第5話
シクシクと嘘泣きをするヒューバレルをよそに、どうやら食堂に着いたらしい。ガヤガヤと生徒たちのざわめきが広いホールの中に充満している。
バキング形式になっているらしく、生徒が食べたいものを指差すと、指したものの一つが宙に浮き、生徒の後をふわりふわりと着いていく。席に着くとお盆とカトラリーが目の前の机に現れ、後を追っていたものたちが綺麗にお盆に並ぶ。そのまま食事になるようだ。
自分の屋敷では見たことのないような魔法に驚いて目をパチクリさせる。
「ヒューバレル。あれはなに? どんな魔法を使っているの?」
聞くと、あぁとでもいうようにヒューバレルが口を開いた。
「あれね。確かに初めて見るとびっくりするよねー。俺もそうだったわ。あれはこの学園にしかないんだけど、このホールを作るときに当時の学園長が巨大な魔法陣を描いてね、自分の魔力を食べたいものにくっつけると、魔法陣が反応して指したものがついてくるようになるんだって。お盆とかカトラリーとかもそうだよ。椅子に座ると同時に出てくるように魔法陣に組み込んであるんだって」
「へぇー」
感心して声を漏らしてしまう。
あれ? でも、お盆とかはどこから出てくるんだろう?
疑問に思ってヒューバレルに尋ねると、よくわからないと首を振られてしまった。
知っていそうなセンドリックに聞いて見ると、にっこりと微笑まれた。
「私も実はよくは知らないのです。ですが噂では精霊がどこからか調達してくるだとか、その場で魔法陣が作り出しているとかなんとか。一番信憑性があるのがその場で作り出しているというものですね。食べ終わった後もいつの間にかお皿ごと跡形もなく無くなっていますから、もしかしたら魔法陣が食べているかもしれない、というのも噂になっていますね」
魔法陣が食べている……か。面白い噂もあるもんだなー。
大公が学校でしかできないことがあるって言っていたけれど、こんなこともその一部なんだろうな。
「ところで、魔力をくっつけるってどうすればいいの?」
そういえばと、質問するとヒューバレルが答えてくれた。
「簡単だよ。指先に魔力を集めて、ぺいって飛ばすだけ」
ぺいっ?
「ふーん」
まあ、指先に魔力を集めるのは造作でもない。投げるのもそこまで難しいことはないだろう。
「ヒュー、そんな説明じゃあよくわかりませんよ。レイラも簡単に納得しないでください」
擬音語の一言だけで説明したヒューバレルに、呆れたようにセンドリックが言う。
「レイラ、精霊との魔力回路をつなぐ時の感覚はわかりますよね?」
精霊との魔力回路……。
精霊の魔力と共に自身の魔力を同時に使うには、精霊と魔力回路を繋がなければならない。
同時に使うことで、より大きな魔力となり扱いも難しくなる。そのとき、精霊との信頼が薄いと両方の魔力を暴走しかねない。なので、まだ精霊と契約したての子供などは、急に大きく回路をつなぐのではなく最初は回路の百分の一くらい繋げて徐々に慣らしていく。
慣れていくと共に精霊との信頼も厚くなり、使える魔法の種類も増えていく。
精霊との回路をつなぐと、精霊の意思が自分に、自分の意思が精霊の中に入る。つまりは精霊と一心同体の状態になる。そのため、自身がどのように魔法を使いたいか、精霊が察知し発動に至る。
はじめのうちは、その精霊との繋がりが不安定で、お互い信頼しきれていない状態なので簡単に魔力が暴走する。
精霊と回路をつなぐとき、私は細い糸をイメージしている。最初は、細い糸を精霊とお互いに出し合い徐々に一本一本絡めていくようにするとと私の場合は上手くいく。
はじめのうちは細い糸が一本でいっぱいいっぱいだったが、慣れていくうち徐々に太く糸が繋がっていった。
他の人に聞いてみると、水をイメージする人や風をイメージする人も多いそうだ。
この回路つなぎで一番困るのが過剰に繋いだときである。受け入れる器ができていない状態で過剰に精霊との回路を繋いでしまうと、俗に言う乗り物酔いの状態になる。
私もなったことがあるが、あれは本当にひどい。
三半規管がまともに効かなくなり、体全体がゆらゆらと揺れているように感じ、頭痛がして、手足が冷たくなり、ひどい時には嘔吐してブラックアウトする。
それはともかくとして、センドリックが言うには回路のつなぎ方と同じような感じでやればいいとのことだ。
「あ、もちろん百パーセントの力でやってはいけませんよ。初歩の初歩のときに使っていたのと同じように、百分の一の力でお願いします」
「なるほどね、わかった。ありがとうね、センドリック」
「いいえ、どういたしまして」
礼を言うと、センドリックは微笑んでその言葉を受け取った。
せっかく魔力回路の話になったのだ、定番の質問を聞いておこう。
「ところでみんなは、回路つなぐときはどんなイメージしてるの? 私は糸だけど」
話を振ると、ヒューバレルが先に食いついてきた。
「俺は、風だよー。こう、なんて言うの? 精霊と自分の中の風が混ざる感じ?」
へぇー。
「さすが風のアスウェント家」
「でしょー? 俺もそう思う。でも親父と姉貴は、レイラみたく糸だって言ってたよ」
なるほど、別にやり方が固定してるわけじゃないみたいだ。
今度はセンドリックに話を振る。
「私は水ですね。一滴一滴お互いが混ざるようなイメージをしています」
ほお。水か、確かにイメージしやすい。
キースは? と聞くとうーんと悩みだした。
「うーん、僕は……なんだろうね? わからないや」
「え、そんなことあるの?」
驚いて聞き返す。
まさか、一番最初のイメージトレーニングなしですぐに精霊と回路を繋いだって言うの。
「僕は、なんだかわからないけどすぐに精霊さんと仲良くなったよー。そのまま回路繋いだら、なんかできちゃった」
えー……こんな人見たことがない……。
これは、本当に驚いた。こんな人も世の中いるんだなあ、と感心しているとポンと両肩に手が乗った。
見ると、ヒューバレルとセンドリックの手だ。
「こいつは規格外だから。気にしちゃダメだよ」
「そうです。キースは生まれた時から天才肌というか、天才でしたから。普通の人と比べてはいけません。そんなことができるのは、キースぐらいですから」
「えー、そうなのかなぁ」
首をひねるキースに私はなるほどと頷いた。
こんな人が意外とざらにいると言われたら、心に大きな傷ができそうである。今までの苦労が脳裏をかすめた。
ぶっ倒れて、吐いた日々。コントロールがうまくいかなくて、体が吹っ飛んだり。暴走していつのまにか地に倒れ伏していたり。あの時は、兄弟子のニールが発見していなければ次の日は確実に風邪だった。目が遠くを見つめてしまう。
あれが無いなんて、なんて羨ましい。
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