292話

「まぁやるからにはってとこですよ」


「商品も豪華らしいですし」


「俺は運動出来ないですけど、やらなきゃいけないなら頑張ってみようかと」


「そ、そうか…やる気があるのは良いが、最初の頃と180度態度が変わっても気持ち悪いな…」


「まぁ、頑張りましょうよ」


「どうせだったら優勝しましょう」


 そう言って誠実たちは自分達の軍の陣地に戻って行った。


「あいつら、何かあったのか?」


 態度が変わった三人を見ながら不思議そうに首を傾げる田岡。



「これより西星高校体育祭を始めます、皆さん事故怪我の無いよう存分に体育祭を楽しんでください!」


 校長先生の長い話しが終わりようやく始まった体育祭。

 最初は学年別クラス対抗の綱引きから始まった。

 誠実たちのクラスはトップバッターであり、相手は綺凛と美沙のクラスだ。


「よっしゃ! この綱引きで一番得点が高いクラスには出店で使える無料券全員にプレゼントだってよ!」


「マジかよ! 確かクレープとか焼きぞばもあったよな?」


「体育祭なのに全然体育関係ないラインナップだな」


 優勝に燃える誠実たち。

 そして……


「勝つ! 絶対に勝つ!」


「そして誠実お兄様に妹様をご紹介頂くのだ!」


「俺の腕力が火を吹くぜ…」


「お前の腕ガリガリだぞ」


 誠実のクラスメイトを含めた同じ軍の男子は美奈穂とお近づきになることを目標に張り切っていた。

 そんな謎の男子のやる気に女子は若干引いて居たりする。


「え? 何男子達……」


「なんか変に気合入ってない?」


 開会式を終えたこともあり、一般の入場客もしばしば多くなっている。

 ほとんどが生徒の親や家族などだが祭り感覚で来ている一般人も多く居る。


「なんかこんな大勢の前で競技をするなんて新鮮だな


「あぁ、中学の頃は親くらいしかこなかったからな」


「流石は西星高校ってとこか」


 競技が始まるまでの間、誠実達は待機列に並んで待っていた。

 グランドでは他の生徒が入念に縄をチェックし、準備をしていた。


「おい誠実、お前山瀬さんのクラスだからって手を抜くなよ」


「そうだぞ!」


「惚れた弱みとか無しだぞ!」


「わかってるっての! うるせぇなお前らは!」


 他のクラスメイトからは絶対に手を抜くなと釘を刺される誠実。 

 しかし、誠実にも負けられない理由があり、手を抜くつもりは無かった。


「まぁ流石の誠実でも相手に好きな人が居るからって手は抜かないだろ?」


「だな、流石にそれで手を抜いたら馬鹿だな」


「当たり前だろ、俺だって負けられないんだ!」


 そんな話しをしているうちに誠実たちのクラスと綺凛達のクラスは縄の側に対面する形で並んだ。

 ちなみに誠実は先頭に並んでおり、前を向くと対戦相手である綺凛の顔がそこにはあった。


「な!? なんで山瀬さんが先頭!?」


「ご、ごめん…作戦らしくて……」


「え? 作戦!?」


 誠実が聞き返すと綺凛の後ろから声が飛んでくる。


「伊敷が先頭ならこっちも先頭に山瀬さんを置けば絶対に力が緩むはずだぜ!」


「山瀬さんには悪いけど、伊敷を弱体化させるために先頭で伊敷を誘惑してもらうんだぜ!」


「え!? 誘惑してくれるんですか?」


「しません」


「はい……」


(なんでだろう、負けたくないはずなのに誘惑してくれないのが凄く残念)


「クソっ! しまったな!」


「まさか奴らもそんな作戦を考えていたなんて!」


「無理だぁぁぁ! 伊敷なら山瀬さんの為に力を抜いちまう!」


「はぁ、一戦目から負けかぁ……」


「お、お前ら諦め早すぎねぇか!?」


 後ろから聞こえてくるクラスメイトの絶望に満ちた声にツッコむ誠実。

 しかし、誠実自身もこうして綺凛を眼の前にして若干の緊張をしていた。

 もう慣れたと思ったがやっぱり目の前にするとその容姿に見とれてしまい、心臓が騒がしく鼓動するのを感じた。

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