第21話 さえずり渡るは船の上 (2)


「カズトちゃん大丈夫かい?」

一生分働きましたとカズトは笑って見せた、砲弾庫の仕事はとても気を付けねばならないといったのは前述どうり、難しい仕事をした後は休憩が多く取れるというボアニックの船、「シルバーフィズ」のルール・・・によりまるで1週間連続でシフトをこなしたコンビニの店長のごとくカズトは横たわっていた。


「もうだめ死ぬ」

先ほどの、サボった時よりも気持ちよく感じるベットの上でモフモフの布団をかぶり頭だけ出してゴロゴロとする、この場に携帯ゲーム機があれば見た目はもう完全にニートのそれだ。そんな彼を見つつムルナは少し笑い言う。


「そんなにゴロゴロしてちゃあ、丸くなっちゃうよぉ、若いんだから暇ならどこかに冒険に行かなくちゃ」

そんなことを言い久しぶりに船に乗りちょっとはしゃいでいるムルナを見ていると カズトは少しだけ元気になり その、「冒険」する意思がわいてきた。秘密基地なんかを作った昔を懐かしく思い少し多めにある休憩時間を船の探索に使うことにした。



・・・カズトは先ほど女の子はどこに黒子がついている方が萌えるかと話した船のお客さんを探しキィキィと船床を歩いている。と、ケンとエンカウントした!


カズトは ケン と にらみあっている !


ケン 「 なんで おれとおまえが にらみあうんだ ? 」



そこにカズトの先制攻撃!!


「オラァ!!」


「まてまてまて、なぜ殴るんだ!」

緩く放たれた拳を片手で受け止め、俺が悪いことをしたか?とケンは少し考える、特にカズトに悪いことはしていない。先ほど倉庫のかたずけの時二人で喋りまくって副リーダーにどやされたがそれはお互い様だ、彼はそんなことでは怒らないだろう。と脳内で整理し改めて彼に説いてみた。


「・・・先ほどお前の船長に少し試された。上から目線で人のことを見るのは自分がしても人にされてもあまり好きじゃない」


「まあまあ」

二人は話す、殺風景な、木で出来ているのに無機質さを感じさせる船の廊下はどこか寂しい装いだ、もっと楽しい場所で話したいケンは二人で海の見渡せる場所に向かいながら話を進める。


「キャプテン・ボアニックにはあまりいい印象は持たなかったか」

「・・・正直に言うとそうだな。」


そうかそうかとケンは言い、俺はあの人には頭が上がらない、と一言置き話す。なぜなら、自分の両親は船で死に、金も物も持たなかった自分を「そんな身なりになっても物を盗まなかった」というボアニックの一言で船に乗せてもらえ、今も生きているという、自分の身の上と少しの思いを吐露した。


突然のケンの言葉に驚いたカズトはほとんど何も言えなかった、ただ、「うん」と小さく頷く事しかできなかった。


「俺は恩人を悪くは思えねぇ、カズト、お前が俺の恩人を悪く思うことは許さないと驕った事は言わない。でも、船長、いや、ボアニックさんはカズトが思っている以上に・・・」


「・・・いい漢だ!」

と二人は船のデッキに上がった。広い海と少し曇った、しかし青空とも言えなくもない空が広がっている。


「悪かったよ、お前の恩人の人柄を挨拶しか交わしていない仲なのに、早く疑い過ぎた」

カズトは申し訳なさそうにそう言った。



ケンの言う「楽しい場所」はカズトにとっても中々に楽しめた。どんなデカい木からとったのだろうかと首をかしげる船の中心にどーんと突き刺さっている「マスト」や、どうやって推進力を得られているのか解らない精巧に作られた「船尾」、カズトにとっては見たことも無い物ばかりだ。凄いだろうとケンはイキイキしているカズトに何でも質問してくれと言わんばかりに手を広げている。


