第2話
光によって奪われた雄馬の意識は、頭部の鈍い痛みによって雄馬の元へと戻ってきた。痛みの発信源と思われる後頭部をさすりながら勇馬は上体を起こすと、今自分がどのような状況なのか分からずにキョロキョロと辺りを見回した。しかし辺りは薄暗く、分かった事と言えば今の今まで自分が寝そべっていたのは石造りの冷たい床ということだけだった。
(ここはどこだ?確か地震があって・・、それから・・?)
現状得られる情報がない以上は自身の記憶から情報を得るしかないと思い至った雄馬は、気を失う前の事を順にたどり始める。だが、その記憶も結局は光が教室中にあふれかえったところで途切れているため、現状を知りえる手掛かりにはなり得なかった。
だんだん暗がりに目が慣れてきた雄馬はもう一度冷静に辺りを見渡すと、さっきは見えなかったものが暗闇に薄らぼんやりと浮かび上がってきた。
まず、雄馬がいる空間が鉄格子で隔てられていることから雄馬は囚われの身であり、雄馬を捕らえたやつらは雄馬に対して友好的な感情を持っていないということが分かった。友好的な感情を持っていればこんな冷たくかたい地面の牢屋になぞ閉じ込めるはずがないのだ。
雄馬の囚われている牢屋から通り廊下を挟んで反対側にも牢屋があるのが見えるが、その中には誰も入っていないようだった。
ひとまず自分を捕らえたやつがいるということは、この近くに人がいるはずだと踏んだ雄馬は鉄格子を両手で掴み大声で薄暗い空間に呼び掛けた。
「おーい!誰かいませんか!!」
自身に対して友好的でない存在に対して大声で呼びかけるのは大変危険な行動ではあったが、今の雄馬にそこまで考える余裕はなかった。そして、その浅慮は痛みを持って雄馬に降りかかるのだった。
突然バチィッ!という音と共に雄馬の手元で赤黒い小さな稲妻が迸ったのだ。
反射的にその場から飛びのいた雄馬はバックステップを踏むことができずに尻餅をついた。手のひらに残る痛みと微かな痺れから稲妻は鉄格子が放出したものだと分かった。
驚きのあまり呆然としている雄馬の耳にこちらに近づいてくる靴音が聞こえてきた。
ハッと顔を上げて雄馬は鉄格子の向こう、靴音の聞こえてくる方向を凝視していると、薄暗いため顔までは視認できなかったものの、かなり細身だと分かる人物がマントのようなものを羽織ってそこに立っているのが見えた。
「目を覚ましたか人間」
聞こえてきたのはかなり若い男の声だった。
「王の命だ。これからお前を王の元へ連れていくが・・、もしも怪しげな術を使おうとでもしてみろ、この私が貴様の臓物を一切合切切り裂いてくれよう」
マントの男はそう言うと、唖然とする雄馬をよそに鉄格子に手を翳しなにやら呟き始めた。すると、みるみる内に等間隔で嵌められていた鉄格子の一部が淡く紫色に発光すると同時に粒子のようなものに変わりその部分がすっぽり消えたのだ。
思わず目を見張る雄馬。
超常的な力を目の前で見せられて、微かに興奮しかけた雄馬だったが先程の男の脅しが本気であることを感じ取り、今は大人しく男についていくことにした。
薄暗い廊下を進むこと数分、徐々に明度が増してきたかと思うと雄馬の目の前に堅牢な扉が現れた。
男は扉に手を添え力を入れると、扉が開き始める。開きゆく扉からは暖かとは言い難い青光が漏れ始め、雄馬を包み込んだ。
扉の先はホールのような場所だった。そして、その光景はというとRPGなどのラスボスの城のようなものだった。床には鮮血を思わせるような真っ赤な絨毯が惹かれており、所々に良い趣味と言えないような悪魔の像が建っていた。ホールを照らす光源は天井から吊るされた質素な照明器具と、悪魔像の持つ槍の先端に灯された青い炎のみだった。
何とも言い難い光景に雄馬が目を奪われていると、男が口を開いた。
「この扉の先に我らの王が御座せられる。私は命によってこの先へは行けぬが・・、貴様が怪しげな事をすれば何者よりもまず私が貴様を殺す。それを肝に銘じこの先へ進め」
男は雄馬に背を向けたまま物騒な物言いをするとともにこのホールに入ってきた扉とは別の、今度は質素ではなく豪華な金や銀の装飾が為された扉を指していた。
雄馬が言われるがままにその扉の前に立つと、今度は誰も触れていないのにひとりでに扉が雄馬を迎え入れた。
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