第四章 真実
4-1
あれから数日。
ジゼルから渡された携帯端末を、ノエルは何度も聞き返した。その度に疑惑が膨らんでいく。
祖父のことは信じたい。けれど、仲間の言動が引っかかり信じきれないでいる。
問い質そうにも留守らしく、置き書きもないためその行方も知れず。
浮き足立つそんな状況に落ち着かず、不信感を払拭するものは何かないか。執務室に置かれている資料をひたすら漁った。
すると、あるファイルを手にした時に一枚の紙切れが落ちてきたのだ。
片側の角がわずかに折られ、明らかに何者かの意図によってバラされていることが窺える。
ノエルはそれを拾い上げた。どうやら会計報告書のようだ。
訝りながら目を通す。
聖櫃教会本部ならびに宿舎の維持費、食費、光熱費に水道代。武器弾薬の購入および制作費……。
逐次流していくが、バチカン名義の給付金や聖櫃教会に関する支出額が記されているだけで、特におかしなところは見当たらない。
――が、終わりがけにある部分が際立って目に付いた。
「この金額は……」
それは研究所の資金額だ。本部と宿舎の維持費、活動にかかる全ての金額を足しても、その額には遠く及ばない。
数字の横に書き殴られていた記号とナンバーを頼りに、そのファイルを棚から引き出す。するとまた一枚、するりと紙が落ちてきた。
目を皿のようにしてそれを精査する。吸血病の予防薬開発費として膨大な予算が計上されていた。しかし、いくらなんでも額が大きすぎる。自分のサインがされているが、こんなものを容認した覚えはない。
「――まさか、おじい様が……」
本部を経由してヴァン・ヘルシングの研究所に、多額の資金が流れていた事実。
静かにファイルを閉じ、ノエルは棚に戻そうと目をやると――空いたスペースの奥に紙くずがくしゃくしゃになって挟まっていた。
今しがたのこともある。ノエルは慌てて紙を取り出す。
慎重に広げると、そこには図形が描かれていた。正方形の図の中に縦横七列の小さな正方形が描かれ、黒色で十字に塗りつぶされたその真ん中だけが白抜きになっている。
この図形にはなんとなく見覚えがある。
それを確認するため、ノエルは弾かれるように執務室を飛び出した。
「……やっぱり」
描かれていた四角を前にして、少女は一人呟く。
そこは宿舎に併設されている執行者本部地下にある武器庫だった。
整然と飾られた長剣に短剣、拳銃と長銃。年代も様々で、中世から近代までと色々な形の武器が勢ぞろいしている。
油と鉛の臭いでむせ返る埃っぽい室内。その部屋の奥に佇む巨大な正方形は、武器の種類や口径ごとに分けられた、弾薬とボルトを保管しておく引き出し付きの棚だ。
改めて紙切れに目を落とす。
黒塗りにされた十字、真ん中だけ白抜きで、よく見ると小さな点が押されている。とりあえず、描かれていた白抜きの通りに真ん中だけを引き抜いてみる。
奥を覗き込むと、背板に四角い切れ込みが刻まれていた。真ん中には、小さな点。
ノエルは穴に入りそうな先の細い棒を探す。するとマスケット銃に使用する、弾と黒色火薬を突き固めるための古めかしいラムロッドを見つけた。
穴の大きさ的にも丁度いい。壁に立てかけてあったそれを手にすると、奥に空いた穴へ突っ込んでみる。……無反応。
どうやら、白い部分の棚を全て引き出さないとダメらしい。
聖霊銀も少なくなってきたな、なんて棚の重さを憂いながら全てを外す。改めて穴に棒を差し込むと、大きな音と埃を巻き上げながら保管庫がスライドしていった――。
†
ヴィンセントは真っ白い地下室にいた。相変わらず伽藍とした殺風景な部屋。
深奥に浮かぶ聖女と吸血鬼が描かれたステンドグラスが見下ろす、始祖カインの髑髏が安置されたカムレシア教会堂。秘密結社アポクリフ地下本部。
