第24話 さえずり渡るは船の上 (5)

ここに来てナナイはミスを犯してしまった。油断油断油断油断。


カズトがあと一つ、指でも動かせばナナイのミスで自身の手で首を跳ね飛ばそうとしたその時であった。


「どうしたのかい?カズトちゃん怖い顔して」


一人黒ずくめの年老いた女性がカズトに言葉をかけた。



暗い日々だった。君が居なくなってから。僕は転移したこの異世界アーリアで一人ぼっちだ。寂しかった。この世界は苦しい事ばかりではなく楽しいことも怖いこともたくさんある。でも君がいないと、僕は生きられないやっぱり僕は暗い日々を過ごさなければならない。ああ、でも変わるのか。この船に居るかもしれない奴を・・・殺せば。


カズトが今までの日々に答えを出しどうやって王族を探しだそうかと考えていた。


そう、カズトにとってもはやエスキテルがどのような人物かなんて「どうでもいい」のだ。そして実は憎んでいるわけでもない。


確かにエスキテルは最愛の人滝本優未を結果的に言えば殺したのかもしれない。があくまでエスキテル自身は滝本を自らの手で滝本を殺してはいない、殺したのは恐らくあの状況では彼の部下だろうとカズトは考えている、だからエスキテル自身にはカズトは恨みを抱いてはいない。


例えばカズトの目の前で彼が滝本の四肢をちぎったり生きたまま目をえぐったりなどをしていたらカズトはエスキテルに対し烈火のごとく怒りそれこそ末代まで祟る程の感情をぶつけていただろう。しかしそうではない、滝本優未はエスキテルとその部下が日本に転移してその過程で「結果的」に死んだのだ


だからカズトにとってそれは滝本優未が死なない未来を作るためにエスキテルを殺さねばならないという事にはつながるがエスキテルを「憎む」という感情にはカズトの場合にはつながらないのである。


つまり、カズトは別にエスキテルを感情で殺したいわけではなく、「エスキテルを殺したら滝本優未が生きている世界が生まれる」という顚末を望んでいるために殺そうとしているのである。


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思い出とともに異世界へ。 @kurotowa

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