第12話 騒がし森の住人

「海斗は知ってるぞ」

 部屋に戻って、LINEを再開する。

「まだ一緒?」

「いや、神父に邪魔された」

「なんて神父?」

「いちいち覚えてない」

「要人らし過ぎる」

「5人も居るんだからな?ジョーンズとかだったかな…?」

「どうかと思うわ」

「知ってどうするのさ」

「当時のアトトック養護施設と関わりがあるか調べたい」

「おいおい。そんなのどうやって調べる気だよ」

「騒がし森の住人」

「え?何?」

「何、咲樹、会員だったの?」

「何だそれ?」

「騒がし森の60日間のファンと、当時、アトトック養護施設にいた子供たちとその関係者が作った支援団体。…って解釈で合ってる?」

「まぁ、大体は合ってる。元々はマニアの集まりだったんだけど、証拠不十分で神父たちが不起訴になった時に、支援団体と合体したらしい」

「そんなのに子供が入れたの?」

「子供として入ってない」

「あ、あぁ…」

 咲樹の発言で、皆の会話の流れが止まった。咲樹は端末をベッドに放り投げると、PCの前に座った。

 咲樹と言えど、自在に操れるほど語学に精通はしていない。翻訳ツールは必須だが、先方には日本語に精通している幹部が居るのでそんなに問題はない。

 だが、やり取り自体は久しぶりだった。

 事件が起きてから、いつかは繋がらないといけないと思っていた。


 -日本の養護施設周辺で事件が起きている-


 その一文に、事件のWEBニュースを貼り付けた。順を追って話す為にまず桃色ネズミのを。

 暫し待つ。

 程なくして、反応があった。

 -コレは何?-

 ーえ?リアルな事件?-

 即座に翻訳出来るのは助かる。

 ただ、長文になると、意味不明になる。メンバーも簡単には読み解けないだろう。

 まぁ、遺体の様子がイラストで載っているので、分かる人には分かるし、勿論、ここには分かる人しか居ないのだ。

 -副長の翻訳を待つ-

 -迅速な翻訳を希望-


 ふふっ…と咲樹は高揚した笑みを浮かべた。

 会ったこともない、異国の大人たちの頼もしさ。子供だと弾かれることなく意見交換出来るフラットさが好きだ。


 -なんてこった。SAKI、日本で、こんな事件が、今、リアルで起きているなんて。知らせてくれてありがとう。記事を訳したよ-

 そして英文が続く。


 -ちょっと信じられない。AIK-

 -私はリアルに遺体を目撃したよ。SAKI-

 -なんだって⁉︎p.l-

 -本当かい!大丈夫?JJ-

 -ショックだったろp.l-

 -その前に追記したい。上手く話せないから日本語で。副長に訳を頼みたいSAKI-

 -勿論。集中するよ。teacher-

 -近所の図書室に、騒がし森の60日間の初版本が4巻揃っている。

 その内の3巻が、事件の直前に紛失している。見つかったのが、事件の数時間前。杉の木の枝に有った。SAKI-

 -なんてこった。p.l-

 -刻の実だAIK-

 -刻の実だねJJ-

 -それも、君が見つけたの?p.l-

 -我々が、ね。言い忘れたが、桃色ネズミを最初に見つけたのは、私じゃ無い。知り合いで、私が直ぐ呼ばれた。SAKI-

 -了解。AIK-

 -そして、次に2巻が無くなった。SAKI-

 -えっ⁉︎p.l-

 -なんて事‼︎JJ-

 -ちょっと待ってくれ!まさか…AIK-

 -冠猿 SAKI-

 -ひぃp.l-

 -あぁ、神よ!JJ-

 -それが数時間前。今回は私は見てないが、被害者は1人。棒は二本。SAKI-

 -1人…p.l-

 -何故だろう。AIK-

 -順番とチョイスもバラバラね。JJ-

 -共通点は有るのかい?p.l-

 -桃色ネズミは、外人英語教師。冠猿は、養護施設の管理人。SAKI-

 -えっ‼︎p.l-

 -嫌な符号だAIK-

 -これは…何を意味する?p.l-

 -警察は、どう動いてる?AIK-

 -やっと、本の意味に気付く捜査官が現れた所。SAKI-

 -それは何よりだがp.l-

 -何が動き出しているの?JJ-

 -SAKI、無茶な事はしないでくれよ?当時の担当者に連絡をしてみる。teacher-

 -今、奴らがどうしているのか、掴んでいたら良いけど。p.l-

 -それは期待できないかもよ。AIK-

 -その養護施設は、冠猿の紹介で外人神父が何人か入れ替わったばかりらしい。SAKI-

 -SAKI、コレは僕らにとって大変な事かもしれないよ。そうじゃないとしても危険な殺人鬼かも知れない。単独で動かないでくれp.l-

 -何も出来ないよ。ただ、じゃあ、犯人は何者だ?って考えてる。SAKI-

 -その通りだ。AIK-

 -何者だろう。JJ-

 それから、暫く仲間の発言が続いたけど、それとは別にダイレクトメールが副長から届いた。

「SAKI、情報ありがとう。さっきも言ったが、くれぐれも危険に乗り込まないように。それと、冠猿になった管理人の写真は出回ってる?該当者が居ないか調べてみるから、手に入ったら僕に送って欲しい」

「手に入るか聞いてみるよ。その養護施設に知り合いが居るから」

「大丈夫かい…?」

「注意は促してある。ヘマをするような奴じゃ無いよ」

「分かった。任せるよ」

 咲樹はさっき床に投げ出した端末を拾い上げ、要人にLINEを送った。

「管理人の写真ある?頂戴」

「いつからファンになった?」

「早めに。有るだけ全部」

 勿論、要人の戯言は無視した。

「警察が持って行ったぞ。勿論、保存してあるけどな」

 その返事に続いて、添付画像が届いた。

「褒めた甲斐がある」

「は?誰に?」

 その画像をPCに転送し、副長に送った。

 さぁ。何が起きているのか、明らかになるのか?送信完了を見届け、咲樹はぶるりと震えた。

 武者震いだろう。

 

 暗闇の中で毛布に包まり、爛々と目を光らせていた。とても眠れそうに無かった。


 カチカチカチ…と言う規則的な音に混ざって、電子音が鳴った。メールの着信を知らせる音だ。

 ボワッと虚な光を発するPCに触れると、画像が添付されたメールが届いていた。

 素早いな…と感心する。

 画像ファイルを開くと、見覚えのある、白くたるんだ肌の男が写っていた。昔より更に張りを無くし潤いも失った老人だが、醜悪さは変わらない。

 怒りより、吐き気を催す。そんな男だ。

 この男は、もう居ない。少年たちを貫いた報いで貫かれた。


 君はとても優秀だよ。

 邪魔されたく無い。だけど、この裁きを知らしめたい。

 それと同時に、奴らから守って欲しい。

 君の存在は偶然で、賭けだったけど、今の所とても素晴らしい

 もう少し、僕を自由にして置いて欲しい。

 

 そして、そっとPCを閉じた。








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