ところどころ明滅する切れかけの電灯の明かりのもと、ピンと張りつめるただならぬ緊張感の中で一人の男と対峙している。
「ヘルシング……」仇を射殺すような眼差しで、無精髭は静かに吐き捨てた。
「気は済んだか、ヴィンセント」
対峙する男――ヴァン・ヘルシングは風を受け流す柳のように、殺意を往なして口元を不適に吊り上げる。
「お前が裏切ることは分かっていた。代行者であることもな。使徒座第六位、ヴィンセント・オルブライト。世話してやった恩も忘れ、わしを異端扱いしおって。バチカンの犬め、そんなにアンヌの仇を討ちたいか?」
「――――ッ!」
妹の名を出され、ヴィンセントは激情のままにクロスボウを構える。
自身に向けられた凶器を目の前にしても、ヘルシングはまるで動じない。白んだのか鼻であしらい、憐れむように切り出した。
「あれは残念な実験体だった。わしの野望に露ほども貢献せん駄作、我が人生の汚点、いや、汚物だ」
「貴様ァアアアア!」
愛する妹を愚弄されたことに我慢ならず、師と仰いだ男へ躊躇いなくトリガーをひく。回転するシリンダーから、高圧ガスにより連続でボルトが吐き出される。
それらは寸分違わず矢雨となって、ヘルシングへ襲い掛かった。
全て命中。心臓を射抜き、肉を抉り、臓腑を貫いている。鮮血がボルトを伝い、白い床を赤く汚していく。
膝から崩れ落ちていくヘルシング。間違いなく死んだだろう。
ヘルシングにしてはあっけない最期だったな。
一仕事を終え物言わぬ死体へ冷たい一瞥をくれ、「復讐は遂げた。ノエルもこれで――」ヴィンセントがそう呟き踵を返そうとした瞬間――パアン! と一発の銃声。
「遂げられたのか?」そしてはっきりとした声がそれに続いた。
「ッ――な、に……?」
腹部が熱に疼く。どうやら撃たれたようだ。右の腹を銃弾が貫通し、熱い血潮がこぼれている。
倒れながらも顔を向けると、確かに矢で射たはずのヘルシングが立っていた。平然として、矢のダメージがまるでないみたいに涼しい顔をして。
「どういう、ことだ……」
焼け付く痛みを堪えながら、何とか問う。
すると、ヘルシングはおもむろにシャツを破り、腕を露出した。突き刺さった短いボルトを引き抜くと、肉が再生されみっちりと隙間を埋めていく。
体に刺さったボルトを次々抜くと、欠損部はすべて元通りに再生された。
「まさか……」
最悪を想像し目を瞠った瞬間、無慈悲な銃声が再び鳴り響いた――。
†
地下の薄暗く長い廊下を駆け、そうして抜けた先は研究室らしき狭い部屋だった。
ヴァン・ヘルシング研究所は、宿舎から徒歩五分ほどの場所に地上三階建てとして別にある。
ここは位置的に、おそらく聖ヴァレリア大聖堂との間辺りだろう。そのような場所のしかも地下に、このようなものが存在していたとは知らなかった。
「こんなところに部屋があったなんて……」
暗室に浮かび上がる数台のモニター。石床を走る何本もの太いチューブは、地下を通り別室へ向かって伸びている。目で追い、嵌め込みガラスの中を見たノエルは、「――あれはッ?!」驚愕に息をのんだ。
水で見たされた大きなカプセルの中に、膝を抱えて丸くなる吸入器を装着した男性の姿があったのだ。
助け出そうとガラスに駆け寄る。周囲に目を凝らすが、中への扉は見当たらない。
それならと、力任せに殴りつけてみる。しかしガラスはヒビすら入らず、拳は虚しく跳ね返った。
「強化ガラス……」
呟きながら、コートのポケットから取り出したアンティークのシガレットケースを開ける。
ノエルは煙草なんて吸わないが、適当な容れ物がなかった時にヴィンセントからこのケースをもらったのだ。そして中から耳栓を取り出して、念のために両耳をふさぐ。
