ボーナス1日をさしあげます!
ちびまるフォイ
ボーナスゲートの悪質利用者
「はぁ……今日も疲れた……」
夜遅くまで仕事をした帰り道でゲートが現れた。
虹色のゲートはみるみる小さくなって消えてしまった。
「なんだ……あれ」
翌日、昨日見たゲートの話を後輩にしたところ驚かれた。
「先輩! それボーナスステージですよ!! もったいない!」
「ぼ、ボーナスステージ?」
「1日を頑張った人にだけ現れるボーナス1日なんです!
どうしてゲートに入らなかったんですか!」
「いやぁ、冒険とか苦手だし……」
「そのくせ宝くじ前買ってたじゃないですか。うそつきですよ」
「ほっとけ」
昨日見たゲートは一日のボーナスステージだったのか。
ボーナスとはいったい何があるんだろうか。
「それじゃ、お先に失礼しまーーっす。先輩も頑張って」
後輩が帰社したあとも必死で仕事をつづけた。
昨日よりもずっと無理をして働くと、帰り道にゲートが現れた。
「やった! ボーナスステージに行ける!」
今度は迷わずに飛び込んだ。
まぶしい光が視界を包み頭の中で声がする。
『あなたは今日をよく頑張りましたね。ボーナス1日をあげます。
再体験したい1日をもう一度追体験させてあげましょう』
「追体験……? いつでもいいんですか?」
『はい、いつの体験でも構いません。
その代わり、あくまでも追体験なのであなたの自由は効きませんよ』
「それじゃ……俺がコンクールで入賞した日を追体験させてください!」
光が晴れると、体は小学3年生の姿になっていた。
(すごい! 過去に移動したんだ!!)
ただし声を出すことも自分の意思で動くこともできない。
体は過去に体験した通りの行動をリピートしていく。
きっと未来に影響を及ぼさないためのものなのだろう。
「みなさん、今日はうちのクラスの山田君が
市内のコンクールで入賞しました! これはすごいことです!」
「山田すげーー!」
「山田君、絵上手なんだね!」
「や・ま・だ! や・ま・だ!」
「えへへへ……」
なんのとりえもない俺にとって、みんなに褒められるのは嬉しかった。
それは大人になっても同じことだった。
(あのときの気持ちも感動も、そのままに体験できるんだ!)
幸せな気持ちになった1日を追体験できて大満足。
翌日からさらにバリバリ働くようになった。
「先輩、そんなに頑張って大丈夫です? 過労死しますよ?」
「いいや! またボーナス1日を体験するためだからな!!」
必死に今日を努力し尽くせばボーナス1日は体験できた。
RPGをはじめてクリアしたときのあの感動。
大好きな映画をはじめてみたときのあの衝撃。
はじめて好きな人ができたときのあの気持ち。
なにもかも新鮮な気持ちで追体験できた。
「ボーナスって最高!! このために毎日頑張ってるぜ!!」
毎日頑張る理由ができて、日常に潤いが生まれた。
何度もボーナス1日を体験するうち、ふと疑問が生まれた。
「未来にも……いけるのかな?」
その日、ボーナスゲートに入って試すことに。
『さぁ、今日はどの1日を追体験しますか?』
「未来でめっちゃ楽しい1日を追体験させてください!」
ゲートの光が晴れると目の前には未来の世界が待っていた。
(すごい! 過去だけじゃなく未来も体験できるんだ!!)
こちらも過去動揺に干渉することはできない。
それでも"めっちゃ楽しい未来の1日"に偽りはなく
ごちそうを食べまくり、欲しいものを買いまくりの豪遊する1日だった。
(こんな1日があるなんて! もう最高!!)
日常のあらゆるストレスを発散しまくってボーナス1日が終わった。
豪遊しているときには幸せな気持ちで気づかなかったが
未来にいけるということから悪い考えが浮かんだ。
「そうだ! 未来の情報を持ち帰れば大金が手に入るはず!」
ボーナス1日を追体験をしている間は、世界に干渉することはできない。
でも、ボーナスが終了してからは何をしても自由。
きっと豪遊した1日も、俺が未来の情報で大儲けした先の未来にちがいない。
「よっしゃーー! 絶対に未来の情報を持ち帰ってやる!!」
翌日、ボーナスゲートを出現させるためになおも追いこんで1日を過ごす。
もはや恒例となったボーナス1日へと飛び込んだ。
『さぁ、今日はどの1日を追体験しますか?』
「そうだなぁ。いろんな変わったものを見た、未来の1日を追体験させてください!!」
光が晴れると、パソコンの前に座っていた。
しかも画面には新型のロボットが開発されるニュース。
(これだよ! こういう未来の情報が欲しかったんだ!!)
未来の競馬結果でも見られれば大儲けできるかもしれないが
未来のアイデアのひとつでも十二分に大儲けできる。
その後も、未来の俺が見た新しい未来情報を収集しては脳裏に焼き付けた。
ぜったいに忘れないように深く心に刻んでボーナス1日を終了するとき声が聞こえた。
『悪意を検知しました。
あなたは未来の情報で悪いことを企んでいますね』
「そ、ソンナコトナイデスヨー……」
『以降、あなたにボーナス1日は提供しません。さようなら』
「えええ!? う、うそだろ!?」
ボーナス1日はもう体験できなくなった。
しかし、もう過去や未来を追体験する必要はなくなる。
俺はすぐに見聞きしたアイデアを売り込むことにした。
「……というわけで!!
未来にはこういうロボットが開発されますから、
先に開発することであなたの会社は大儲けできますよ!!」
「はぁ……」
「もちろん、それなりの報酬はいただきますよ?」
未来で得たたくさんの情報や知識。
これをお金に変えれば追体験で幸せを感じなくても現代が幸せになるはず。
新開発する企業の株でも買っておけば大儲けだ。
「ほら、早く決めないとほかの企業に売り込んじゃいますよ~~?」
「あの1ついいですか……?」
「報酬の条件ですか? 伺いましょう」
「なんでうちの会社のエイプリルフールのネタ知ってるんです?
まだ社員にも公開してない情報なのに……」
「え゛」
エイプリルフール……?
まさか、俺の体験した未来の1日はエイプリルフールだったのか。
「うそだあああああ!!!」
ボーナス1日を失ったあげくに、未来の情報はすべて嘘。
過去も未来もいけなくなり待っているのは味気ない現代。
「悪いこと……やるんじゃなかった……」
自殺をも考えるまで落ち込んだ俺に家族から電話がかかってきた。
『あんたの宝くじ買ってたよね!? あれ等当たってる!!』
「うそ……!?」
宝くじが当たったその日、俺はあらゆるストレスを発散するように豪遊した。
本当にめっちゃ楽しい1日だった。
ボーナス1日をさしあげます! ちびまるフォイ @firestorage
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