4話 出会い
ゆうくんは本当に優しい。自分も入賞できなくて悔しいはずなのに、いつも私のことを気にかけてくれる。
ゆうくんがいなかったら、とっくに声優なんてやめていたかもしれない。いつもいつも、助けられてばかりだ。
思えば、出会った時からそうだっけ___。
ゆうくんと私の出会いは、7年前まで遡る。
高校を卒業し、晴れて大学生となった私は、何か新しいことをはじめたいと思い、サークルを探していた。
『テニスサークルでーす。一緒に青春の汗を流そうぜ!』
『私たちと一緒に、落語を研究しませんかー?』
『アニメサークルです、よろしくー』
大学に入学して数日が経ったある日、サークルを探して、サークル棟へと来た。棟の前では、様々なサークルの先輩たちが勧誘活動をしていた。
「……アニメサークルかぁ」
当時、社会現象を巻き起こす程人気のあった『
「あっ!うちに興味あるの!?」
すると、コスプレをしている女性の先輩に、興奮気味に声をかけられる。
「えっと…、まぁ」
実際、すごく興味がある。アニメは好きだし、毎クール15本は見ている。
アニメだけじゃなくて、ラノベや漫画も読む。
「じゃあさ、ちょっと見学していってよ。ちょうどさっき、新入生が一人見学に部室まで行ったところだから」
「えっと…じゃあ、お願いします」
私以外にも見学に行ったと聞き、一人じゃないと少し安心して見学に連れて行ってもらった。
『おーい!もう一人連れてきたぞー!」
コスプレをしていた女性の先輩に連れられて部室に入ると、男性と女性の部員が、それぞれ2人ずつ、椅子に腰かけていて、その対面に新入生であろう、男性が座って話を聞いていた。
部室は、10人ぐらい入るには十分な広さであり、真ん中には会議用の机があり、その周りにいくつかの椅子が並べられている。壁沿いには、本棚があり漫画やラノベ、ゲームのパッケージが並べられている。
「おぉ、可愛い子じゃん。まぁ、とりあえず座ってよ」
軽いノリの男の先輩が、椅子に座るように促してくれた。
「し、失礼します」
椅子に座り、隣の新入生にぺこりと頭を軽く下げて、挨拶する。
彼の身長は175センチくらいと、やや高く、すらっとした体格で、顔は絶世のイケメンではないが、髪の毛は目にかかる手前くらいまで伸びていて、さわやかさがある。怖い人ではなさそうだ。
「じゃあ、まずは自己紹介をしよっか。俺はリーダーの
「僕は1年の、
「わ、私は、
その後、サークルの活動方針や、活動時間、人数等の説明を聞いた後、私たちも交えた雑談になった。
「二人はやっぱり、アニメは見るのかい?」
玉城先輩が質問をしてきた。アニ研ならではの質問だ。
「はい!今期はやっぱり『魔法少女忌憚』ですね!魔法少女ものなのに、誰一人死なない昨今では珍しい展開で、子供向けかと思わせつつも、主人公たちの戦いを通した苦悩が繊細に描かれていて!生まれるべくして生まれた神アニメですね!あと、堂島先輩のコスプレも最高でした‼」
愛流くんは、興奮気味に、いや、興奮しながらまくしたてた。
すごいなぁ、あんなに熱く語れるなんて…。
「おぉ、そうかそうか。お前、なかなか語れるな」
その後、二人は魔法少女忌憚について語り合った後、玉城先輩が私に向き直った。
「八田ちゃんはどうなんだい?」
「…えっと、わ、私もアニメは好きで…、…こ、今期は……ロスキル、が……」
緊張しすぎて、自分でも聞き取れるか怪しい、消え入るような声で返事をしてしまった。
「ん、なんて?もう一度_______」
「ロスキルか‼いいよね!あれは隠れた神作だよ!」
玉城先輩が聞き返してこようとしたのに被せるように、愛流くんが同調してくれる。
もしかして、気を使ってくれたのかな…。
「ロスキル・・・。ロスタイムキルだっけ?おもしろいのか?」
「はい!あまり、世間の認知度は低いですけど、作り手の魂がこもった作品で、すごく世界観にのめり込めるんですよ。バイオレンスバトルものだけど、八田さんはこういうジャンルが好きなの?」
「えっと…、今期は一番面白いなと思ったのがあロスキルだけど、毎クールほとんどのアニメ見てるから特定のジャンルが好きってわけじゃ・・・」
「そうなんだ。ちなみに、冬アニメは何が良かった?」
「冬は、明日恋かな……」
…あれ?なんか私、普通に喋れてる…?
「おぉ、明日恋はよかったな!あれは、うちのサークルでも度々話題になって、明日香の主人公に対する思いの描き方が____」
それからは、私も打ち解けることが出来て、先輩たちと愛流くんと、夕方まで、アニメについて当たり合った。
語りつくした私たち新入生組は、飲み会があるという先輩たちより先に帰ることになった。
同じ駅から発車の電車に乗って帰るということで、私と愛流くんは、並んで歩いていた。
「…あ、あの!…さっきは、ありがとう」
「ん?」
私は思い切って、愛流くんに声をかけた。
「その…、気、使ってくれたでしょ?私、人とアニメの話するの苦手で…」
「あぁー。八田さん、高校時代、アニオタだって隠してたでしょ?」
「えっ?…うん」
たしかに、うちの高校は、いわゆるパリピが多かったから、アニメ好きなんて公言したら、浮いてしまうような学校だった。だから、アニメが好きだということは、3年間隠して暮らしていた。
それを、さっきの会話で見抜いたのだろうか。
「僕ね、よくオフ会とかに参加するんだけど、友達に連れてこられた人とかで、普段アニメオタだってことを隠している人は、なかなか話すことが出来ないんだよ。だから分かった。ごめんね、余計なお世話だったりしたら」
「ううん。成り行きで部室に行っちゃって、どうしようって、思ってたから、すごく助かった」
本当に、あそこで愛流くんがカバーしてくれてなかったら、こんなにすっきりした気分で帰れてなかっただろう。
「そっか。でも、八田さんもすごいアニメが語れる人でうれしいな。これからも、一緒にいろいろ語り合えるかな?」
「えっと、私こそ、アニメの話できる友達ができてうれしいから…」
「じゃあ、明日からもよろしくね」
「うん。こちらこそ」
駅の改札に付いた私たちは、そういって別れた。
それが、ゆうくんとの出会い。
たぶん、この時から私は彼に惹かれていたのだろう・・・。
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