ホルスターから銃を抜いて弾倉を振り出し、滅多に撃たない44マグナム弾を一発込めた。壁際ギリギリまで離れ、弾倉を戻して静かに構える。五インチの白銀の銃身が、ディスプレイの明かりを反射してキラリと光る。
撃鉄を起こし、跳弾も考慮して銃口を気持ち斜めに向けた。――発射。
引金をひくと撃鉄が雷管を打ち付け、薄闇に火薬の橙赤が弾けた。狭い室内に、耳栓をしていても聞こえるほどの劈くような発砲音が響く。刹那、ガラスに跳ね返された銃弾は天井へと跳弾し、コンクリートの壁を穿つ。
パラパラと砕けた破片が降ってきた。
「――痛ッ」
あまりの衝撃に手首を持っていかれるかと思った。もう二度と撃ちたくないと反省しつつ、ノエルは落胆に溜息をつく。マグナム弾でも壊せない。どうすれば男性を救い出せるのか……。
ふと見渡すと、モニター付近に赤いスイッチを発見した。
何のボタンなのかは分からない。けれど、他に目立ったものはなにも見当たらない。コンピューターには疎い自分が出来ることなど他にないため、仕方なくスイッチに手を伸ばす。そして、それを押した。
寸秒遅れて仰々しい機械の駆動音が鳴り渡る。
ガラスの向こうを見やると、なにやらカプセルの中に注射器が現れた。
それは実に機械的な動作で男性の腕に針を突き立てる。深々と刺すと逆血し、シリンジの中の透明な液体に朱が溶けた。ポンプが動きプランジャを押し込むと、ものすごい速さで薬剤らしき液が流し込まれていく。
何が起こるのかという好奇心と、信じられない光景を見た驚愕とがない交ぜになった感情の中。ややあって、その現象は起こった。
突然男性の皮膚が黒く変色し始め、体は隆々と盛り上がっていく。爆発的なスピードで肉体は変異し、カプセルに収まりきらないほど肥大する。
やがてカプセルに亀裂が入り水が溢れ出す。内側からそれを破って床に降り立ち、ゆっくりと目を開けた男性は、屍食鬼へと変貌したのだ。
ノエルは我が目を疑った。
「まさか、あの噛み跡のない屍食鬼は――」
こうして作られたのか……。
突然、ガラスが弾け飛ぶ。こちらから攻撃しても割れなかった強化ガラスが、屍食鬼の膂力によってあっさりと砕かれた。
化物が吼え、凶暴な鉤爪を振りかぶりながら突進してくる。
屍食鬼相手には場数を踏んでいるからか、ノエルが慌てることはない。
コートを後ろに払いながら、少女は弾倉をスイングアウト。銃を逆さにして排莢すると、腰ベルトに吊るされた革のポーチから、銃弾が六発生えたレンコン状の物体を取り外した。スピードローダーと呼ばれる、実包をすばやく装填するための器具だ。
冷静にかつ手早く弾倉へ押し込め器具を外す。落ちた空薬莢が石床を叩きキンと澄んだ音を響かせると同時、弾倉を戻して撃鉄を起こした。狙うは頭のみ。
流れるように構え、躊躇せず引金をひく。火薬の破裂音とともに発火煙が弾け、酸化臭が鼻をついた。
放たれた聖霊銀の銃弾は狙いを過たず、真っ直ぐに屍食鬼の眉間を撃ち抜いた。至近距離からの一撃は化物の頭に風穴を穿ち、後頭部から激しく脳漿をぶちまける。四散した脳の一部がわずかに残るガラスに付着し、生々しいパーテーションとなった。
一瞬で絶命した屍食鬼は、膝から崩れズンッと床に倒れこむ。
と、――それに続くように、どこからか銃声が聞こえた。
嫌な予感がする。
絶命する屍食鬼を後目に、ノエルはガラスの向こう部屋の扉から急いで部屋を出た。
足元に点在する心許ない常夜灯を頼りに、狭い暗がりの廊下を道なりに走り続け――やがて一つの扉に突き当たる。
朽ち木で出来たそれを蹴破って中へ入ると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
