第14話消える。
旅の途中、僕は町から外れた港に近い一軒の家の扉の前に居た
港町に着いた後、僕はキメラを作り出している工房の場所を探していた。町民の話を聞く限りの町はずれの建物に見学に行ったがそれらしき建物はなく、それで、はずれに無いとすればこの町自体のどこかに魔術工房があると断定した。
「一時のご飯を食べるために結構お金使っちゃったなぁ・・・」
先生たちに貰ったお金だ大切に使わねばならない。しかし、少し後悔しながらここまでの事をまとめる。
調査の結果掴んだ情報は、3年程前からここエーキスに魔獣が増え、ここエーキスにも侵入してくる様になったとの事だ、それで自警団を作ったらしいが魔獣は中々に手ごわく、大対小で戦っても年に7人は亡くなっているとの話、「これでも初めて魔獣が出た時より大分死傷者数は減っているんだ」と話してくれたお兄さんは自信満々に語っていたが、しかし、僕が魔法使いと知るとあまりいい顔はしてくれなかった。理由はあの魔獣「キメラ」は「魔法使いが作るものだから」らしい、ここ港町エーキスは魔法使いがあまり好きな様ではないというのは伝わってきた。
だが、話しかけたお兄さんはお喋りなようで、ペラペラと興味深い情報を教えてくれた「2年ほど前から怪しいと思っている魔法使いのおばあさんがいる、そいつがきっとキメラを作っているに違いない」との事だ。とりあえず疑っているわけではないがこの町に来て日が浅く情報が全くない僕にはここに来るしかないだろう。みんなあまり「魔法使い」には、このお兄さん以外は話し込んですらくれないし、と軽く不貞腐れた。
そんな理由で僕はそのおばあさんの家の扉の前に突っ立っている。
・・・立っているだけじゃ話は進まない、覚悟を決めて話を聞こうとドアをノックする。
「あのー、すみません。独自に魔獣について捜査しているものですがぁちょっとお家に入れてもらえませんか~」
「・・・なんでお家に入れないといけないんですか?」
「いやぁちょっとだけ知りたいことがありましてぇ~聞き込みをs」
「じゃあ扉の前で話せばいいじゃないですか!怪しい!帰ってください!」
あ、怪しいは酷くないか・・・?確かに僕の利き方はどもってて失礼だったかもしれないけど、怪しいって・・・帰ってくださいって・・・ひどい!
あ~もうキメラの事なんて心に引っ掛けずさっさと妖精の国に行こうかなぁエスキテルが戦争を起こすまであと半年もないしなぁ~、と不意に滝本のことを思い出す、今回はあの一夜の事ではない。ただのイチャイチャ話だ、しかしそうだ、早く滝本に会いたい。こんなところでグズグズしている暇なんて・・・と思ったところで不意に僕が殺したキメラの悲しい瞳を思い出す。あの動物はこう思っていただろう「助けてほしい」と、人間のエゴで作られ人間のエゴで死んでいくあの動物たちは決して満足して死んだわけではない
僕の中の黒く濁った炎が揺らぐ、僕は非情になり切れない、しかし、今ここで非情に徹しきるんだ・・・あの瞳を・・・キメラの瞳を踏んづけていけ、カズト。と、ひどい顔で自問自答する。
しかし僕は・・・この町で聞き込みをした時まだ小学生くらいの子供が自分の犬を探していた、鎖を食いちぎり出て行ってしまったそうだ。しかしこの町には野良の動物が全くいない、理由はおそらく簡単だ、キメラを作っている魔術師がそこらの野良を「合成」しているからだ、あの子供の犬の特徴を聞けば聞くほど僕は、僕は罪悪感に包まれるのだ・・・だから!!
自問自答の後、僕はまた扉をノックする。
扉の中の人が言う
「私はキメラなんて作ってないよ!」
「解っています、だから、話したいことを勝手に話します、僕はこの事を暴いてあなたを助けたいと思ったわけではない、しかし、魔獣を、キメラをこれ以上作らせたくない、これ以上動物の命を儚く、遊びのように使われて、僕は、怒りの念で貴方の扉をノックしているんです」と言った。
ダメ元だった、開けてくれるとはもちろん思っていない、ただ正直に感情をぶつけただけだった。
古びた音を立てて、扉があいた。
「・・・少し貴方に興味がわいた」
とおばあさんは話してくれた。
「一応言っとくけど私は作ってはいないよ!」
とおばあさんが言う。それはもう
「解っています」
「この町の人は貴方が魔術師だからという理由で例の工房を持っていると思っていますでも、一見しただけでもあたなが持っているこの工房は」
「花だよ」
僕も素人目なので詳しくはわからない、だがこのおばあさんが持っているものは明らかに動物の命を「消費する」ものではなかった、先生から魔術師は人によって色々な研究をしているという魔術師の話をよく聞いたその中で花の持つ大地と生き物の精力を吸収する力を魔力に取り入れる研究があったことを思い出す。
「話が早いねぇ・・・物分かりがいい、きっと、あなたは難しい人生を送ってきたのねぇ・・・」
悪げなくおばあさんは言った
「でも、大切な人には会えました」
と僕は返した。
なぜその様な研究をしているのに動物を対象にした研究をしていると思われているのか聞いたところ、1、2年ほど前に事故で死んだ見知った野良犬をせめて家の中にある花で囲ってあげようと持ち帰ったところを町の人に見られたらしい。おそらくそれから妙な噂が立ち周りの人に「動物の命を扱っている魔女」と知られてしまったのだろうとおばあさんは言った。
「この町から出ようとは思わないんですか?」正直に僕は聞いた。
「工房を作るのも大変でねぇ、それに、この町には孫がね、居るんだ、もう命を扱う魔女と言われてからはめっきり来なくなってしまったけどねぇ・・・でも、かわいいんだよぉ」
僕はしばらくお孫さんの自慢話を聞いた、この人は悪人ではない。おそらくは、久しぶりに楽しそうに話す老婆の瞳はそう語っていた。
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