第15話名前
おばあさんの1時間に及ぶ孫の自慢話を聞いた後、この家のほかに魔術工房がないか聞いてみた。が、しかし得られる情報はなかった。そして、ついでに、・・・芳しくない情報までが手に入ってしまった。
おばあさんが話の途中で軽く息を荒げたかと思うと、ふらつき椅子から転げ落ちそうになった、慌てて僕は支える。
「大丈夫ですか!」
「ああ・・・その引き出しから・・・薬を・・・」
ゴホゴホと言っておばあさんは食器棚の小さい引き出しを指さしそういった。
・・・おばあさんが薬を吸引してほんの少し経った後、僕が一言
「何かの病気ですか」
というとおばあさんはゆっくりこう言う。
「・・・治療すれば大事には至らないんだけどね。」
じゃあ治療を・・・と言いそうな顔になったがおばあさんは手を僕の顔に向けこういった
「はは、「魔獣を作る魔女」に薬を作ってくれる、心意気のある医者はどこの町にもいないさね・・・」
「自分の魔術で作る効果のあるかないか分からない薬を飲むしか私にはないさ」
今この瞬間の僕は、たとえこの町の罪のない住民たちまでもすべからくみんな、後ろから頭を蹴り飛ばしたくなってくる衝動に襲われる。
「・・・病気はいつからですか」と少し荒れた声で僕は言う
「2週間くらい前からさ、ありがとうよ、心配してくれてるんだね、優しい子だ」
優しくない、町の人からそんなこと言われて、白い目で見られて、自分のやったことは正しいのに、この人は正しく生きているのに、こんな理不尽を押し付けられる、あり得ない、あるべき姿ではない。
「最後に、名前を聞かせておくれよ、もしかしたら最後になるかもよ」と、おばあさんが少し笑い、どこか悲しそうに言う。
「最後にはさせません、あと五十人は人の名前を覚えてもらいますよ」
「ムルナおばあさん」
と、1時間にも及ぶ孫の自慢話の途中で2回ほど聞いたおばあさんの名前を言った。
さて、それから一週間僕は何をしたっけ、確か魔術の本「術書」を買って自分なりに魔術の勉強を始めたんだっけね、毎日毎日術書とにらめっこ、そして実践のくり返し。それを魔術が嫌いな町でやるもんだから僕の度胸も大したもんだ、あまりよくない話だが、ムルナおばあさんの悪評、というかこじつけは町に知れ渡っており。町の人は僕を「キメラの作成者」扱いはしなかった、悪い噂は全部おばあさんのほうに行っていた。
おばあさんに対する町の人たちの反応は予想以上に冷たかった、外出中子供にからかわれていたりするのはもちろん大人ですら見て見ぬふり石もぶつけようとする者もいた、大人で。これはありえないだろう、と、そういったやつにはその後、術書のお試しの実験体になってもらった、先生から少しだけ聞いたが魔術属性「闇」というのは結構珍しい属性で、攻撃というよりは相手の今日一日のやる気を削いだりから人を惑わし、相手によっては国一つをも狂わしたりするまでの色々な用途がある・・・らしい。どちらかというと日本でいう「呪い」か、その実験体になってくれる「手軽で悪い人」には困らなかったのがこの町で魔術の練習をするメリットか。
そんな風で一週間後、僕は酒場に居た、よく話すお兄さんとは何故か結構打ち解けていた、なんと、名前まで知る中になった、お兄さんはケンという名前らしい、で、なんだかんだケンさんと僕は酒をのみ交わしている
「この町には慣れたかい?カズト」
「一週間で慣れるわけないでしょ」
「そうか?その割には夜のねーちゃんとよく「お話し」してるそうじゃないか」
・・・耳が早いなしかし
「なんだばれてたか、持ち金ほとんど使ってしまったよ」
「あんなに金に厳しかったのにな~女にはホイとよ~」
などとげらげら笑い、くだらない会話をする。
そしてケンは僕を急に呼び出した理由を、ケンが飲んでいたビールのカップを大量にこぼし、皆がごちゃごちゃ文句をたれてくる中、ひそひそと小さな声で話した。
「今からすぐだ、ムルナばあさんの家が燃える、「急いだ」様子を見せずに、ばあさんの所へ行ってやれ」
町の、悪い意味で噂の気取った青年たちが話しているのが聞こえてきた・・・というケンの最後の言葉を振り払って僕は酒場からおばあさんの家に慌てて走っていった。
当然、酒場はシーンと静まり返った、「急いだ様子を見せず」にといったろカズト!俺の立場がねぇ。あ~あ、この後どうすっかな~。というケンの小さいため息が酒場に響いた。
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