ミトコンドリア・ギフト

レー・NULL

生命は不死身を望まない

 生物は機械である。DNAというプログラムに従う機械である。有機物で作られた機械である。最初の機械は一つの細胞である。


 現状維持でも問題は無かった筈なのだ。それは停滞を意味するが、それは安定を意味するのだ。なぜならそれは1個体で完成していたからだ。完成とはどういうことだ、それ以上は無いということなんだ。


 だが、原初であり、完成された細胞は他を求めてしまった。1個体で完成していたものが、他を求めることによって不完全なものとして変貌してしまった。


 ミトコンドリアは、異質だ。毒を扱う術を知っている。だが、その異質さはそれだけだったはずだ。それだけだったのだ。だが、原初の細胞が受け取った贈り物は非常に多かった。


 莫大なエネルギーと、それにより可能となった進化の可能性、とてつもない大きな贈り物だ。だが、その代償に寿命も受け取った。


 いや、違う。


 本当に最大の贈り物は寿命だったのだ。そして、それが意味するものは生きているということだ。失わないものに失うものなんてない。ようやく、生物は生命であることを証明したんだ。


 簡単な話だよね。死ぬって事は、今を生きてるってことなんだ。精々背表紙を飾ることを考えたらどうだい。下手にページ増やしても、薄くて誰の印象にも残らないだろうよ。

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