3-3:Ex-GirlFriend -過去の記憶-
「あとは……一応お守りってことで短刀なんかもあると嬉しいんだけどな」
活気がある通りを歩きながらそういってキョロキョロと辺りを見回すカティーアを見上げる。
それに気がついた彼は私の顔を見て、ニコッと笑って頭を撫でてくれる。
「ここの店、品揃えが気になるな。入ってみよう」
肩を抱かれたまま気になったお店に二人で歩いていく。これ……なんだか恋人みたい……って思ってドキドキするけれど、カティーアはいつもどおりの顔なので私だけ浮かれてるみたい……とちょっと不安になる。
彼は大人だし私なんかよりもずっと長く生きてるんだから、女の人の扱いに慣れてるのは当たり前なんだけど……。
彼が私をどう思ってるかは、本当はよくわからなくてドキドキと不安で気持ちが乱高下してしまう。
愛してる……そんなことを言われた気はするけどアレから明確になにか言われたわけじゃない。
だから……本当はどう思ってるのか聞きたい。けれど、それが自分の思う通りのものじゃなかったら……って思うと聞けなくて、元の姿に戻ってからたまに不安になる。
こんな私が、セルセラの代わりに私が生き残って良かったのかって……。
彼は優しいから、私に直接言わないけれど、本当は後悔してるんじゃないかって……。
時々暗い気持ちになりそうになっても、それでも基本的には楽しくて、新しく見るものに驚いたり笑ったりして、一日中はあっという間に過ぎてしまった。
日も落ちて来た頃、心地よい疲れに包まれながら宿屋へと戻る。
ゆっくりと扉をあけると部屋の中央には昼間に買った服が所狭しと並んでいた。
その様子は、なんだか小さい頃に箱庭で読んだ絵巻の中に描かれていた世界みたいで、つい溜息が漏れる。
寝具の上には、昼とは違った香りの色とりどりの花弁がふんだんに散らばっているし、部屋は良い香りがする蝋燭の揺らめく光で照らされている。
「すごい……」
思わず口から漏れた言葉に自分で驚いて慌てて自分の口を抑える。そんな私を見て、カティーアが「ふふ」っと声を漏らして笑った気がした。
こんな素敵な経験をさせてくれたお礼を言わなきゃ、そう思って彼の顔を見ようとした。
後ろを振り向くと、ぱちっと目が合った。
彼はゆっくりと目を細めて、口元に笑みを浮かべた。そして、そのまま両手を広げて私を抱き竦める。
私の顔は彼の鎖骨あたりに埋められて、彼の服か身体から漂うハーブの良い香りと体の温もりが直に伝わってきた。
「ジュジ……」
顔も熱いけれど、頭の中身までなんだか熱くなったみたいで、名前を呼ばれてもなんて答えたらいいのかわからなくなる。
深呼吸をしてから、カティーアの腕の中で顔を上げると、腰に回された手に支えられて柔らかな寝具の上にゆっくりと押し倒された。
髪を撫でられ、真剣な表情のカティーアの顔が近付いてくる。
高鳴る胸の鼓動に耐えられずに思わず目を閉じると、一瞬頭痛がした。そして、急に自分を大人にしたような女性と、彼女を泣きそうな顔で見つめてながら抱きしめあっているカティーアの姿が瞼の裏側に浮かんできた。
「……っ」
それが、私の中にあるセルセラの記憶だってすぐに気が付いた。
自分の意志じゃ思い出す記憶を選べないのは、小さな頃の記憶みたいでなんだか不思議な気持ちだ。
すぐに、カティーアがしがみついているのはイガーサさんなんだろうなってわかってしまって、その瞬間に私の頭は、冷や水をかけられたみたいに冷えていく感じがした。
私は、イガーサさんの代わりなんだろうか。
もしかして、イガーサさんを救えなかったから、私を近くに置いているの?
彼は、私にこんな風に頼ったりしないのに。
私の知らないカティーア。
私は……私は……。
不安が記憶の引き金を引いたのか、カティーアが過去にそういう関係を重ねたであろう女性たちの姿が次々と脳裏に浮かんでくる。
その中には今みたいに広い部屋で沢山のキラキラやドレスに囲まれた部屋の風景もあった。
そして……気が付きたくない共通点に気がついてしまう。そういう関係を持ったのは黒髪で長い髪の女性が圧倒的に多いということを……。
――トン
思わずカティーアの胸に手を突きつけて顔をそらし口付けを拒絶する。戸惑った顔を浮かべた彼の顔が目に入ってしまって、私は顔をあげられなくなる。
「……ごめんなさい」
「いや、別に怒ってはいない」
「……でも……私……」
ぐるぐるとセルセラの記憶がまだ頭の中に再生されている中、どうしても目を合わせられなくて顔を逸らした。
カティーアは少しの間私に覆いかぶさるのうな姿勢でいたけれど、目を合わせようとしない私を見てそっと横に腰を下ろす。
そのまま頭を掻いて、私の横に寝転んだのか、寝具が軽く沈む。
なんとなく、私がこの重々しい雰囲気に耐えられなくて彼に背中を向けてしまうと、珍しく、恐る恐るという感じでカティーアの手が伸びてきた。
その手は少し迷ったみたいに私の腕に触れていたけれど、私が拒絶の意思を示さないとわかるとそっと腰のあたりに手を回して抱きしめられる。
「悪い。せめて……このままでいてくれ」
掠れた小さな声でそう言われて、カティーアが私を抱きしめる力は弱々しいにもかかわらず私の呼吸は苦しくなる。
「嫌ならやめる」
そういうことをするのが嫌なわけじゃなくて……でもすごく嫌でよくわからなくて、罪悪感のようなものを抱きながら、静かに頷いて目を閉じた。
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