3ー14: Suspicious visitors -怪しい来客-
まだ空気が寒くて太陽が顔を見せる前の時間だと目を覚まして気がつく。
昨晩、眠さに負けてどうでもいいかと放っておいたツルはどうなったのかと、隣で眠っているジュジを起こさないようにそっと手首や体を見回した。
でも、昨日見たツルのようなものは見当たらない。あれは眠さが見せた幻覚だったのか?
寝床からジュジを起こさずに抜け出して、伸びをしながら深呼吸をして部屋から出る。
広間に来てみたはいいが、まだ起きるには早い時間なのか家の中はシンと静まり返っている。
二度寝をする気分でもないし、朝の分の薪でも取ってくるか…。
広間と各寝室の焚き火が消えていないことを確認して、そこに新しい薪をいくつか追加したオレは、玄関の近くにかけてある毛皮の外套を身にまとって扉を開いた。
温かい空気が逃げないように二重構造になっている扉は、かなり古い時代の知恵らしい。この建物もとても古い時代からあるらしいけれど劣化や腐食は起きていない。なにか特別な仕組みがあるらしいがオレには全然わからない。
数年に一度現れる商隊の中には、たまにこの村の建築技術や骨董品に驚いて壁や扉の加工法や、薄いのに割れにくい透明なガラスの製法を尋ねてくるやつもいる。
しかし、残念ながら今のオレたちにはこれがどうやって造られたものなのか検討もつかないので答えようがない。
尋ねるだけでは飽き足らず、破壊してでも目的のものを盗もうとするやつらもいる。
そういった外からのお客様を懲らしめるのも、
気のせいだと思うが、昨晩はジュジと話していたとき妙に鋭い殺気みたいな気配もあったし、一応少し見回りでもしておくか。
薪の備蓄が置いてある小屋を一度通り過ぎて、村の入口の方へと足を運ぶことにした。
一応、何かが起きた時に対応できるように、護身用の棒を持って村を一周りする。外に出るときは小さい戦斧を持っているけれど人間相手にはこっちの方が都合がいい。
村の中は特に変わりはなく平穏そのものだった。
夜中の気配はやっぱり気のせいだったな…。夢見が悪いと変な気配も敏感に感じ取ってしまうのかもしれないなんて思いながら、小屋から必要な分の薪を持ち出し扉に鍵をかける。
見回りを終わらせた頃には、村のみんなも起きる時間になっていたようで、道すがらにみんなと挨拶を交わしながらのんびりと家へ向かった。
「ジェミト! きてくれ」
そんなのんびりとした空気を、
声のした方向へ走って向かうと、村の入口付近に馬を携えた男が5人ほど佇んでいるのが見えた。
ああ…なるほど。タイミングが悪い。つい3日前にも追い返したよな。
最近ちょっと仕事熱心すぎねーか?と半ば呆れながら、肩に棒を担いで、
「
「悪りぃな。
「……魔法院の再三の頼み、断るというのか?どうなってもしらんぞ」
「へぇ……あんた、これで引き下がらないなんて新入りか? 断ったらどうなるのか、おしえてもらおうじゃねーか」
オレの挑発にカチンと来たのか、腰に携えた剣を取ろうと動かした男の手の甲を持っていた棒ですばやく叩く。
どうなっても知らんぞなんて言っていたわりに、男はあっさりと剣を足元に落としたので鼻で笑ってしまう。
剣を落とした男以外やつらが一斉に腰にぶら下げた鞘から剣を抜こうとするのが見える。
「やってやろうじゃねーか」
棒じゃなくていつもの戦斧を持ってきてもよかったなーと考えながら、棒を構える。
殺さない程度に痛めつけてお引取り願おう……そう思いながら四人相手に対峙していると後ろがザワザワとうるさくなる。
「忌々しい氷の竜の手先め! 命を奪わないだけありがたいと思え」
バカでかい声がして振り向くと、親父がクソデカイ斧を持ってこっちに走ってきていた。
あの斧は
ガタイのいい老人がものすごい剣幕で巨大な斧を持ってきたことに魔法院の連中は驚いたらしい。さっきまで柄に手をかけて抜く気満々だった剣から慌てて手を離すと、そのまま捨て台詞すら残さずに立ち去った。
「氷の竜……珍しい蔑称だな」
男たちが去ったあと、すぐ近くで聞き慣れない声がした。
気がつくと目と鼻の先に小柄な男が立っている。涼しい顔をして氷の竜のやつらが去っていた方向を見ているこいつも魔法院の一員なんだと思ったオレは、咄嗟に手にしていた棒を男の喉元へ突きつけた。
「っ!?」
しかし、棒の切っ先は男の手によってあっけなく足元に叩き落とされる。
呆気にとられているオレたちを余所に、小柄な男は血のような色をした鋭い目を細めて辺り一面をぐるっと見回した。
「あー。紛らわしいタイミングで現れて悪い。俺は魔法院とは別口だ」
少し芝居がかった仕草で両手をあげた小柄な男は急に穏やかな雰囲気に変わる。
さっきまでめちゃくちゃ強い殺気をオレに向けていたやつと同一人物とは思えない。
小柄な男は、どことなくヤマネコを思わせる上下の小さな犬歯を見せて笑った。
戦うつもりがないという意思表示をした急な来訪者に親父も近くにいた村人もザワザワしはじめたとき、シャンテとジュジが揃って息を切らせて走ってきた。
オレを見てホッとした顔を浮かべたジュジだったが、怪しげな来訪者をひと目見た瞬間、オレではなくまっすぐそいつに抱きつきにいった。
ああ……この男がジュジの言っていた師匠なのか。
男が放っている気迫に、妙な納得感を覚えながらオレは二人を見つめた。
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