「なあなあ!マストは折れないのか?めちゃくちゃ帆に風が掛かってるんだが大丈夫なのか?」

「さあな!どうなってるんだろうな!」


「なあなあ!あの船の尻尾は誰が作ったんだ?どうやって船は動いているんだ!?」

「港町の職人が作っている!風の力で動いているらしい!」


「お前な・・・」

「俺に聞いても無駄だ!わはは!」


ケンがある意味無敵なことに気付いたカズトは質問をやめてものすごくあきれる。と、軽いコントをしている二人に向かってふと気付けば誰かが軽く笑っている。周りを見渡すと奇麗な金髪の物凄くきれいな顔をした女性が背を壁に掛けて二人を見つめていた、あまりの美しさにドキリとした二人を見て女が話す。


「失礼、貴方たちが仲がとてもよろしい様なのでつい・・・」


・・・女の美しさに怯んで声が出せないケンだったが元彼女持ちだったカズトが謎のプライドにより普通の女の子と話すように女性に問いかける。


「僕たちを笑うという事はあなたは知っているんですか?是非教えてほしいです」

ちょっと嫌味風に聞こえてしまったか?と思うカズトを尻目に女性が話す。


「・・・ではまずマストの謎から、あの横帆と言う帆と縦にある帆二つを上手に使って風の力を最大限に使って動いています、マストの耐久力ですが、一手に風を受けるので確かに嵐などが来ると折れてしまうときもありますがある程度の風なら木の、並みの鉄よりもはるかに柔軟という特性を生かして折れることはまずありません。」


「・・・なるほど、じゃあ船尾はなぜあんなに複雑な必要があるんですか?」


「船尾は操舵室と連動していて船の進路を決めるんです、ただ、進路を決めるには波の抵抗を受け流す必要があります船の方向の根幹を決める船尾は特に波の影響を受けるんです、だからそれを受け流すためにあのような複雑な形をしているんですよ」


おお~、というそぶりを見せて聞いたカズトではあったが、目の前の美女のせいであんまり聞こえていないようだ、ケンについてはもう何も言うまい。


「ちなみにあなたは誰ですか?コイツケンの反応を見るに船員ではないですよね?」

「ふふっこの位なら豆知識の範囲内ですよ、魔術師さん」


その言葉を聞いた時、カズトの頭は少しリフレッシュした。そして、ケンが何やらこの女性の見た目について話をしているがそんなことはもう聞こえなくなっていた。


「なぜ、僕が「魔術師」と分かったんですか?杖も持っていないのに、ローブも部屋に置いてきた」

女は相変わらず軽くすました顔で笑っている、気付けば空は先ほどよりも雲が多くなって暗くなり 船員は休憩中なのか周りに人はいない、こんなところで一人で何をやっていたかもわからない、そしてコイツは何故か自分が魔術師、場合によっては自分が「敵」に数えられる情報を知っているのか?疑い過ぎであるか?と少しカズトは自問自答する。


「ケン、場合によっては・・・」

カズトの本気モードにケンは少し考えを整理せざるを終えない。

「・・・疑い過ぎじゃねぇか?」

「見た目は不意を突けるほどいいんだよ、こういう場合は」

ケンは仕方なく構えて、女の様子を見る。

「ただのいい女だと思うけどなぁ・・・」


・・・と、突然の不慣れな二人の様子に女性は我慢出来なくなって噴出した


「・・・あはははははっ!」

くっ、ついに本性を現したのか!?という顔をしている二人に女性は笑いをこらえきれない顔でこう言った


「ご・・・ごめんなさっ・・・いきなり・・・真剣な顔をするものだからっ・・・何だろうな・・・とっ」

とくすくす笑いこちらを見ている。どうやら敵意はなさそうだとカズトが構えを解くとケンが恥ずかしそうに後ろからはたいてきた。

「ほれ見ろ!勘違いじゃねえか!全くきれいなお姉さんに何という・・・」

いやでも疑えるものは疑った方がなんちゃら というカズトの言葉を喋り終えた後、冷静になった「お姉さん」がよく勘違いされるんですと前置きこう言った。


「私、男ですよ」


二人は悲しい声色で空に叫んだ。


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