第2話 目覚め

「……ん、んん」

眩しい。何だ?

「ん?」

俺は身を起こした。見知らぬ部屋で、布団を被って寝ていたのだ。

どうして? 俺は海に突っ込んだはずじゃ……

部屋を見渡すと、黒い男子学生服が掛けてあった。

日本人の家? という事は何処かに流れ着いたのか?

ベットの真横の、カーテンが半分開けられてた窓から外を見た。

瓦葺かわらぶきの家々が見えたが、壁材に木板など一軒も使っておらず、モダンな造りであった。大小様々なビルヂィングも垣間見える。

激戦地の沖縄ではない事は確かだ。日本とも似つかわしい。ならば台湾。もしくは、上海の日本人居留地。

ふと、身体を見渡したが、何処も怪我は無いようだ。かすり傷さえ無い。不思議な話だ。

「助かったのかー」

と、俺はベットの上で胡坐あぐらをかいた。

何だか全身の力が抜けた。

トントントンッ、と軽い足音で階段を駆け上がる音が聞こえた。

誰か来る! 俺は身構えた。ドアが乱暴に開けられる。

「お兄ちゃんっ! いい加減、起き……あれ、起きてるじゃない。もう!」

目の前に現れたのは、齢十二、三の娘であった。此処の娘さんらしい。両お下げの可愛い顔であるが、言葉遣いが荒々しい。

「お母さん、激オコよ。早く下に降りて来て、ご飯食べてよね」

「あっ、もし」

バタンッ、とドアが閉った。

階段を降りる音が、トントントン、とやがて聞こえなくなった。

ゲキオコ? ゲキオコとは何だ? 此方こちら独特の言い回しか?

まぁ、いい。兎に角、下に行こう。腹も減っているようだし。

外地の朝飯はどんな物だろうかと想像しながら、俺はベットから這い出た。

ドアを開けて、階段を降りた。

目の前は洗面所。右手のドア越しに、先程の小娘の声が漏れ聞こえる。朝飯はそちららしい。

俺は顔を洗おうと洗面台の前に立った。蛇口をひねろうと手を伸ばしたが、

「っ!……」

と、言葉を失った。

鏡に映る姿が自分ではない。中学に入りたての、いや三、四年生のぐらいの全く見覚えの無い少年の姿が映っていた。

顔に右手を添えたが、鏡の中の少年も左手を顔に添える。全く同じ動きをする。

何だ? どういう事だ?

蛇口を捻り、顔を洗ったが、やはり少年の顔のままだ。

これは夢なのか?

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