第22話 さえずり渡るは船の上 (3)
「ど・・・同姓だったんですか・・・」
「マジで・・・ついてるのか・・・」
二人は肩を落とした、この金髪の男の美貌は、この「有様」を見ればどれだけの物か理解してくれると有難い。
声のほうが少しボーイッシュだと思いはしたが男だったとはさすがに思わなかったカズトは先ほどまで女だと思っていた人物の様子を見る。
「あ・・・やばい。」
どうやらこの美男の性格はそこまで悪くないらしい、少し居辛そうにしている、。悪いことなど全くしていないのに、よく顔を見るとやっぱりかわいい、というか美しい。しかしこの微妙な空気、完全にこちらが悪い。
「すみません、よく間違われるのではありますが・・・」
と返している・・・が人の顔色に詳しいカズトは少しこの男がそわそわしているのに気付いた
「あ~あ、緊張して損したぜ」
「バカ!やめろ!」
ケンのさらなる追撃にカズトは止めに入る。間違いない、この美男は完全に・・・!
「ひ、ひどい・・・」
自分の顔が女よりな事を気にしているぅ!
「まっ、まあまあまあ!でも体格とか仕草は結構男らしいし僕らが勘違いしただけですよ たまたまね!」
とっさにフォローに入るカズト、彼は咄嗟の時に喋ると同じ言葉を何回も発してしまうのが特徴らしい。ちなみに、もちろんこの美男は体格も仕草もまったくもって男らしさを感じさせない。
「ぐ・・・!ぬぅ・・・」
しかしフォローはやや甘くてもケアレスミスはしない男カズト、ケンの口はカズトの肘のボディーブローにより閉じられていた。そして男のほうを見ているとカズトは彼の仕草に疑問を抱いた、悶絶するケンを見て美男は
「ふふっ・・・ふふふっ♪」
とその様子を見て美男が微かに不敵に笑う。その様子を見てカズトは理解した。この男傷付いてなどいないましてや自分が女の顔に近い事など気にしてもいない。この人は自分にさえ嘘をつける嘘つき。動物でいう「狐」
「・・・話を戻しましょう」
男の仕草に、性質にどこからか確証を得たカズトは少し焦っていた自分の心を落ち着かせ淡々とその場を仕切った。まずは・・・
「まずは私のお名前から申し上げましょう、カズト様」
人が聞こうと思ったことを先に言う人物は良い意味でも悪い意味でも相手の感情がわかる頭の鋭いやつというのがカズトの経験則である、しかしカズトはこういう相手に出会った時良い奴だったというためしがない、初めてであった大妖精の程ではないがこの人物とは仲深くは成れないかもしれないと頭で解る。
「ナナイ、というものです。いろいろと失礼をしましたカズト様とケン様」
「様と言われると恥ずかしいな、ケンと呼んでくれ」
忘れていたケンがぬくっと肘ボディーブローから復帰しどこから出したのかわからない美麗な声でコングを鳴らした。いや、冗談を言っている暇はないかもしれないが。
「ナナイさん、話を戻しましょうあなたはなぜ僕が魔術師だとわかったんですか?」
「何だカズトいい加減にしないと嫌われるぞお前、はっはっはっ」
どうでもよくはないがその美声やめろ。と突っ込みたかったが黙ってナナイの言葉を待つ。
またもや真剣な顔押している友に今度間違えていたらボディブローを打ち返してやろうという野望を内に秘めケンは少し距離を開けナナイに聞く
「こいつは一度疑問に思えば必ずケリがつくまで同じ話を何度もしますよ。考えすぎかと思いますが答えておいたほうが良いと言っときます。」
「・・・貴方達はとても仲良しなんですね、羨ましいです、私にはそんな人は居ませんから・・・」
と一言置いて。
「・・・良い魔術師ほど相手の魔力、「力量」が図れるとは聞いたことがありませんか?」
・・・確かに先生から聞いた時はある、力の付いた格闘家が見ただけで相手の雰囲気を察知して強さを測るものと一緒・・・と先生の話を自己分析して解釈はしたが、そんな事があるのだろうか?格闘家でもなく魔術師としては初心者のカズトには到底理解できない話である。
「それを信じろと・・・?」
