第12話
森高の声に反応したあれら。
返しはキレ気味の女。
「何だ?」殺気じみた雰囲気を放ちながらいう。
怖っ……。これを相手にしていたのか……。
「なあ、それに殴りかかろうとか、やめないのか?」
「うるせぇ……。テメェも潰すぞ!」
さっきより出てるなぁ、殺気……。
「いやいや、それはない」
普通に返してしまった。
今度はチャラく見える男から、
「まじ、ウゼーんだけどー」
「ホント、ホント。邪魔だからどっかいって。うちら、何にもしてないし。ねー」
本当は今すぐにでも殴り飛ばしてやりたいが、ここは違うやり方で。
「してなかったら」
森高はスマホを出す、カメラを向けて。
「これを証拠に警察へ出す!これはそっちらが脅す、殴りかかる動画が今さっき出来上がった。」
スマホを振って、
「今のうちか?」
この言葉をきっかけに、いじめたやつらは、森高に向けて走り始めた。
しかし、こっちは外から話しかけたんだ。運動靴を履いている。対してあれらは履いてない。その上、うちの高校は珍しくサンダルが下履きなんだ。
追いかけるのは難しい……わけじゃない。ちゃんと追いかけてもらわないと……。
待っている、履いてくるのを。
「おい!」
来た。反射的にこっちも走り出す。
全員……いるな。
ただ、一人の女子生徒は歩いて来てるだけで、追いかけてくる感じじゃない。
でも、
「待てやっ! ゴラァ!」
うわぁー……。あれはまずい。
なんせ、本当に殴る気満々。ヤンキー学校モデルのマンガみたいなのって本当にあったのか、と内心感心してるが。
「待つわけないだろうが!」
自分の全力の走り。全く自信なし。
百メートルあたりで肺がきつく、二百あたりで横腹痛く、三百で、水泳息継ぎなしクロール五十、のようなつらさ。
ただ良いことと言えば、あっちらが追いかけてくること。この時、いつも以上(本人の感覚によると)に速くなって、息ももってる?ような。
火事場の馬鹿力。あれは本当だったのか……。
あれ?今日は日常ではないから、いつもより感心事が多くなってる?なにに対しても感動してるなぁ。
もしかして……。
「だからと言って、今日はいい日だなぁ、とか、絶対言わなーいっ!」
つい、叫んだ。
「何が言わねーんだぁ!?言ってみろよ!」
「ふざけやがってよ!」
嘘だろー!?
後ろに近づかれていた。
火事場が余り効いてない……。
「ハハッ!」
手がこちらに向かってのびてきた。
その手に捕まった者は、その全てが失われる。
「あっ!」
森高はスマホを落とした、そして財布も。
あれらは落とした物が金目のものであると思ったのか、にやけた顔をしたあと、財布を先に手に取り、中身を見るが、
「――あん……」
突如、また怒りを見せはじめる、筋肉ムキムキの男。
疑問に思い、他のやつらも見る。
「これは……許さないね……」
「へぇ……。潰されてぇ……ってか?」
と、次々に怒りを見せはじめる。
しかし遅れて歩いてきた女生徒は、
「へぇ。やるじゃん……」
と小声で称賛したのち、スマホも見て、
「ハハ……。アハハッ!」
「どうしたの?高嶺ちゃん」
「ううん。なんでもない。ほら、まだ追いかけて」
そうしてスマホを投げ捨てた。
しっかり機能したな。携帯店ならある、サンプルのスマホと、中身のない――いや、レシートだらけの財布。
走ってるだけだと、必ず追い付かれる。そんな事、主観的に考えようが客観的に考えようが、無理ってわかるだろう。
なんせ、さっきより遅くなったし、体力が持たない。
ハァハァ……!体力がもたない。
こんなことがあるだろうとわかってたから、前の日の準備は怠らなかった。ある場所にスポーツドリンクと、自転車を置いてある。
廃れた工場の裏にあるとある道に。
木が多くなっているが、林でも森でもない。
人はほとんど通らないだろう。
何としてでも逃げ切る必要がある。
急いで飲んで、乗り込み、走り出す。
行かなければいけない場所がある。
小森は、森高がいじめグループを挑発し、そこの場所から誰もいなくなったあと、指定の場所で待っているように、と言われた。
この田舎じゃあ大きい食品店――その一角にゲームセンターがある――の近くの女子トイレに入り、出る時間になるまで待つ。
その方が安全で安心だからさ……。
そう言われたので待つ。
なんでこんなにすんなり事が上手くいくんだろう。
私は、いじめられた初めは、嫌だ!って森高くんと同じように抵抗したのに……。
何が違うんだろう……。
もちろん、森高くんを信用してる。だって、止めてくれたり、話を聴いてくれる……。
とても良い人だと思うのに……。
何だか怪しいような不思議なもの。例えば、大人の女は秘密が多い、とかに近いけど、何かが違う気がする。
ピピッ。
時計の音がなる。時間になった。
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