288話


「よし、今日の練習はここまでだ」


「おっす!」


「お疲れ様です!」


「ゴリ先輩お疲れっす」


「前から思ってたけど、俺ってそんなにゴリラっぽいか?」


 体育祭が近づいてきた日の応援練習終わり、誠実たちは練習を終えて更衣室で着替えをしていた。


「はぁ~疲れたぁ~」


「先輩なんか日に日に気合増してないか?」


「そんだけ体育祭に力入れてんだろうな」


 更衣室で着替えを終えてさっさと帰宅しようとする三人。

 しかし、帰ろうとしたときにふと通った空き教室で田岡を目撃した三人。


「あれ? 田岡先輩か?」


「何してるんだ?」


「電話か?」


 田岡はどこかに電話している様子だった。

 

「もしもし母さん? うん、もう帰るよ、いや大丈夫だよ。卒業までいなくても働ける場所もある……それに野球だって出来た、俺は満足だよ」


 ちらっと聞けた話に三人は顔を見合わせる。

 

「どういうことだ?」


「なんか卒業まで学校いないとか言ってなかったか?」


「もしかして……先輩は卒業式を待たずして辞めるのか?」


 三人はバレないように直ぐその場を離れた。

 体育祭にこれだけ熱を入れるには何か理由があるのかもしれないと思っていた誠実は、あの電話が何か関係しているのではないかと思っていた。


「なぁ武司、調べられるか?」


「あぁ、明日一日待て、探ってみる」


「なんか、理由があるのは間違いなさそうだな」


 情報通である武司に頼み、田岡の秘密を探ることにした三人。



 翌日の放課後は職員会議のため応援練習がなく、三人は久しぶりに教室に残って話をしていた。


「それで調べはついたのか?」


「あぁ、今日一日いろいろ調べたが…結構重いぞ?」


「どういうことだ? さっさと話せ」


「……田岡先輩、家庭の事情で体育祭終わったら学校を自主退学するらしい」


「は? なんでだよ?」


「田岡先輩の家は母子家庭で金銭的な問題で先輩が働かないときついらしい」


「でも三年のこんな時期にか? 今までは通えてたんだろ?」


「田岡先輩の母親が病気でもう何か月も入院しているらしい、だから先輩は家庭を支えるために部活に行かずにバイトをしていたらしい」


「……万年ベンチってのは?」


「先輩は特待生で勉強も真面目にしてたらしい、バイトもして野球もしてだったからな、レギュラーは三年間で一度も取れなかったらしい」


「かなりの苦労人じゃねぇかよ…」


「最後の体育際だ、だからあんだけやる気あったんだろうよ」


 話を聞いた後、誠実たちは二分ほど無言だった。

 それぞれに思うことがあったのだろう。

 最初に口を開いたのは健だった。


「聞かなきゃよかった」


「そうだなぁ…」


「俺の調べなきゃよかったよ…こんなん、負けるわけにいかねーだろ?」


 武司のその言葉に誠実と健はうなずく。

 家庭の問題である以上、誠実たちが田岡にできることは限られる。

 それでも誠実たちは知ってしまった以上、出来ることをしてあげたいと思ってしまった。


「あれ? 三人ともまだ帰らないの?」


「あ、沙耶香」


「前橋もまだ居たんだな」


「うん、ちょっと部室にようがって、三人は何をしてるの?」


「いろいろあってな、もう帰ろうとしてたところだよ」


「そ、そうなんだ…私も帰るところなんだけど、一緒に帰ってもいいかな?」


「あぁ、もちろん」


 誠実がそう言った瞬間、武司と健は目で合図をし直ぐにバックをもって教室の外に出た。


「すまん誠実、俺たちはもう帰るぜ」


「お前は前橋と帰れ」


「は!? てかお前らはやっ!」


 武司と健はそうだけ言うとそのままさっさと帰ってしまった。

 あまりの速さに誠実はぽかんと二人がいなくなったあとの教室の扉を見つめていた。


「あ、じゃ…じゃぁ一緒に帰ろっか…」


「お、おう」


 先ほどまで四人で帰るつもりだったので緊張はなかったが、沙耶香と二人で帰ることになり、誠実はどんどん緊張してきていた。

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