喚される光景は初見だが、意外に時間がかかるものなんだな、喚ばれる側は瞬きほどなのに。
だから、喚ばれて初めて気づく。何たる不条理。
前は長い屁の最中に喚ばれた。いわゆる黒歴史だ。
ーー光柱が光の粒になり、蝶のごとく優雅に舞い、消失。
あとには、一様に惚けた顔の六人の少女。
全員が女性であることに首を捻らざるを得ない。それにこれはまるで……美少女戦隊だな。
一週間にいちど、“てれび”で流されていたやつだ。
狼狽しながらも奴らは周囲とお互いを見回し、事態の把握に努めようとしているが、この状況だ、そう容易くはないだろうな。
さあさあ、こっちに来るがいい。
もれなく混沌が待ち受けているよ。
ひれ伏したナイトらに名を聞かれた少女らの小さな口が右から順にゆっくりと開き、名乗り口上を開始。
まずは、宝石竜ファヴニル。おお、元人間の神獣か。竜型は何というか、まあ、オレを含めて腕白な性格の奴が多いが、奴の”えっじ“の利いた噂は聞かないな。元は人間だったからだろうか。今はいわゆる、出戻りみたいなもんか?
元来の体高は十メートルほどで、竜型としては小柄だ。くすんだ鈍色の鱗に十五メートルはあろうか、やたらに長い尾。両翼の皮膜は分泌液で滑っていたな。実に気持ち悪い。
真っ直ぐに流した艶がある灰色の髪に丸みを帯びた大きな黒瞳の少女。他の五柱もそうだが、オレと同じで全身を覆う黒一色の旅装束を纏っている。
元が人間の奴らしく、身長や体つきはまあ、ごく一般的じゃないか。髪の色は珍しい気もするが。
続くは森の霊獣ベヒモスと、炎の巨人スルト。
この二柱は初見だが、噂は聞いたことがある。
四足獣のベヒモスは極めて無害な奴で、そういう意味では異色の神獣らしいが、スルトってアレか、興奮するとレーヴァテインとかいう剣から炎を放ちながら徘徊する巨人か。
面白そうな奴が混ざり込んできたな。
今のベヒモスは……なんと言うか、獣人のように体毛が濃く、丸っこい顔と体つきをしている。だが目鼻立ちは立体的で、いわゆる“ぐらまらす”というやつだろうか。
いや、“わがままぼでー“な感じかもしれないな。
スルトのほうはやたら背が高く、真っ白な髪が両顎の傍で内側へカールし、線を流したような垂れ目が印象に残る。体躯は極端に細く、枯れた白樺のような感じだ。
目が細すぎて、起きているかどうか確信を持てない。
なんであいつ、紅い花を咥えているんだろ。
お次は北へ向かう者、フレースヴェルグ。元の体高は二十メートルくらいだったはず。獣人の肉体に鷲の頭部と両翼が生えた二足歩行型のかなり古株な神獣で、ベヒモス並みに穏健というか、好好爺な神獣だが、変わった別名がある。
死体を食む者。意味はそのままだ。
強い癖っ毛なのか、量の多い小麦色の髪が立体的に丸く、身長は高めで、肉感的な体躯か。ベヒモスほどでないが。
ところであいつ、隻眼なのはなぜだ。あの左目はどうした。元の体で負ったのか? いや、獣界での影響は受けないはず。挙げ句、目が悪いのか、しきりに右目を細めて辺りを確認している。
「ーーん? 左が見えぬのー」
今気づいたのか、爺さん。しかも声、可愛いな。
で、残りの二柱が問題だった。
死体を食む者の右隣には、統べる者、アジ・ダハーカ。歪な赤黒い鱗の邪竜。いついかなる時も正しくあろうとし、それを他社にも求める奴とは何もかもが合わない。
もう八百年はオレと敵対関係にあり、幾度となく対立し合ってきた。まともに戦えばオレのほうが強いけどな。
濃藍色で毛先に向かい“うぇーぶ“のかかった髪、小さな鼻にぷっくりとした唇。朱のさした頬に陶器のような肌。
調和のとれた他の部位とそぐわない、手負いの獣のように鋭く、赤い光を湛えた両眼。元はオレと同じくらいの体躯だが、今は七柱のうちで最も身長が低い体になっている。スルトも相当だが、奴は輪をかけて板のような体だ。
前世界で召喚されたもう一柱はダハーカで、苛烈な戦いの末に勝利したはいいが、止めを刺す直前、どうやったのかは知らんが三年経たずにゴモラから獣界へ逃げ帰っていった。
最後の一柱は、慈しむ者、ティアマト。
人の肉体に肘、膝の先と両耳、尾が猫のそれに近く、何を差しおいても、とにかく巨大な神獣。ゆうに三十メートルを超えているようだった。
うなじで止まる若葉色の髪と闊達そうな目鼻立ち、耳がやおら縦に長いことに違和感はありつつも、概ね人間の少女そのものと表現しても差し支えない体のティアマト。
奴は元から二足歩行が可能そうな体だが、歩かない。四足獣のように四肢と強靱な尾を使って飛び跳ね、敏速な動きを誇る。
奴の冠は慈しむ者だが、慈しむ対象は限定的だ。自分が定期的に産み落とす神獣や、神獣になり損ない堕獣となった我が子へのみ向けられ、子育て以外には何の興味もない。
ーーそして、ティアマトは三柱の一柱だ。
召喚候補から外れる神獣はいないから、数十分の一の確率を二回引き当てたことになる。あり得ないことではないかもだが、本当に偶然かどうかの疑義は強く残る。
お前ら、何か隠していないか。疑念を言葉にしようと口を開く寸瞬前、一様に自分に起きた事態を把握しようとしている六柱へ向けてナイトが恭しく声をかけた。
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