第7話。外交がしたい

「ホーエンツォレルン選帝侯から代表として外交に来ました。」


GMと名乗る男は外交しに来ました、と皆の前で言うのであった。

昨日オフ会の参加を希望したいと言ってた気がするのだが、こっちがきっと本命なのであろう。


「で、何しに来たんや?」


「あ。。だから外交で。。」


「だから何しに来たんや?」


GMと名乗る男は手で顔を覆うと黙り込んでしまった。会議は静寂に包まれていた!この人本当に何しに来たんだろう・・?


「黙ってちゃ解らんやろが!何とか言えや」


「う」


再びGMと名乗る男は黙り込んでしまった。気まずい。。なんとも気まずい空気が流れている、適当に質問をして場を和ませよう。


「あの!ホーエンツォレルン選帝侯ってあまり存じないのですが教えてもらえませんか?」


GMさんは顔をぱっと輝かせていいよ!と教えてくれた。


「ホーエンツォレルン選帝侯ってのは中央諸侯国群の北部に居る勢力で、今俺が所属している諸侯なんだぁ~。」


なるほど。。あまり情報が伝わってこないので後で教えて貰うとしよう。


【設定③世界の勢力図が更新されました】


「ユキマサさんが怒るからつい気まずくなってさぁ~」


「それは、すまんなヨシちゃん。ワイが悪かったで」


「チッ、おいヨシちゃん。オフ会の参加希望の話じゃなかったのかよ?」


「あ、そうそう。外交を口実にそっちがメインで来ました~」


あ、そっちが本命で外交が口実なのか。。

うーんなんかこの人残念そうな感じのする人だなあ。


「それならそうとはよ言えや!別にオフ会くらい参加しても問題ないやろ」


「まじ?良かったー。最近さこんな俺でも彼女が出来てさぁ~。亡命先の国の彼女の連れ子がまた可愛くってさぁーー。皆に紹介して自慢したいんだよね」


「ヨシちゃんそれ騙されとるで?ハニートラップやろそれ」


「まじ?まぁ。。彼女の居ない連中の言葉だしなぁ」


ワイは普通に彼女居たから、とユキマサさんの抗議の声が聞こえてきました。

でも私もそれ騙されていると思います。


「まぁ、場が和んだところで本題に入ると俺は”コミンテルン”を使って自分達の優位な状況になるように動かしたいから、今回は情報を流しに来た」


「なんやねん、オフ会の話が本題じゃないんかい。その手の話は直接国に言えばええやろが」


「ユキマサさん王国の連中じゃ情勢は動かないよ、”マルティン”という男を調べてみろ。今この男はホットだ」


GMさんはニヤニヤとしながらそう言うと、会議を後にしようとしてドアに手を掛けた。


「あ、そうだユキマサさん。黄金は良いよ?儲かる、儲かる。さっさと海賊やって黄金を奪わないと”コミンテル”の連中は全員その内”死ぬ”だろうね」


ククク...。と含み笑いをしながらGMは去って行った、会議内は暫くの間静寂に包まれていました。


「ユウタ、中央諸公国群の情報とホーエンツォレルン選帝侯とマルティンについての情報を仕入れてくれないか?」


「チッ、わかった。」


「ユキマサさんはヘンリー級とメアリー級(1500tと700t級のキャラック船)を中心に数を揃えてもらえないかな?海賊をやるかやらないか情勢を見極めてからにしても数は欲しい、交易船での運用にも使えるしね」


ヒロトさんはユキマサさんとユウタさんに指示を出していました。

この後二人は会議を抜けて数か月間姿を見せなくなってしまいました。

ヒロトさんに会えないのは寂しいですがお仕事なのでしょうがないと割り切ります。



暫くの間私は連隊の訓練に明け暮れてました、そして思い知らされることがありました長弓ロングボウは恐ろしく強いと言う事を。

私は主に農民の訓練をしているのですが、このTudor王国民の長弓ロングボウに対する技能と情熱には本当に驚かされています。

180㎝くらいの弓を1秒間に3連射出来るのは当たり前、300メートル先の的に命中させることなど普通のレベルだったのです。


ある農民の1人が私に自慢げに特技を見せてくれました、まずコインを3枚投げます落ちきる前に3枚とも矢で3回射抜いたり、1回で射抜いたりと。

それに曲射トリックショットという技も見せてもらいました、壁越しに撃った矢は壁を逸れて目標を射抜いたり、目標の目の前に障害物があれば矢がカーブしてそれを逸れて射抜いたりします。

