黒いマリモと高校生集団失踪事件
◇
翌日、高校にほど近い図書館に集合した。みんなとは、もう何週間も一緒に合宿しているようなもので、今や家族以上に長く顔を突き合わせている。
ただ、現実のほうで会うのは
「とりあえず、パスタの生産、販売に役立ちそうなことを
参考になりそうな本を
真剣な表情で
フロアの奥にポツンと置かれた四人がけのテーブルを見つける。近くに
持ち寄った
しばらくして、ロイがスマホをいじり出す。わざわざ図書館に来た意味が失われるけど、そっちのほうが手っとり早いのは
「やっぱり、向こうにトマトは存在しないかもな。南米
「じゃあ、トマトソース系は全部ダメなんですね」
スージーが残念そうに言った。そうなると、
「スパゲッティじゃなきゃダメなの? マカロニとかもあるでしょ」
「マカロニってあの太くて短い、たまにねじれているやつか。形を変えるだけなら〈
マカロニグラタンにマカロニサラダと目にしないことはないけど、確かに、マカロニを含むパスタが、いつの間にかスパゲッティの代名詞になっている。
「でも、マカロニならフォークでなくても食べられるでしょ」
「……それは
「じゃあ、マカロニ関連のレシピ本も探してきます」
スージーが元気よく席を離れる。
「商売として継続させるなら、ある程度
「パスタのついでにフォークを売るのはどうでしょう」
「それはおもしろいな」
軽い冗談のつもりで言ったけど、思いのほかロイに好評だ。すぐさま、ロイがスマホで調べ始める。
「おっ、フォークはスパゲッティを食べるために発明されたらしい。どうりで、存在しないわけだ。でも、すぐにマネされそうだし、
特許制度の歴史は結構古いという話だけど、きっちり制度が
「おっ、凄いものを発見したぞ」
ロイがスマホの画面に目を落としたまま、驚きの声を上げる。
「
「スパゲッティにパンをかけて食べるんですか……」
「
「ニンニクなどで
「パセリとか、適当なハーブで
◇
「気になったんですけど、向こうに図書館みたいなところはないんですか?」
「そうだな、あるなら行ってみたいな。学長の
ロイとスージーの視線が城内を知る僕らに注がれる。存在するなら、レイヴン城内か、大学みたいなところか。図書館的な
「本の置かれた場所ならたくさん知ってるけど、まとまって置いてある場所は見たことないかな。少なくとも、自由に出入りできない場所にあるんじゃない」
「そういえば、学校みたいなところもありませんよね。学生っぽい集団を街で見かけたことありません」
「年をとらないなら、同じことの繰り返しになるからな」
「その代替がアカデミーなのかもね。私達ぐらいの若い子もいっぱいいるし」
他の三人は何ともないのに、自分だけ異世界の話に加われない。
「どうして、お
不思議そうに僕を見つめたコートニーが「紙に書くこともできないの?」とノートを差し出した。ついでに受け取ったシャーペンをかまえる。
「何を書きましょうか」
「とりあえず、異世界で
「私達に秘密で買ったものがあったら」
ロイのはともかく、コートニーのは何だろう。基本的に買い物はみんなで出かけるけど、
そんなわけで、
「どっちも書けませんよ」
「じゃあ、ダイアンへの想いを書いてください」
「昨日の夕食のメニューを書きます」
基本ごった
心ならずも『何も書けません!』とみんなから見えるように
「君は呪われているのか。いずれ、僕らも君みたいになるんじゃないだろうな」
不安を
「僕達を向こうへ連れて行ったのは君だが、君を向こうへ連れて行ったのが誰か判明していないからな。やはり、君が運動公園で見つけた黒いマリモだろうか」
「覚えていないんですか?」
そう言ったスージーに『覚えてません』と引き続き
「この間君の部屋で見たあれは、まだあるのか? ほら、引き出しに黒い煙が
『まだあります。減っても増えてもいません』
「紙に書けるってことは話せるってことじゃない?」
言われてみればそうだ。実際、現実の話だし。以前も耳にした黒いマリモの話はさっぱり思い出せない。運動公園を
「ますます、アレが怪しいな。例の高校生集団失踪事件と
ロイの表情が
「私達戻って来れなくなるんですか?」
「可能性の話だよ」
「ウォルター、責任取ってください!」
「そんなこと言われても……」
「受験のこともあるし、僕はいっそのこと向こうで暮らし続けたいよ。年をとらないところが何より
「結構、
今まで考えたこともなかったけど、あの街にいる能力保持者はパトリック以外いない。しかも、平民の身分で
「でも、学長は現実の話をしても感心するばかりじゃないか。とても現実で暮らしていた人間とは思えないな」
パトリックは現実の話を聞きたがる。
「コートニーは失踪事件に
「詳しいってほどじゃないけど、有名なルポなら読んだわよ。失踪した五人は四つの部活に
一緒に運動公園へ出かけたのが失踪前日。当日は五人とも普通に登校してきて変わった様子はなかったらしいわよ。
それなのに、放課後になった
「よく知らなかったけど、そこまでエキセントリックな内容だったのか」
「ビックリするぐらい謎めいていますね……」
この話には参加できる。初めて知る内容だけど、
「僕達と似ているといえば似てるが、いなくなったのは運動公園へ行った直後か。コートニー、写真とか見たことないのか? 名前でもかまわないんだが」
「私が読んだルポには
「高校生だし、事件を起こしたわけではないからな。ただ、十数年前とはいえ、相当騒ぎになったみたいだし、ネット上に
この後、カーニバルまでに
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