293話

「はーはっはっ! この勝負もらった!」


「俺たちのクラスに山瀬さんが居る限り、伊敷はただの人だぜ!」


「いや、俺はただの人だよ!? なんだと思ってるの!!」


 勝負が始まる前から勝ちを確信する綺凜のクラスメイト達。

 そんな奴らに一泡吹かせ、諦めの雰囲気を出すクラスメイトにやる気を出させようと誠実が叫ぶ。


「おいおまえら! 大丈夫だ! 俺はもう吹っ切れた! この勝負で俺が山瀬さんのために力を抜くことはない!」


(決まった! これで俺のクラスもやる気を取り戻すはずだ!)


「嘘つくなストーカー」


「未だに未練たらたらだろうが」


「だめだ、絶対に負けた・・・」


「あれぇ!?」


 どうやら誠実のクラスでの信用はないに等しいようだった。

 そんなこんなをしている間に審判からの合図があった。

 選手達全員が縄の側に座り開始の合図を待つ。


「それではよーい・・・・・・開始!!」


 一斉に縄を持って立ち上がり、互いに縄を引き始める。

 誠実も縄を力強く掴んで自分の方に手繰り寄せるように引っ張る。


「くそっ! みんなで俺をなめやがって! 絶対に勝つ! うぉぉぉぉぉ!!」


「おぉ、誠実が本気だ!」


「山瀬さんの誘惑が聞いてないぞ!」


「この勝負いける!」


 誠実の様子を見てクラスメイト達もやる気を出す。

 勝負は若干誠実達のクラスが優勢だった。


「よし、このまま行けば・・・ん?」


「ん・・・・・・うぅ~・・・・・・ふっ・・・はぁ・・・・・・」


(や、山瀬さん・・・・・・な、なんか・・・・・・エロ・・・・・・)


「あっ! しまっ!!」


「あ、おい馬鹿誠実!」


「うぉ!」


「うわっ!!」


 綺凜の縄を引っ張る姿に思わず見とれてしまった誠実はそのまま力が抜けてしまい、そのまま一気に縄が引かれた。

 そしてそのまま誠実達のクラスの負けで綱引きは終わった。


「おい、こら馬鹿誠実」


「おまえ、力は抜く事はないって言ったよな?」


「何してんだよ」


「す、すいません・・・・・・」


 綱引きが終わり、自軍に戻った誠実を待っていたのはクラスメイトからの尋問だった。


「ま、待ってくれ! あの決してわざとじゃなくてな・・・」


「山瀬さんの綱引きする様子に見とれて思わず綱を放したのがわざとじゃない?」


「おい、こいつ貼り付けで良いよなぁ!」


「え!? 罪重くない!?」


 今回の件に関しては男子だけではなく同じクラスの女子からも誠実は批判を受けた。


「伊敷君って未だに山瀬さんを?」


「うわぁ・・・悪い人じゃないと思ってたけど、それはちょっと・・・」


「沙耶香が可愛そうよね」


 みんなからの白い目に誠実はいたたまれ無くなる。

 そんな中誠実の前に現れたのは頬を膨らませた沙耶香だった。


「誠実君、見とれちゃうほど山瀬さん可愛かったの?」


「そ、そういうわけじゃな無くてですね・・・・・・あの・・・」


「・・・・・・私にはそんな事無いのに・・・」


「いや、可愛いと思ってるよ!? さっきはなんかこう・・・縄を引っ張る山瀬さんがエロく見えただけで・・・・・・あ・・・」


「へぇ・・・・・・そうなんだ」


 誠実の言葉にクラスメイトからの視線はさらに冷たくなった。

 そして誠実の言葉にさらに頬を膨らませた沙耶香は男子にこう行った。


「貼り付けちゃおっか」


「よぉーし! 前橋さんからの許可が出たぞぉぉ!」


「縄持ってこい!」


「国旗掲揚台に貼り付けだぁぁぁ!!」


「や、やめろ馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!」



「はぁ・・・はぁ・・・」


「ひどい目にあったな」


「まぁ、誠実のせいだけどな」


「まぁ、そうだけど・・・全員で国旗掲揚台に俺を貼り付けにするなんて思わなかったよ・・・」


「前橋も機嫌悪かったもんな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る