3-16:Unwanted visitors-招かれざる客-
親父たちを置いて、一足先に村の入口まで駆けていくと、思っていたよりもひどい光景が目に飛び込んできた。
オレは、剣を手にしている真っ黒な鎧を纏っている背の高い男に向かって駆け寄った。
鎧の男の後ろには、朝に来たやつらと同じような連中がいる。そいつらは馬に乗ったまま待機しているようなので無視をする。
「てめぇ……よくも」
黒い鎧の男の懐に入る。そのまま手にしていた小型の斧を振り上げて、男の脳天を狙った――はずだったオレの斧は宙をビュッと鋭い音を放って空振った。
右か……と気配を感じるままに斧を薙ごうと力を入れた瞬間、オレの視界はグルンと回転し、背中を硬いものに打ち付けたみたいで痛みが走る。
何が起こったのかわからなかったが、男の鎧と空が同時に視界に入ってきてオレは自分が地面に倒されたことに気がついた。
慌てて立ち上がり、武器を構え直す。
タンっと後ろに飛び退いて、距離を取った鎧の男に向かって勢いをつけて斧を振り下ろした。
鎧の男は斧刃の側面に手を当て、そのまま滑るように武器を辿って距離を詰めてくる。
人間離れした動きに戸惑いつつも、斧を握る右手を放し、空いていた左手で相手の頭を狙って思い切り振り抜く。
ガインと硬い金属が転がる音がした。
オレの拳が相手の兜にうまく当たって外れたらしい。鎧の男の顔をまるごと覆っていた真っ黒な兜が、雪の上に転がる。
「……ほう。一撃を貰うとはな」
兜の下から現れたのは、青白い肌をしたウサギの毛のように白い髪をした男だった。見開かれた大きな瞳はカティーアと似たような血のように紅い色をしている。
細い顎と首のせいもあって女と見間違えそうなほど美しい。
鎧の男は再びオレから距離を取ると、背負っていた剣を鞘から抜いた。それは透き通るような薄さの……まるで泉に張った氷を取り出して作ったような刃をしている。
「――ッ」
刃の美しさに見とれている場合ではない。男は抜いた剣をまっすぐオレめがけて振り下ろしてくる。
なんとか見える太刀筋をギリギリで避けているにも関わらず、刃がかすめた場所には鋭い痛みが走り、傷が熱を帯びて熱くなる。
流れるような動作で剣を振っていた男が、不機嫌そうな顔をしたまま動きを止めた。
大きな怪我をしていないはずなのに足から力が抜ける。膝をついてやっとのことで立っているオレを、鎧の男は見下ろした。
小さく溜め息を吐いて眉をひそめた鎧の男は、剣の切っ先をオレの鼻先に突きつける。
「ジェミト!」
「誰も来るな! オレが片付ける」
駆け寄ったシャンテに気がついて、思わず怒鳴った。
鎧の男は、オレの鼻先に向けていた剣の切っ先の狙いを喉元に変えながら、周りをぐるりと視線だけで一瞥する。
「……我々は殺しをしに来たわけじゃない。その証に、今の所誰の命も奪ってないだろう? 全く……皆殺しのほうが余程楽だというのに」
鎧の男が、やっとまともに口を開いた。
淡々としたその声はなんだかやけに乾いた印象を受ける。
喉元に剣を突きつけられているけれど、多分あいつは油断している。
多少怪我をしてもこのくらいの傷ならすぐ動けるようになるはず…。今は確実にやれるチャンスを見計らえ……と今にも相手に飛びかかりたい気持ちを抑え込む。
「前々からこの村のことは多めに見ていたのだが、魔法院も人員不足でな。妖精との
妖精との
村の奴らにもバレるわけにはいかないのに、魔法院のやつらにシャンテが見つかったらなにをされるかわからない。
元より魔法院に協力するわけにはいかないが、ますます協力するわけにはいかなくなったな……。
「人員を引き渡すとまではいかなくとも……ここ最近、魔素の異常な活性化に関する原因調査にだけでも協力してもらわないことにはこちらも引き下がれない。偉大なる英雄カティーア亡き今、我らは上層部からの任務を全うしなければならないのだ」
鎧の男が、親父のところで視線を止める。
村民の引き渡しを直接交渉をしにいくつもりか?
「残念ながら、ここは辺境の田舎町だ。そんな大層な人材いるはずねーだろ」
意識が親父に向いている今がチャンスだ。
オレは足元の雪を蹴り上げて魔法院の男の顔に当てる。
男が手で雪を防いだ隙にオレは、地面を蹴って転がってその場から離れる。そして、親父と鎧の男の間に割り込むように立ち上がる。
まださっき切りつけられたところは痛むけど、動けないほどじゃない。
「一応殺しはするなという命令だが……
男は手についていた雪を払うと「はぁ」と溜息をついた。
さっきまでとは違って刺すような殺気が漂っている。アレで本気を出してなかったのなら、多分この場でこいつと戦ってもオレに勝ち目はない。
それでも退くわけにはいかない。親父も険しい顔をして斧を握りしめで目の前の不気味な男を睨みつけている。
「明日までに答えを決めておけ」
殺気を放ちながらそう言った鎧の男が背を向けた。正直、オレはほっとしていた。
張り詰めていた緊張の糸が解けたからか、体からも力が一気に抜けていく。
周りの音と景色がゆっくりと遠のいて、そこから記憶が途絶えた。
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