第5話

 夕方。ここは勝負時だろう。

 自殺させられなかったんだから、再び来ることはあると思う。全然わからないけど。

だから様子を見ようと思ったけれども、そういえば、あんまりにも人と関わらないから名前もクラスもわからなかった。あと、いじめた奴等も。

 どうしようもないなと思ってたとき、ふと思った。保健室に行けばわかると。


 保健室に来たら、予想どおり、そこに彼女がいた。彼女に用はあっても、保健室に用はないので、廊下から手招きして来てもらった。

「大丈夫ですか?落ちる時、怪我とかしてたから心配で」

「大丈夫だよ。あの時はごめんなさい。それよりそっちの方が…」

「いやいや、大丈夫ですよ。なんともありませんから」

「そっか…よかった…」

「あ、聞きたいことがあったんでした」

「なに?」

「名前を教えてくれません?学年も」

「え?」

「え?」

 何か聞いちゃいけないことだったかなぁ。

「いや、私……同級生の小森こもり 四霜 よしもだけど…知らないの?」

「いや……えっ?同級生だった……のか」

 同級生だったか……!恥ずかしいこと言っちゃたなー。

「私……とりあえず、すぐにはいなくならないと思う。思い直した。森高くんとあの時会って、話したから」

 借りも返さなきゃいけないし……。

「まあ、そういうことだから」

 考え直してくれたことに、自分はほっと胸を撫で下ろす。

「それはよかった。だけど、楽しく過ごすのは、正直かなり厳しいよ?」

 しかし、小森は首を横に振る。

「話し合って、愚痴ったりするだけでも落ち着くんだなぁ、って感じたよ」

 小森は顔を下げ、笑顔で、

「ありがとう!」

 そう言った。

 まともにお礼、しかも心がこもってる。こんなもの、俺は生涯見ないだろうか。高校生風情がいうのもなんだが、心動くものがあった。希望(死ぬなって言っただけ)を与えたはずなのに、太陽の如く輝きを放つかのような表情をするもので。

(希望、見えたか……)

 完全でなくとも一筋の光が見えたなら、今のところはよしとする。

「さあ、それはよし。今は帰りを考えようか?彼らが戻るかどうか…、わからないからさ」

「いや、多分大丈夫だよ?今日はいないと思うから」

「え?」

「あの人達は、夜どこかに行っていることが多いから」

「そうか…。でも一人で帰れるか?」

「うん」

 安心した。

「もう遅いから、帰ろう。気をつけて」

「うん、また明日」

「昼休み。こっちの教室、来れる?」

「……がんばる……」

「わかった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る