第6話 気晴らしに恋愛がしたい

狩りが終わって、即解散!というわけではなかった。


何日も語り合ったり、遊んだり、飲み合ったりと狩猟場ハンティングとは貴族達やそれに付き従う兵士にとっての社交場(コミュニケーションの場)であった。



「勇者ホールドよ、お前に金貨30枚やろう!魔王を討伐してまいれ」


”コミンテル”のメンバーに揶揄からかわれているホールドさんが苦笑いをしている、その中にはホールドさんを”勇者”に称したヘンリー8世殿下もいらっしゃいました。


「”コミンテル”よ魔王とは何者だ?」


「陛下、魔王とはフランソワ1世(Valois王国の王)の事でございましょう?」


「成る程、では勇者ホールドよ。フランソワの首を俺に献上してこい」


「(え?、いやそれは。。。ちょっと。。)」


「なに、本気にするな」


ヘンリー8世はニヤっとしながら笑う、所謂いわゆるブラックジョークで有った。

雲の上の存在である王ですら気軽に話ができる環境が、狩猟場かりばには有った。

同じ戦場で共に駆けた戦友としてヘンリー8世は、"コミンテルン”を認めていたのだった。


「陛下、”コミンテルン”の代表者のヒロトと申します。是非とも我々の願いをお聞き届け頂きたく」


ヒロトさんは嘆願書たんがんしょをヘンリー8世に手渡した、ヘンリー8世はその巻物状の書状を受け取りめくって行く。

だが、段々とヘンリー8世の顔つきが変わって行き、眉間にしわを寄せ始めていた。

誰かが無茶しやがって…。とつぶやくのが聞こえた、先程の和やかな雰囲気が明らかに剣呑けんのん(不安な)とした雰囲気に変わって行ったのを肌で感じる事が出来た。


「”コミンテルン”のヒロトよ、狩猟ハンティングの貢献により俺はこの書状に目をつぶろう、この件は忘れよ。」


ヘンリー8世は大股で歩きながらその場を去っていった。


「いやぁ~。死ぬかと思ったw」


「ハァ、だから俺は言ったんだ、ヘンリー8世の嫁の家に海賊を仕掛けるのを許すバカはいないって」


ヒロトさんとユウタの2人が言い合いを始めながら、こうして狩猟ハンティングが終わった。



”異世界”で生活した年月はあっと言う間に過ぎていき、もう数十年が経過していた。


数十年経ってもここでは、私はまだ新入り扱いだった。

レベル5(500年)で半人前、レベル10(1000年)の経験で一人前と認められる完全に実力主義の世界でもあったのだ。


そんな中で新たに新設された長弓ロングボウ第2連隊の連隊長として私が指名された。

新設された連隊を新入りである私と一緒に成長させて欲しいとの事であった。

だがこの部隊は問題児だらけであり、私の指示を聞く物は誰もいなかった。

この連隊の内訳はこうだ。


元騎兵連隊から転属されてきた500人の騎兵


元長弓ロングボウ第1連隊から志願してきたエリート弓兵500人。


地元民の元農民1000人。

からなる総勢2000人の集団であった。


「いいか、俺達騎兵は馬から降りないし、あんたの指図も受けねえ」

ぺっと唾を地面に吐き捨てると、皆一様に”ホールド”さんか”ショウゴ”さんの指図しか聞かないと言うのだった。

正直手に余りすぎて困った私は、ショウゴさんに相談をしていた。


「騎兵が馬から降りないのですが…。」


「そりゃあ。。そうでしょう。。」

ショウゴさんわく騎兵は誇りと自尊心が強く、死ぬまで馬から降りる事は無いとのこと。


「あの、私より他に優秀な人間を連隊長に指名した方が良いのではないでしょうか?」


「んん。。?リサさんは俺達が優秀な人間だと思ってると。。?とんでもない。。俺達は皆社会では無能な落ちこぼれだよ。。」


ショウゴさんに補佐役として塩川さんを付けて貰った、彼は温厚で人柄が良かったので連隊の体裁ていさい役(相手を喜ばせてやる気にさせる役)として動いてもらい何とか最低限の形だけにはすることが出来た。


しかし、騎兵とElite長弓ロングボウは全く指示を聞かないので、もうこの際好きにさせることにした。

騎兵のリーダーをルニという男に選び、この男に騎兵の統率、運用などのすべての責任を押し付けることにした。

Elite長弓ロングボウのリーダーにはニコライという男を選んで好きにさせた。

この投げやりで放任主義的な選択がいい方向に向かえばいいと私は信じた。



正直毎日の仕事でのストレスと連隊長という役職を押し付けられてからの、訓練や運用方法での日々の葛藤かっとうでストレスがヤバかったので、息抜きと気晴らしをすることにした。

