1章 始動
3話 報告
「もしもし、寝てた?」
18時になり、会社を出た俺はとある人物に電話をかけていた。
「そっか、じゃあ、何か買って帰るな」
俺の勤めている会社は、いわゆるホワイト会社で、社員は18時には帰ることが出来る。そのため、ラノベの執筆もしやすいのだ。
電話を終えると、帰り道にあるスーパーに寄って、コロッケやサラダなどのお惣菜と酒、つまみを買って帰った。
「ただいまー」
俺が住んでいるのは、8階建てマンションの2階で、そのドアを開け、中にいるであろう人物に声をかけた。
「おかえり~」
すると、一日の疲れを癒すようなきれいな声で、その人物は出迎えてくれた。
「どう、だった?ゆうくん」
「ダメだったよ」
『どう』というのは、新人賞の結果のことだろう。
「……そっか、あたしも、ダメだった…」
俺が対面しているのは、
美佳はプロの声優をしており、今日は2か月前に受けたオーディションの結果が返ってくる日だったのだ。目元をよく見ると、少し赤くはれている。このオーディションはいつもより張り切っていたため、余程悔しかったのだろう。
「ダメだね、私。4年間同じことを繰り返して、オーディション落ちたって言われてまた悔しくて泣いちゃって、ごはんも作らずに、ゆうくんに迷惑かけてる…」
俺の顔を見てほっとしたのか、途端に泣き崩れた。
「なんでだよ。美佳はいつも頑張ってるじゃんか。美佳はプロだよ、そりゃオーディションに落ちたら、悔しいだろうし、次があるかも分からない。そりゃ泣いちゃうのも仕方ないよ」
「…そりゃ、そうだけど。そうじゃなくて…、ゆうくんも、ラノベ作家目指してて、今回も受賞できずに悔しいはずなのに、私ばっかり泣いちゃって…ごめん、ごめんね…」
そう言って、またボロボロと涙を落とす。
「大丈夫だって、お前も知ってるだろ?俺は10年も落ち続けてるんだぜ。もうこんなの慣れちゃったよ。……それに、妻を支えるのは、旦那の役目だろ。こんな時くらい甘えろよ。それで、元気になって、また頑張ろうよ」
そりゃ、俺だって悔しい。毎年毎年応募し続けて、今年も落とされた。正直、泣きたい。
でも___、
「俺は、美佳ほど努力をしている人は知らないよ。俺も仕事しながら執筆してるけど、美佳だって、朝からお弁当作ってくれて、俺が出勤してからはレッスンに行ったり、アニメを見て勉強したり、オーディションの練習してる」
プロじゃない俺が、こんなに努力をしている人の前で泣くわけにはいかない。
何としても、美佳と同じ土俵に立って、夢を叶えるんだ。泣くのはそれからだ。
「うん、ありがとう…。大好き、ゆーくん」
美佳は、俺に抱き着いて、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔をこすりつけてきた。「もー、服が汚れるだろ、これで顔ふけって」
美佳が落ち着いてから、肩を掴んで身体から離し、ハンカチを渡してやる。
「じゃあ、ごはん食べよっか」
ハンカチで顔を拭き、美佳は最高の笑顔でそう言った。
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