これで街に敵が来てもへっちゃらさ!と自慢してくれました、しかも全ての矢はチェインメイルを貫通する威力がありました。


そんなこんなで毎日訓練をしていきました、近々Valois王国との戦争が決まっていたので私はこの連隊の強さを早く確かめてみたかった。


幹部会議に参加した私は、久々にユキマサさんとユウタさんを見ました。今回は彼らの報告が会議の中心になるそうです。


「では、会議を始めようかユウタ報告を頼む」


「ああ、まず中央諸公国だがどうして今まで気づかなかったんだろう?ってぐらい全体的に変化していた」


「まず1つ。中央諸公国内の物価がここ数十年で恐ろしく高騰していた、例えば金貨80枚で買えたキャラック船が、今じゃ240枚以上かかる位の強烈な物価上昇だ」


「ユウタ原因は何だ?」


「チッ、新大陸の金銀財宝さ!Aragon=Hapsburg帝国が新大陸で奪い取った金銀財宝が、ほぼ全てHapsburg諸公国を中心に中央諸公国に流通されていたのさ」


「「は?」」


「チッ、いやよく考えると不思議な話でもないんだ。俺達は今まで旧Aragon王国と”上総学園”が新大陸の財宝を独占していると思い込んでいた、そりゃあそうさ!直接奪い取ってるのはAragon王国側の人間なんだからさ。」


「もしかして、カール5世の指示か?」


「そうさ!現在のAragon=Hapsburg帝国はHapsburg諸侯国との2重帝国である、カール5世が統治している。カール5世は中央諸公国側の人間だ、皇帝位の投票権欲しさに金をばら撒いたり自身の威光を高めるために公共事業やら軍事費に派手に使いまくっている」


「つまりAragon王国が財宝を運び出し→Hapsburg諸侯が財宝を手に入れ→その末端諸侯が消費しまくっているのが物価上昇の原因か」


「ああ、中央諸公国の報告については以上だな」


議会がざわめき始めました、今まで思っていた事が事実と反していたためにきっと皆動揺したのでしょう。

でも財宝や物価上昇がいったい私達の何に影響が出るのか私にはさっぱりでした。。


「ユウタ、マルティンという人物についての情報は?ヨシちゃんの情報だ、嫌な予感しかしないのだが。。」


「ああ、マルティンというやつは宗教家であり思想家だな。良く居る自分が調べた教義の内容が実際の教義と反するとの事で、今世間を騒がせているやつさ」


「そこまで危険な感じはしなさそうだな」


「ああ、正直このマルティンの何がホットなのか俺にはさっぱりだ…。こいつの情報を探ってみたら、ホーエンツォレルン選帝侯から大々的な支援を受けていることが判明した。当然裏でヨシちゃんが動いているんだろうさ」


「俺の報告は以上だ」


宗教かぁ。。どれも私達には関係なさそうな話だなぁでも、ここの人達って皆宗教に対する信仰が熱いんだよね。私もこんな”異世界”が存在するくらいだから神様をこの世界に来てから自然と信じるようになってしまった。


「ではユキマサさんの報告を聞こうかな」


「ワイは、注文通りにキャラック船を仕入れただけやで?けれど面白い話し合ってやな」


「面白い話?」


「せやな、普通は船を購入したら資金が減るやろ?けど今回は船を大量に購入しても逆に資金が大幅に増えたっちゅう話やで」


「すまない話が良くわからないのだが・・」


「商人達が無利子、無期限、無保証で貸してくれたんやで。もし資金がショートしても返さなくても良いって言うんやから借りる以外の選択肢はないやろ」


「それは貸す側にメリットがあるのか?」


「ワイも流石に気になって聞いたら、GM様の言う事だから必ず儲かるって話らしいでワイはユウタの話を聞いて納得したわ。アイツら金が余ってしょうがないんやろ」


「ホーエンツォレルン選帝侯やヨシちゃんとのコネが目当てなのか?まぁ悪い話じゃないな」


「今後世界中で物価上昇の波が来るっていう商人の話やからな、ワイは今回市場の船をほぼ買い占めたで。ヘンリー級30隻、メアリー40隻。フリュート級180隻(積載をメインにした商船)を今回購入したで」


「そんなに買っても維持できないと思うのだが・・」


「ワイらの資金は今やTudor王国の国庫の2倍以上あるで!数百年は余裕で維持できるんやぞ、流石に船員が足らないから運用はまだまだ先やけどな。ワイはこの大船団で交易王になるんや!無敵艦隊アルマダインベンシブルなんか敵じゃないで!」


こうして幹部会議が終わった。何やらこの先、大きな流れに巻き込まれそうな感じなのですがそんな事よりも私は自分の出来ることに集中したいと思います。

次回のValois王国との戦争です。



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