病的なまでに白い空間、雑に削り出されたような列柱が奥へ向かって建ち並ぶ中。その真ん中辺りで切れかけの電灯の下、赤い水の上に蹲る見慣れた男がいた。
そして奥の台座の前には、倒れる男へ冷たい銃口を向ける祖父の姿が在ったのだ。
茶色の髪、転がるクロスボウと腕章から、蹲る男はヴィンセントであることが瞬時に把握出来た。
「ヴィンセントさんッ?!」
倒れる男へ駆け寄ると、大量の血が滲むコートとズボンに穴が開いていることに気づく。腹部と右の大腿を撃たれたらしい。特に腹部の傷が酷く、このままでは致死量の出血は免れない。
ノエルは焦りと不安を表情に落として男の顔を覗き込む。すると、苦しげに呻く男がか細い声で、「逃げろ、ノエル――」と呟いた。
「これを、おじい様が……?」祖父に振り返り、キッときつく睨みつけた。「どうしてですか? なぜヴィンセントさんを!」
ヘルシングはつまらなそうに鼻を鳴らすと、ゆったりとした動作で銃に弾を込める。
「お前には分からんだろうな。レイチェルの血を引くお前には」
「お母様の……なにを言っているんですか、おじい様……」
拳銃の撃鉄を起こすと、祖父はこちらへ銃口を向ける。その目は死んだ魚のようで、生気の感じられない闇いものだった。
「もうじき世界も終わる。いいだろう、教えておいてやる」
ヘルシングは静かに語りだす。
吸血鬼を狩る内に、それらに対して興味を抱き研究を始めたこと。次第に彼らの不死性に惹かれ、自身を不死に出来ないかを模索し始めたこと。その研究のために人間を実験材料にしていたこと。その副産物として、屍食鬼が生まれたこと。その過程で、ヴィンセントの妹も犠牲になったこと……。
「ある日、それが娘にばれてな。何をしているのか、問い質されたよ。そう、まさにそんな目をしていた。信じていた人間に裏切られたといった失望の瞳だ」
ノエルの母レイチェルは、一体なにをしているのかとヘルシングを問い詰めた。
そこでヘルシングの野望を知ることになったのだ。
「研究を続けていくうちに、いつしかわしはこの世の終わり……終末の予言に語られる『黙示録』への興味に駆られていった。憧憬……いや、恋慕と言ってもいいだろう」
不死の体を得られれば、いつの日か終末の世界を見られるとヘルシングは考えた。そのために実験を繰り返す日々。
「レイチェルは実験をやめるよう懇願してきた。黙示録なんて馬鹿げてると。わしは絶望したよ。娘を愛していたのだ。レイチェルなら理解してくれるだろうと思っていた」
しかしレイチェルは夫を伴い、ヘルシングを糾弾しながら厳然と口にした『バチカンに報告します』
そんなことをされれば夢が潰える。吸血病の予防薬や聖霊銀の改良のために給付される研究費を頼りにしていた彼には耐え難いこと。
ヘルシングは娘夫婦を邪魔に思い殺害した。わざわざ首筋に牙痕を偽装してまで。そして当時二歳だったノエルを引き取り、両親は吸血鬼に殺されたと刷り込んだのだ。
ノエルを教育し、執行者として育てながらも実験を繰り返す日々。
しかし、いくらやれども不死の実験は成功しない。塵芥のように屍食鬼の死体だけが堆く積み上がっていく。年月だけが無常に過ぎ去っていく。
研究も行き詰まり、このままでは黙示録まで生きることが出来ない。苛立ったヘルシングは気晴らしに聖書を読み耽った。
そこで隠された暗号に気づいたのだ。
「――ロンギヌスの槍と聖杯さえあれば、黙示録を顕現させることが出来ることにな」
黙示録を人為的に引き起こすには、血で満たした聖杯をロンギヌスの槍で破壊すること。
その昔、
歓喜に湧いていたそんなある日のことだった。ついにヘルシングは不死の糸口を発見する。
