2話 ヒロインになりたい私

 8月26日、世の小中高生の夏休みが終わろうという頃、私、愛流美佳あいるみかは、緊張の面持ちで、とある電話を待っていた。スマホをテーブルに置き、私は椅子に座って両手の平を合わせて組み、祈るような姿勢で待っている。

『ブー♪ブー♪ブー♪』

「来たっ!」

 スマホの着信音が鳴り、すぐに応答する。

「も、もしもし!」

『愛流、お待たせ。結果が来た。……残念だけど、ダメだった』

「……そう、ですか」

『あぁ。今回はダメだったが、来週にはもう一本オーディションがあるんだから、しっかりと切り替えなさい』

「…はい」

『じゃあ、何かあったらまた連絡するから』

 そこで電話は切れた。

 私は、声優をやっている。大学3回生のときに事務所のオーディションに受かって、今年でデビュー4年目だ今話してたのは、マネージャーの相場あいばさん。4年も経って売れない私にもよくしてくれる。

 今まで、名前のあるキャラクターは2人務めさせてもらったが、ほとんど登場しないサブキャラで、私の名前は業界では無名だ。

 私は沈んだ心のまま寝室まで移動し、机の上に置いてあった次のオーディションの原稿を手に取り、ベッドに横になった。

「今回は、じゃなくて、今回も、だよ」

 最後に‘‘おめでとう”という言葉を聞いたのはいったいいつだろうか。

「……ヒロインになりたいよ」

 天井を見つめたままそうつぶやき、眠ってしまった。

『ブー♪ブー♪ブー♪』

 どれくらい眠っていただろうか。スマホの着信音に起こされた時にはすでに、時計は18時を示していた。

「…もしもし、うん。今起きた」

 電話の相手は、よく聞き慣れた声だ。

 この声を聴くと、安心する。

「ダメだな、私…。強くならないと……」

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