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「ふぅ」
吐いた息が白くなるかと思ったのに、意外と外の気温は寒くないらしい。テンションが上がって体温がグッと上がったから、体感が狂っているのかも。
帰りの地下鉄をやめて、家まで歩くことにした。店の少ない、街灯しかない道を選んで。
『わたしたちが自由を求めているんじゃない! 世界が今、自由を求めているんだ!』
『武器を持て! 立ち上がれ! 声を上げろ!』
『辛くとも立ち上がれ、傷を負っても立ち向かえ、倒れても這い上がるんだ』
『今目の前に広がる、この景色が、わたしたちの求めた、自由なんだ』
頭の中で舞台上のセリフが何度も再生される。立派な舞台装置は無かった。あったのはドラム缶二つと、ギターとショルダーキーボード、それからドラムステック。登場人物は十人以上いたが、姿を現したのはたったの五人で、他はシルエットや声だけ。
それでも、こんなに見ごたえのある舞台は初めてだと思う。まるで目の前を銃弾が過ぎて行ったような。風やにおい、目に見えないものまで感じ取れた。時には壁に、海に、風になって彼らを見つめていた。たった二時間の事だが、彼らは確かにそこに存在していたのだ。
その仲の一人、髪をオールバックに上げたマリオ君は、見事に男らしいゴツゴツとした演技でギターを拡声器に、銃に、涙にしていた。こんな大役は初めてだったと思うが、とても堂々とした演技だった。
今もまだ胸の中がドクンドクンと熱い。誰かにこの事を話したい気持ちでいっぱいだ。でもSNSなんて以ての外。言葉じゃこの熱量は伝わらない。誰かに言いたい。
スマートフォンの画面がアドレスの一ページで止まる。タップをして耳に当てた。
俺は今、自由なのだ。
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