第6話

 バイキングの前につくと、それぞれが自分の欲しい食事を指差していく。見ているとヒューバレルたちの周りに、はすでにふわりふわりといくつかの皿が浮いている。

 とりあえず、やってみるか。

 指先に魔力を集めると細い糸を一本伸ばすようにして、皿にチョンと触れる。すると皿がふわりと浮いた。


「うわ、すごい」


 思わず呟く。

 いつのまにか隣で見ていたらしいヒューバレルが、ふふっと笑った。


「そうそう、それでいいんだよ。その調子で、どんどんやってけばいいよ」


 どうやら、私ができるかどうか心配だったらしい。わざわざ見張っていたようだ。


「ヒューバレルはどんなの取ったの?」


「俺はこのスープと、あとこの料理とか」


 そう言ってスープと色とりどりな食材を使っている料理を指差す。

 確かに美味しそうだ。取っておこう。

 次々に指をさしていくと、皿がどんどん浮いて私の周りに浮かんでいく。

 オススメを聞いているとキースがヒューバレルの後ろからにゅっと顔をのぞかせた。


「僕は、このケーキがオススメだよー」


「へぇー、確かに美味しそう」


 ケーキの上に何かがかかっている。飴細工のようなきらめきがあるが、硬いわけではなさそうだ。それも取る。

 まあ、こんなものかな?

 取り終わり、私を待ってくれているヒューバレルたちの元へと行った。


「ごめん、お待たせ」


「大丈夫ですよ、全然待っていません」


 にこりとセンドリックが、微笑んで私を迎える。


「レイラのためだったら何時間でも待つから、気にしないでー」


 気障ったらしい笑顔で手を取って口付けようとしてくるヒューバレルを払う。


「はいはい」


「軽くあしらわないでよー」


 なんとなく面倒臭いヒューバレルのあしらい方がわかってきた。

 さて、どこに座るかと辺りを見渡すと、ぽっかりと空いたスペースが目についた。

 そこにはキースの輝くような金髪とは違いもっと濃い金、茶に近いような髪の色をしている人物の後ろ姿が見える。どうやら、一人で食事をしているようだ。

 ヒューバレルたちはその人物を目にすると、あ、と声を漏らした。


「アレク兄貴じゃ無いですか! おーい、兄貴ー!」


 兄貴? ヒューバレルのお兄さんなのかな。

 ヒューバレルが声をあげると、兄貴と呼ばれた人物が振り向いた。


「おー! お前らじゃ無いか! ほら、席空いてるからこっち来いよ!」


 来い来いと手を振り、私たちをそばに寄せると兄貴と呼ばれた人は立ち上がった。

 うわ、大きい。私の頭一つ分ぐらい大きいよ。

 話す時はずっと見上げないといけないようだ。


「おお、先月ぶりか? 元気にしてたか?」


「元気ですよー!」


 にっこりと微笑むと、兄貴と呼ばれた人は右手をヒューバレルの前に差し出す。ヒューバレルがその手を思いっきり掴むと、お互い引き合い左手で背中を叩きあった。

 

「お久しぶりですね、フィラローガ先輩」


「おう、久しぶりだなセンドリック!」


 センドリックとも同じように体でも挨拶をすると、その人はキースの方を向いた。


「キース! お前はまた、相変わらず不健康そうだな! 体を鍛えろ!」


「相変わらず、兄貴は健康そうで何より。体は鍛えないよ」


 きっぱりと体を鍛えることを断りつつも、キースも軽くだが同じような挨拶を交わす。

 挨拶も終わり最後に私の方を見ると、にかりと顔をほころばせた。瞳にはまっている、赤と琥珀が混ざった炎のような瞳が細まる。


「お、新入りか! 俺はアレク・S・フィラローガ。あ、SはシルヴェスタのSだから、ヒューとは親戚じゃ無いぞー」


 わざわざ説明してくれるフィラローガさんに感謝だ。確かヒューバレルのミドルネームはスワロだから、確かに違う。

 それにしても、フィラローガか。フィラローガのアレクといえば、武器ならなんでも来い。どんな武器でも使いこなす、武の天才とも言われている人だ。すごい人に出会ってしまったようだ。

 今は確か十八なので私たちの一年、上の学年である。


「俺としては兄貴が親戚の方が嬉しいけどね!」


「嬉しい事言ってくれるじゃねーか」


 にかりと笑うとぐしゃぐしゃとヒューバレルの頭をかき回す。ヒューバレルも嬉しそうにそれを受ける。

 本当に仲がいいんだな。


「私は、レイラ・H・ウェストルです。宜しくお願いします」


「おう! 宜しくな! 俺のことはアレクって呼べばいい」


「あ、ではアレク先輩と呼ばせていただきますね」


 アレク先輩が手を伸ばしてくる。

 ん? さっきの挨拶、私もするのか?

 だが予想に反し、アレク先輩の手は私の頭に伸ばされた。軽くワシワシと撫でられる。

 おー、頭が揺れる。


「でも、ウェストルが領から出るなんて珍しいな。何かあったのか?」


 あ、やっぱり珍しいよね。


「いえ、何かあったわけではなく。後見をしていただいている大公様から、学園に通ったらどうか、と話がきまして。提案というよりは半強制でしたが……」


 まあ、視野を広げろというのはわかるが、結構大変な思いをしてまでこの学園に通うのはどうなのだろうと思う。


「ははぁ、王弟殿からの話か。そりゃ断れないなぁ!」


 ははは、と笑いながらも私の頭をワシワシと撫でるので、もう頭はボサボサだ。まあ、直毛で剛毛な私の髪はボサボサにされてもすぐに元の形へと戻っていくだけだ。

 しかし、年上だからなのかはわからないが抱擁感がある人だなと感じる。

 


「まあ、座れよ」


 アレク先輩が席を勧め、私たちも席へと着いた。

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