不死者だ。
「ついにわしに天運が降ってきた。マリアという不死者を捕らえたわしは、それを使って実験しようと思いついたのだ。その為には主人の血が必要だ――」
そこから先は、端末に録音されていた、クロードが推理した内容とほぼ同じだった。
「数々の実験を経て不死者の欠点を潰したわしは、ついにリスクなく不死化することに成功したのだッ!」
血沸き肉踊るように高らかに声を上げるヘルシング。こちらへ向けていた銃口をおもむろに自分の左胸に宛がうと、一息に引金をひいた。
心臓を自らぶち抜くと、そのまま繰り糸の切れた人形のように、前のめりになって倒れこむ。
理解が追いつかずただ愕然としていると。心臓を撃ち抜いて死んだと思った祖父が、何事もなかったように立ち上がった。
「分かるか……わしこそが完全な不死者だ」
口から血を吐きこぼしながら、笑い皺を深めるヘルシング。ホルスターへおもむろに銃を収める姿からそれを察すると同時、得体の知れない不気味さにノエルは全身を氷漬けされるような悪寒に苛まれた。
つまり同じ後天的な不死化でも、主人の血を必要としたマリアと違い、どういうわけか祖父にはそれが必要ないということ。
自分がトランシルヴァニアを駆けずり回っている間にも祖父は研究を続け、そしてようやくその体を手に入れたのだ。
今まで自分が生きてきたのは、両親を吸血鬼に殺された復讐を遂げるため。その為ならどんなに辛いことだって耐えて来られた、祖父の言うことにも従ってきた、育ててくれた恩を感じ慕ってさえいた。
だけどその全てがまやかしで、用意された紛い物の人生を、なにも知らずなにも疑うことなく祖父の掌で転がされていただけだった。
気づかずに生きてきた自分が酷く愚かしい。
けれど、そんなことはもう、どうでもよかった。
「そんなくだらないことのために、お父様とお母様を…………アッシュのお母さんまで……」
母親を手にかけた、アッシュの悲しみの涙を知っている。咆えるように慟哭した姿も、胸に抱き感謝を告げた言葉も耳に残っている。
「――許せないッ」涙を浮かべ、ノエルは突き刺すような峻烈な眼差しを向けた。
「許せなかったらどうする? 殺すか? このヴァン・ヘルシングを、実の祖父を――」
「――ッ!!」
二人同時に銃を抜く。刹那、二つの銃声が重なり合う。双方ともにクイックドロウ。
ホルスターから引き抜く際に引金をひいておき、抜ききったあたりで撃鉄を起こして相手に向けた瞬間にそれを放すという、シングルアクション特有の速射術だ。
一度もタイムで祖父に勝ったことがないノエル。一か八かの賭けだった。
果たして撃ち勝ったのは……。
じんわりと、横腹に熱が広がっていく。次第に激痛を伴ってじんじんと痺れてきた。
視線を落とすと、黒いコルセットには銃創が。真っ白いサンドレスは腰元から流れる鮮血に赤く染まっていく。視界が揺れ、膝から崩れ落ちた。
「……ノ、エル」
芋虫のように這い蹲るヴィンセントが、掠れた声で名を呼んだ。
ノエルは返事することが出来ず、苦痛から短い呼吸を繰り返す。
「くはははは! まだまだ青いな、ノエル。だが、これであと一つだ……」
そう告げて、ヘルシングは哄笑しながら地下室を出て行った。
気配が消えたのを確認。ヴィンセントはなんとか体を起こすと、クロスボウの刃の部分で自分のコートを切り裂いた。
ノエルの胴に巻きつけて応急処置を施すと、
「……ノエル……待ってろ」
ふらふらの体に鞭打って、一人、ヘルシングとは逆の扉から地下室を後にした――。
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