サイコキネシス
◇
窓から外を確認する。女の姿は
だからといって、みすみす逃がすわけにはいかない。あの女がここに来た理由は、この国――ひいては
窓から外へ飛び出し、女のもとへ向かった。けれど、またもや女の姿が消えた。しばらく周囲を
ふと、女が屋根を見上げていたのを思い出し、そちらへ目を移す。やはり、そこにいた。ここまで来れるものなら来てみろ。そう言わんばかりの顔で、こちらを見下ろしていた。
望むところだ。すぐさま空中飛行で屋根へ上がると、女があきれ顔で言った。
「そっか。君は普通の人間じゃなかったね」
女にあせりの色は見られない。とはいえ、逃げ回っているのだから、言うほど戦闘に自信はないようだ。いつでも瞬間移動で逃げきれるということか。
ただ、それほど遠くに行かなかったのだから、瞬間移動に距離の制限があるのは確実。おそらく、自身の目が
「君の能力は何て言うの?
そう聞かれて、正直に答えるバカはいない。〈
「お前はトランスポーターの
「君はどうなの? 君はトランスポーターの仲間じゃないの?」
「そんなわけないだろ」
「だったら、何で私が見えているの?」
「……どういう意味だ?」
「だって私、今〈
やはり、能力で姿を消していたのか。ということは、魔法を無効化した時のように、〈
「それとも――エックスオアーだったりする?」
「エックスオアー……?」
「ああ、ごめん。
「僕が女に見えるか?」
「そうだよね。僕ちゃんはどう見ても女じゃないよね」
女がケタケタと笑う。人をバカにする天才か。冷静になれ。相手の
それにしても、この女は本当に人間なのだろうか。人の
「ナイフいる?」
「いらない」
女が取り出したナイフを僕の前にほうり投げ、
「そこに置いておくから、好きに使って。私はもう一本持っているから」
「いらないって言ってるだろ」
敵から渡された武器なんて気味が悪くて使う気になれない。
いや、待てよ。女には遠隔操作の能力があった。その相手の持ち物が、そばに転がっているのは気持ち悪い。
「使ってくれるんだ。じゃあ、投げ合いっこしようか」
まるでおもちゃで遊ぶかのように言った。頭が狂ってる。こっちの調子も狂う。さっさと、魔法を使ってナイフをはるか
「私から投げるわね」
そう言ってナイフをかまえた女が、すぐさまそれを投げた。とてつもないスピードだった。とっさに体をひねって、かろうじてかわす。
手首だけを使って軽く投げたにも関わらず、百キロ近い速度が出ていた。
右手をかまえ、魔法で
せまり来るナイフを、のけ
ひと安心したのもつかの
あお向けの自分目がけて、目に見えない力でナイフが振り下ろされる。何という力だ。直接手でにぎっているとしか思えない。必死の抵抗で持ちこたえるのがやっと。遠隔操作でここまでできるのか。
ふと、
望みは届いた。でも、本人が使えるなら
もはや、重力をなくすしか逃げ道はない。けれど、この状況でそれを行えば、ナイフが顔に突き
とはいえ、このままではどっちにしたって
有効範囲内にいた相手をうまく巻き込めた。
無重力空間ではこちらに
魔法で
女は最初に立っていた場所にいた。あの状況からでも、自由に瞬間移動できるのか。いや、同じ場所へ戻ったことに何らかの理由があるはずだ。
「エリア全体に
女の顔から笑みが消えた。相手のペースには乗らない。一メートル
一瞬で姿が消えた。すばやく辺りに目を走らすも、なかなか見つからない。
「やっとわかったわ。君は伝説のトリックスターね」
すぐ後ろで声が上がった。とっさに身をひるがえし、飛びすさって距離を取る。予備動作は見られなかった。いつでも思い
――ん? 伝説のトリックスター?
「まさか、こんなところにいたとはね。君の話は少しも聞かされていないわ。この国のウスノロどもに
〈
「で、どうしてこの国にいるの? やっぱり、君がしとめ
女が反応を
「何の話だ」
「記憶を失っているのね。まあ、君に
遠隔操作できるのだから、下に落ちたとしても油断は禁物だ。ただ、女は操作する時に、
今度は女が両手を上げた。そして、次に思いがけない言葉を発した。
「
いつの間にか、
「逃がすわけないだろ」
「だったら、
とっさに
「
逃がすものか。女の姿が
良いように
数秒間、女はこちらから視線をはずし、別方向の屋敷を見た。ただのよそ見とは思えない。そういえば、この場所もさっき見ていた。
あらかじめ目でマーキングする必要があるのかもしれない。確かめてみよう。カラクリさえわかれば、絶対にこちらが
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