2ページ

「ふぅ」

 吐いた息が白くなるかと思ったのに、意外と外の気温は寒くないらしい。テンションが上がって体温がグッと上がったから、体感が狂っているのかも。

 帰りの地下鉄をやめて、家まで歩くことにした。店の少ない、街灯しかない道を選んで。

『わたしたちが自由を求めているんじゃない! 世界が今、自由を求めているんだ!』

『武器を持て! 立ち上がれ! 声を上げろ!』

『辛くとも立ち上がれ、傷を負っても立ち向かえ、倒れても這い上がるんだ』

『今目の前に広がる、この景色が、わたしたちの求めた、自由なんだ』

 頭の中で舞台上のセリフが何度も再生される。立派な舞台装置は無かった。あったのはドラム缶二つと、ギターとショルダーキーボード、それからドラムステック。登場人物は十人以上いたが、姿を現したのはたったの五人で、他はシルエットや声だけ。

 それでも、こんなに見ごたえのある舞台は初めてだと思う。まるで目の前を銃弾が過ぎて行ったような。風やにおい、目に見えないものまで感じ取れた。時には壁に、海に、風になって彼らを見つめていた。たった二時間の事だが、彼らは確かにそこに存在していたのだ。

 その仲の一人、髪をオールバックに上げたマリオ君は、見事に男らしいゴツゴツとした演技でギターを拡声器に、銃に、涙にしていた。こんな大役は初めてだったと思うが、とても堂々とした演技だった。

 今もまだ胸の中がドクンドクンと熱い。誰かにこの事を話したい気持ちでいっぱいだ。でもSNSなんて以ての外。言葉じゃこの熱量は伝わらない。誰かに言いたい。

 スマートフォンの画面がアドレスの一ページで止まる。タップをして耳に当てた。

 俺は今、自由なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る