私の息抜きと気晴らしは”恋愛”であった。

狩猟ハンティングの一件以来私はユウタさんにベタ惚れしていたので、何度もアタックして一緒に遊んだり(自称デート)を楽しんでいたのだった。


「ユウタさん一緒に遊びに行きましょう!」


「チッ、またか。。しょうがないなぁ」


毎回イヤイヤながらも付き合ってくれるユウタさんは、きっと私の事が気になってるに違いない!私はユウタさんをきっと落して見せる、”女が動かねば男は動かない”私の格言であった。


今日のプランは街を散策→馬での散歩と森林浴である。


何やら人だかりが出来ていたので覗いてみましょう!と誘って人だかりの方へ行って観る事とした、どうやら漂流者が処刑される処刑ショーであった。

初めは怖かったけど段々と慣れて行ったら、実に癒しとなる空間でもあった。


あそこで処刑されている人間にならなくて良かったと思う”安心感”と、大抵処刑される人間は”支配者層”か頭のいい”エリート層”で有った為に、良い思いした連中が落ちこぼれていく瞬間が観れるのは実に気分が良い。

首が落ちていく瞬間に周りの観衆からは歓声と笑顔が沸き起こった、この感覚はこの空間に居ないときっと得られないものなのでしょう。


適当に街を散策した後は馬での散歩である、基本的に”異世界”の道路などは未整備なので道なき道や原生林を進むには馬が一番最適であった。

馬で原生林を歩くのは凄い癒しがあり、小さな川や丘を軽々超えていく馬の強さには感動すら覚えてしまう。

馬は乗っていて最高に楽しかった。


草原風景が広がる適当な小高い丘で腰を下ろして、暫く二人で周りの風景を眺めている。

時折吹く風が顔を撫でて心地いい。

私はユウタさんの腕にガシッとしがみつくのだ、ユウタさんはかわいらしいく実にいい匂いがするので、私の癒しだった。


「なあ、リサはどうしてこの”異世界”に来ようと思ったんだ?」


「初めはお金が目当てでしたけど、でもこの世界への好奇心が有りました」


「カネかぁ、帰還出来たら結構な額の支援金が財団から支払われると思うぞ。」


お金が支給されると聞いて結構嬉しかった、お金は無いよりあった方が嬉しい。


「この世界でやってくにはカネ以外の何か”目標”が必要なんだ。あっち(地球)の世界のカネなんて正直皆どうでも良くなっちまうしな」


ユウタさんはそれを言うと何か考えるように黙り込んでしまった、遠くを風景を眺めながら何を考えているのか私は知りたくなった。


「ユウタさんが今何を考えていたか知りたくなっちゃいました!教えてください」


「え?まぁ、あるやつの事を考えていてな」


「え?私の事ですか?」


「チッ、違う。知り合いなんだが、この”コミンテルン”の創設者で6人目の元幹部の知り合いの事だよ。アイツ生きてるのかな~?っておもってさ」


私は、ハァなるほど。と相槌あいずちを打って考え込んでしまった、まさかユウタさんは付き合ってる女性か思い人でもいるのでは?と不安になってしまったからだ。


「なに?ユウちゃん俺のこと考えてたの」


突然別人の声がして思わずびっくりして振り向いてしまった、何でこんなところに人がいるのかわからなかった。


「いやぁ~偶然だね、ホント”偶然”久し振り」


「チッ、何が偶然なもんか。こんな辺鄙なところに偶然居合わせる奴がいるか」


その人はユウタさんの右に腰かけるとそのまま座って黙り込んでしまった。何しに来たんだろうこの人。。?


「おい、ヨシちゃん何しに来たんだ?」


「いや。。俺さ人見知りなうえにまさかユウちゃんがデートしているとは思わなくてさ。。ショックと気まずさで死にたくなってきた」


「チッ、いいから要件を言えって」


その人はあぁ…。と言いながら手で顔を覆いながら、再びまた黙り込んでしまった。そして暫くしてから口を開いた。


「いやさ。。そろそろオフ会の次期だろ?俺も参加したいんだよ!頼むよーーユウちゃん」


「いや、それは別に構わないと思うんだが。俺に言わないで皆の前で言えばいいだろ?たまには顔を見せに来いよな」


「いや。。だってよ~最後にユキマサさんと喧嘩別れっぽくなったじゃん?気まずくってさ」


「普通に気にしてないと思うぞ?いつもの事だしな」


その人はそっかー。と言いながら馬に乗って去って行った。

えっ?これだけの為にわざわざこんなところまで来たの?ある意味驚いた。。


その日の自称デートはお開きとなり、次の日の幹部会議の中にその人は居ました。



「えー。。あー。。殆ど知り合いばっかりで挨拶するのもどうかと思うんだけど、どうも俺の名前はGM。ホーエンツォレルン選帝侯を代表して外交しに来ました」








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