第15話
「森高くん。いじめによって精神を崩された女子生徒は死なずに済んだ。それは君が見たからだ。見て行動した」
太田は森高を見る。
「君のように、正しい判断のできる善人が力を持ち、いじめを止めれば自然と消えるような気もするんですね」
「わかります。それで、答えは?」
「それはもう、心の器の大きさに合わない力を持ったことで他人を傷つける、ということではないでしょうか」
そうか。太田はその人には過ぎるものを持ったときいじめは起こる、そう言いたいのか。
「ただ、見極めるのはとても難しいですね。だからどうしても無くすことはできないんですよ。さらに言えば、過ぎる過ぎないはよしとして、自分の身を守るためには必要ですしね」
「そうですよね。全員が弱かったらこの世界はどうなっていたでしょうか」
太田はまた考える。
「まあ、弱かったら極端で、絶滅ですかね」
「冗談ですよね」
頷いて応える。
「当たり前ですよ。弱いものはそもそも生まれない。地球が生んだ命で、貴重な最高の知性を持ってこの星のためになるかと思えば、戦争などする野蛮なものでもある。正しいものか、そうでないかは、わかりませんが」
森高はお茶を飲む。
正しいのだ。人間であるから、どうしても争う。動物の本能なら仕方がないとしても、人間には考える力がある。
「そちらは、どうやっていじめをなくしますか」
「なくす? 止めるのではなく」
「はい。止めるんでなく、なくすです」
森高はとても難しい問題を与えた――はずだった。
太田は考える隙も見せずに答える。
「簡単ですよ、監視の目を広げればいいのです。隅々まで見られれば、未然に防ぐのは容易いですよ。今の技術なら出来るんじゃないですか?」
本気で言っているのだろうか?
人間全てを監視することは難しいだろうと思う。
「具体的には?」
「いや、できればの話ですよ。具体的には何も。ただ、一番わかりやすいですよ。いろいろ厳しくなれば、誰だっておとなしくなりますよ」
「じゃあ、現実的には?」
「うん。やはり、止める意志がいるだろう。こればっかりは努力しようと結果はわかりますが……」
これが現実である。
人は一人では生きてはいけない。そんな時代になったからこそ重大に捉えなければいけない。
「まあでも、森高くんは心配ないですね。もう、一人助けてますからね」
森高は頭をかく。
「それは誇りには思いません。人が死にたいと思い行動に移し、それを邪魔してしまったんですから」
「そうですか。でも命は大事にしてほしいですよね」
否定しない。他人の考えを尊重し、自殺を見過ごすよりはましだと思った。
「はい。でも……」
森高は黙る。
太田は立ち上がる。
「命があるなら、多くの人が当たると言われる壁。森高くんは、人のことをよく考えられる数少ない人」
「人間が過去に残してきたもの。それに惑わされて、君のような人が悩まされてきた。いじめを受けて死のうとする人の考えを尊重するか、命は何よりも大切であるためその人を助けるか。これは私たち大人が問題だ」
額にシワを寄せ、太田は続ける。
「これは矛盾ですね。数々の名言も、現実や他の名言と照らし合わせていると、矛盾が出てくる。努力すれば夢は叶うと言う一方、世界で活躍できる人はほんの一握り」
この矛盾を題にした持論は、いじめにも繋がるという。
「いじめはする方が悪いと言われてきた。しかし、誰が言ったか、される側にも非があると言う」
「それは……」
そうだ。よく考えれば、いじめを受けたくなければ逃げればよかった。
される側が何らかの対処をすれば済む話だった。
「でもいざ受けてみれば、対処できるかどうか、本人の心の強さによるだろう。まあ、この話は、本人を目の前にしたとき、絶対に言えないだろう軟弱者が、ネットの世界に入った途端ああだこうだと掲示板かなんかに書き込みはじめ弱いものを責める、いじめよりも質の悪い人の考えなしの言ったことだが」
すごい言いようだ。何か嫌な過去でもあったのだろうか?
「ネットの話はもう良しとして、その考えを認めてしまったら私たちは、何が正しいでしょう?」
そうだ。いじめる者もいじめられる者も悪いなら、どうすればいいのだろうか?
「まるで喧嘩両成敗……」
「いや、喧嘩両成敗……ん? もし、相手が襲ってきたとき、自衛をする。喧嘩の中には意図しないものがあるはず」
喧嘩したくないのに巻き込まれた人とか、さっきの理由などだ。
「何でも悪にするのはよろしくない」
「そうですね……」
チャイムがなる。
「すいません。貴重な休み時間を」
「いえ、いいですよ。むしろそちらはこれから何をされるんですか?」
「いや、もう帰ります。休憩にこの場を借りただけですから」
本当か……? 疑問に思ったが気にしないことにした。
「そうですか。それでは」
「はい」
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