第16話魔法。
少年は無垢だ、自分のしたいように泣き、自分がしたいように物事を動かそうとする。
青年も同じく無垢だ、自分のしたいように動き自分のしたいように物事をとらえる。
人は無垢だ、勝手に決めつけ、相手を否定する。
今、青年たちは火を持ち「巨悪な魔女」を自分たちが「討伐」するのだと息巻いている、それを人は見て見ぬふりをする。一体人というものはどれほど無垢で清純な生き物だろうか、本当に彼らは悪を自分たちで打ち倒せると思っているのだろうか?だとしたら彼らはきっと・・・あるいは「奪われたこと」がないのだろう人の奪われる痛みを知るものは決して「倒す」という発想には至らないからだ、巨悪を倒す・・・それは自分と同じ生命を「奪う」ということなのだから。
きっと彼らは純真無垢で、幸せで、幸せで、幸せでこれからもずっと「幸せ」であり続けるのだろう。
「オラァ!!ババア!!出てきやがれ!」
「くくくっ・・・いやいや無理無理!出てきたら俺らに殺されちゃうんだもん!」
青年たちは老婆の家の扉を足で蹴りまわし大きな声で喚いている、ムルナは出てこられるはずもない、なぜなら青年たちは武器を持ち今か今かと老婆が出てくるその瞬間を舌なめずりして待機しているからだ、玄関にのこのこと出て言った瞬間老体は一気に青年たちによって八つ裂きにされてしまうであろう。
「まあ、出てこないよな、なんせキメラを作ってる魔女だもの」
「いやあ、ラッキーだなぁ~キメラの2,3匹出てくるかと思って武装してきたのに、全くキメラを出してこないし」
「最後までキメラを「作ってないです」アピールか?笑っちゃうねぇ!その浅ましさ!」
と、面白おかしくげらげらと笑っている、そして
「じゃあ、予定どうり工房も魔女も燃やしちゃいますか!」
一層下卑た笑い顔を浮かべ青年たちはムルナの家のガラス窓に向かって閑々と燃える松明を放り投げた。
広がっていく炎。
その中にムルナは、かわいそうに、恐怖でおびえて小さくなっていた。
カーテンを燃やし、棚の上の小さなぬいぐるみを燃やし、ベッドを燃やし、床を燃やし、自分の命までも燃やし尽くさんばかりの炎は彼女の目にどんな風に見えているのだろうか。
ムルナは孫のことを思い出していた、自分の肉親を思い出していた、血を分けた兄弟を思い出していた、久しぶりに腹を痛めて生んだ子供のことも思い出そうとしたとき、燃え盛る炎が孫の写真を燃やした時ムルナは思った、口に出していた。
「・・・助けてぇぇぇぇええええええ!!!!!!」
泣きながら、膝を折り今までのことを思い出す。最後は理不尽な人生だった、我慢して、我慢して、本当に言いたいことを、年寄りだから、まだ周りは若いから、何時かはやがて何時かは本当に自分のことをわかってもらえる、勘違いなんてすぐに解ける。そう思いながら生きてきた二年近くを思い出しムルナは叫んでいた。
「・・・私は何もしてないよ!!・・・ただ!ただ!孫を思い自分の子供を思い、生きてただけだ!!それの何が悪いんだ!!私は、キメラなんか作っていない・・・!!!」
そう強く叫ぶ声も大声で笑う青年達と猛火の音で聞こえなくなりじき小さくなる・・・と、青年たちを無言で眺め自分たちはやっとキメラの被害から逃れられると安堵していた町人達は思っていた。
「・・・聞こえているさ!!」
安堵している誰かが見つけた、馬のような速さで突っ込んでくる物を、いやアレは物ではない「人」だ。
何者かがものすごいスピードでこちら側に突進してきている。認識した民衆は後ろに下がっていく・・・!
「・・・・どけぇぇえええ!!!」
余りある魔力を使って足に強化魔法をかけ民衆に突っ込もうとしている彼は大声でそう言った
突っ込もうとするついでに武器を持った青年たちと燃え上がるおばあさんの家を見てカズトは激怒した
「・・・・しねぇぇぇぇええええええええ!!!」
気付けば彼は鎌と火を持つ高身長の青年のあばら骨めがけて飛び蹴りしていた「ぐぇ!」とカエルを踏んづけたような音が辺り一面響いた。
「や・・・やんのか、このよそ者がぁぁあああ!!」
青年たちも激高し襲い掛かってくる
「馬鹿が!魔術師を・・・なめるなぁぁぁぁああああああ!!!!」
途端にカズトの周りに激しく鎌鼬が荒吹く。風が舞いゴミが舞いそのゴミを魔力と風で圧縮して「的」に叩きつけた・・・!
的の胸から腹に向かって斜めに亀裂が入る
「ビシャァツ!!」と勢いよく鮮血が別の青年の顔にかかった。
「・・・っ・・・いっ・・・っでぇ!!!」
それは風魔法基本中の基本の魔法、「ウィン」
平凡な才を持つ者ならマスターするのに1か月はかかるこの魔法、カズトはわずか2日で取得していた。
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