ゾンビの身元
◇
終業時間まで
そこへ行くのは、この間、掃除に
「ウォルター、暇そうにしているの連れてきた」
「暇じゃねえよ。ぶっ飛ばすぞ」
彼女に腕を引かれているのは、
クレアが〈
「何でお前がここにいるんだ?」
「ウォルターは
「そういうことです」
ヒューゴに「ふーん」とジロジロと顔を見られる。彼から〈侵入者〉の疑いをかけられたのを思い出す。まだ怪しまれているのだろうか。
「何をする会だ」
「外世界研究会よ」
「くだらない事を始めたな」
「くだらなくないわよ」
「対策室の仕事を手伝ってないって聞いたけど?」
「顔だけなら出しているぞ。さっきも資料を
「それは手伝っていると言わないの。ヒューゴってね、昔は
「序列だのユニバーシティだのに、今さら
「やりたい
ヒューゴは侵入者対策室の
「そんなことより、お前、あの時のゾンビを覚えているか?」
「水路から出てきた
そのゾンビは僕とヒューゴで
「そうだ。あれから、ゾンビの
あの男ってベレスフォード
「何の話?」
「これから、そいつの家に行く予定なんだが、お前も一緒に来るか?」
「行きます」
「ねえ、勝手に話を進めないでよ」
クレアの
◇
レイヴン城を出た。勤務中だから、城を出るのはマズいんだけど……。この
「場所はどこですか?」
「南地区だ」
「あの男って、ベレスフォード卿のことですよね?」
「他に誰がいる」
「どうやって特定したんですか? 貴族をよそおった〈侵入者〉っていう話もありましたよね?」
「まだ
悪事に
「名前はジェームス・ウィンター。〈
北部の出身で家族との関係が
「それで、ベレスフォード卿とのつながりというのは?」
「そいつはハンプトン
単なる事故の可能性もあるけど、かすかに希望が見えてきた。たとえ、ベレスフォード卿本人が関係してなくとも、右腕の
「それゾンビの
「ゾンビのことはどうでもいい。今回の件は裏で〈侵入者〉がからんでいるかもしれない」
「そんなことより、三人で〈大滝〉へ行く計画を立てない?」
「〈大滝〉? あそこはもう行っただろ。
「今度は
「何を
「ねぇ、ウォルターもそう思わない?」
「……どうだろうね」
クレアの言いたいことはわかる。〈大滝〉は〈外の世界〉との
〈
「ついでに、リトルも
ヒューゴの表情が
「行きたいなら一人で行け。
クレアをにらみつけたヒューゴが、彼女を振り切るように
「あいつの言い方ヒドくない?」
「……そうだね」
すごい
◇
「
「
「この通りにある家は
従業員用の宿舎みたいな感じか。ヒューゴが
「俺は今すぐにでも〈外の世界〉へ行く準備ができている。
失う物がないと強い。自分もここまで来たからには引き返せない。
ヒューゴが
「人の家を勝手に引っかき回して。本当に知らないわよ」
「死人に文句言われる心配なんか必要ねえよ」
それは
ということで、
一時間近く作業したものの、結局、収穫はゼロだった。仕方なく、近所で聞き込みを開始すると、犠牲者の
「どんな奴だった?」
「
「どんな女だったか覚えているか?」
「取っかえ引っかえでした。特定の女性ではないですよ。よく
「いつ頃から、姿が見えなくなりました?」
「数週間前の話なのではっきりとは……」
「ゾンビ騒ぎがあった頃か?」
「ああ……、そうですね。騒ぎがあった頃にお姿が見えなくなりました」
「何か気になる出来事はありませんでした。
「お姿が見えなくなる一週間ほど前に、『あの野郎、散々協力してやったのに。
鼻が曲がりそうなほどの事件のニオイ。これは間違いない。関心を示していたなかったクレアの顔つきも変わった。ただ、それ以上の
「
「可能性は高くなったな。
「これ〈侵入者〉なの? ただの殺人犯じゃないの?」
自分としてはそっちのほうが
「中央広場事件のことを忘れたのか? 〈侵入者〉と取引しようとしたのが、そもそもの
詳しく聞いていないけど、パトリックもそんなことを言っていた。
「ここ最近の連中の
「じゃあ、そのデリック・ソーンという男が〈侵入者〉と
「ジェームスっていう人はそれをバラそうとしたから殺された」
ヒューゴがしたり顔でうなづく。
「でも、個人で〈侵入者〉を捕まえてどうするつもり? 変な取引をするわけじゃないよね」
「まずは〈外の世界〉のことを話させる。それから、〈外の世界〉へ連れて行けと要求する。できないなら、その場でとっちめてやるだけさ」
「〈外の世界〉へ行って何をするの? 教えてくれたら、今回の件は全部
表情をくもらせたヒューゴが、言いよどんでそっぽを向く。
「
「ああ、会って生きていることだけでも確かめたい。俺は絶対に認めない。あの人があんな事件を起こしたことも、〈侵入者〉ごときに負けたことも」
「
「今さら、そんなことはどうでもいい。ただ、〈外の世界〉へ行くためなら、悪魔にだって
クレアと感情面は
「今日のことをあの野郎や対策室に言ったら、ただじゃおかないからな」
「待ってください。何か新しいことがわかったら、僕にも教えてください。できる限りの協力をするつもりです」
「ちょっと、ウォルター。あなたまで首を突っ込む気?」
「いいぜ。あと、もし俺の姿が突然見えなくなったら、そいつに殺されたか、〈外の世界〉へ行ったと思ってくれ」
立ち去るヒューゴの背中を見送りながら、クレアが「もう手の
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