先ほどから一つも崩れない笑顔という表情のまま彼は話した。
「はい♪私、結構強いんです♪」
ナナイの眩しい笑顔と裏腹にカズトの顔はどんどん曇っていく。ケンはこのとらえ所のない人物はどうすれば真面目にカズトの話を聞いてくれるのか考える、しかし浮かばない、浮かんでこない。
「カズト様、ではこうしませんか?手を出して下さい」
ナナイは先ほどと何も変わらない態度で右手を出してきた、彼カズトにも同じように右手を自分に向けて水平に出してほしいと要求してくる。
・・・カズトはこの人物を全く信用していない、「なぜ?」という言葉が先に出る
「握手をしましょう♪」
「・・・辞めておきます、僕はあなたを信用していな・・・」
「・・・変な動きをしたら手をつないでいる私の右手を切断すればいい。」
空気が変わった。
「ケン様、その時は宜しくお願いします」
言葉とはまた逆に物騒なことを言い放った本人がにこやかに笑っている。ケンはドン引きしているがこれは正しい反応だろう。気付けばこの美男と喋って30分が過ぎようとしていたが喋っていた三人とも時が過ぎるのを忘れているほど暇をしていない。
「い、いやそこまでしなくても・・・」
「今は刃物は持っていませんか、ならこのナイフで。小さいですが・・・業物なので問題なく骨を断てます」
と懐から鞘と柄が真っ白な短刀を取り出しケンに渡す。
「なっ・・・!」
「さあ握手をしましょう、カズト様。」
「・・・はい」
カズトは何も言えなかった。あえて言えるのは自分の思いの弱さとナナイの思いの強さ。それだけだった、頭と心全てに彼は今、 負けた。
そして、二人は手をつなぐ。
「では、魔力の勝負をしましょう」
先に重っ苦しい空気を払いのけようとしてるのはもちろん彼だ、二人を気にしているのか少し明るく声の調子を上げている。
「魔力の勝負?」
初めて聞いた言葉に一人で落ち込んでいたカズトは力なく答える。
「ええ♪腕相撲みたいなものです。お互いに、この繋がった部分から魔力を互いに流し込むイメージでやりましょう♪」
「「この繋がった部分から・・・」という所からもう一度お願いしますナナイさん!「魔力を」抜きで!」
「変態め」とカズトの力なき一言で突っ込まれる。はは、と微かに穏やかな時が流れる。彼、ケンは空気のかなり読める男で同姓ならフォローも完璧という隙のない良い男なんじゃないか?というカズトの好感度爆上げすることになった一言を皮切りに「では始めましょう」とナナイが言った。
「始めましょう」と言われても何をすればいいのだろうか?少し考えたがカズトはもう理解していた、自分がもう今まで何回もやってきたことと同じであるからだ、要はあの石を動かした時と用途は違ったがムルナの家を吹き飛ばした時と同じで「何らか」に魔力を「注ぎ込め」れば良いのだろう。カズトにとっての魔術の基本中の基本僅かな戦いと追い詰められた時の経験で掴んだこれから積み上げていく物の下側。例えでいうならトランプのみで作られた三角のタワーの土台が正しいか。
「注ぎ込む」という意味が分かった時カズトは少しニンマリしたなぜなら自分には最強の武器「圧倒的な魔力量」があるからだ、コレだけは先生のお墨付きである、負けるはずがない・・・と思っていた。
カズトの魔力をナナイに込めた後のほんの数秒・・・カズトは地に倒れていた。
「おい・・・!!どうしたカズト!聞こえるか・・・!?」
何が起こったか解らないカズトであった、ケンの声がまるで数メートル先にいるかのように遠く聞こえる。頭がクラクラして最悪の気分だ・・・と言おうとしたカズトは床に向かって口から腹の中の食べ物を出した。
「魔力酔い」・・・身に余る魔力を急激に体に受けたときに発生する体の異常である。
ナナイの魔力はカズトを圧倒し地に伏し尚も光り輝いていた。まるで太陽が終わる最後の輝きの様に・・・。
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