289話

*



(なぜこうなった…)

 

 誠実は現在沙耶香と一緒に帰宅していた。

 夕方でもまだ明るい住宅街を誠実と沙耶香は並んで歩いていた。

 沙耶香とは夏休みにもいろいろあり、それ以降変に意識してしまっていた。

 告白されてから沙耶香は誠実に積極的になり、二人三脚の練習でも意識してしまい、お互いにぎこちなくなり、上手く進むことが出来ずにいた。


「せ、誠実君いつも大変だね、応援団の練習」


「まぁ…そうだね。でもなんだかんだで慣れて来たし、それに今は本気で勝ちたいと思ってるから、練習も面倒じゃなくなってきたよ」


「そうなんだ、体育祭楽しみだね」


「あぁ、この学校のは凄いらしいからな」


「料理部も出店をすることになって、体育祭当日は大変そうだよ」


「へぇ~何をつくるんだ?」


「色々なおにぎりだよ、お昼に販売するから良かったら来てね」


「沙耶香のおにぎりかぁ~絶対行くよ、梅と昆布があったら取っておいてくれ」


「わかった。そう言えば誠実君が料理部で初めてつくったのもおにぎりだったね」


「そう言えばそうだったな…」


 誠実がまだ綺凛に夢中だったころ、料理部に修行のような形で在籍した事があった。

 その時に最初に教えて貰ったのは米の炊き方とおにぎりの握り方だった。

 

「あの時は全く料理の知識がなくて、沙耶香に色々教えて貰ったんだよなぁ~」


「まさか料理するのに消火器と防塵マスクを持って来るとは思わなかったよ」


「全然わからなかったからなぁ」


「わからないのレベルじゃなかったよ?」


 昔話しに華を咲かせた二人は段々と緊張が解けていった。

 楽しく会話をしながら駅の方に向かう二人。


「ねぇ誠実君……」


「ん? どうかした?」


「あのさ…二人三脚頑張ろうね」


「あ……そうだな。悪い、この前も全然上手くいかなくて」


「そ、それは私も悪いから! 気にしないで!」


 誠実と沙耶香のペアは二人三脚の練習に行き詰っており、まだまともにゴールで来たことが無かった。

 それと言うのもお互いを意識しているせいで、動きがぎこちなくなる上に密着しているせいで全く集中出来ていないのが原因だった。

 しかし、お互いそれに気がついてはいても改善は難しかった。

 

「なんとか体育祭までに普通にゴール出来るようになりたいよなぁ…」


「どうしたら良いんだろうね…」


「やっぱり俺が変に意識しすぎなのがダメだよなぁ~」


「そんなことないよ! そ、それに私の胸が大きいのが原因なんだし!」


「い、嫌そんなことは…」


(そんな事無いって言いたいけど、実際そうなんだよなぁ……だって……俺も男の子だし)


 自分で言っていた沙耶香も顔を真っ赤にしていた。

 

「な、何だったら私の胸でも揉んで慣れる? な、なんちゃって!」


「ぜhっ!! ……そ、それはまずいでしょ」


(あ、危ない…是非って言ってしまうところだった…)


「誠実君!? 口から血が出てるよ!」


「き、気にしないでくれ!」


 誠実は慌てて口を閉じたので唇を噛んでしまい、そこから流血してしまった。

 唇を神ながらも誠実は悔しそうに拳を握っていた。


「ご、ごめんね変な事言って……」


「全然大丈夫だよ! あ、あははは」


「で、でも…私…誠実君なら別に……良いよ?」


「え?」


 顔を真っ赤にしながら話す沙耶香に誠実は落ち着いたはずの心臓がまたしても大きく動きく動き始める。

 この世界に世間体なんて言葉が無ければ誠実は直ぐにでも首を縦に振ってしまっていただろうと自分で考えながら、視線を反らして沙耶香に話す。


「じょ、冗談はやめてくれよ。全く、熱さで沙耶香も少しおかしくなってるんじゃないか?」


「……そ、そうかもね……あははは」


 沙耶香は先ほどの自分の発言を思い出し、恥ずかしそうに俯きながら笑って答えた。

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