286話

「有名だよね、ニュースにも出るし」


「まぁな、俺が高校選ぶ理由もそういうのが面白そうだと思ったからなんだけどな」


「体育祭の日はお弁当持って応援に行くわね」


「おぉ、それは良いな! 学校での誠実の様子も気になるしな!」


 両親のそんな言葉に誠実は慌てたように言い返す。


「良いよ、恥ずかしい。来ても出店で飯でも食ってそのまま帰ってくれ」


「ちなみに酒は売ってるのか?」


「売ってるわけねぇだろ」


「じゃぁ持って行くしかないか……」


「持ってくんな!」


 父親のそんな言葉に誠実は呆れた様子で応える。

 食事を終えた誠実は再び部屋に戻ったのだが……。


「いや、だから何で居るんだよ」


「漫画まだ読んでないって言ったでしょ?」


「それなら俺もおまえの部屋に行っておまえの少女漫画読破してやるからな!」


「お好きにどうぜ」


「こ、この野郎~」


 誠実の言葉など気にせずにくつろぐ美奈穂。

 

「くそっ! 本当に読んでやる!!」


 誠実はそう言って美奈穂の部屋に行き、美奈穂の持っている少女漫画を読み始めた。


「え? い、今の少女漫画ってこんな過激なの!? 全然少女向けじゃないじゃん!!」


「うるさいなぁ、静かに読んでよ」


 部屋に戻ってきた美奈穂に誠実は少し興奮した様子で話す。


「いや、おまえだってよぉ! こんなエロいの少女漫画じゃねぇだろ! ただのエロ本だよエロ本! おまえ中学でエロ本ははえーよ、まぁ興味があるのはわかるけど……」


「なんでそうなるのよ! 人聞き悪いこと言わないでくれる!」


「で、でもよぉ……これマジで少女漫画かよ……」


「もう、それ貸してあげるから、私もう寝るから部屋戻って」


「あ、あぁ……じゃぁ借りるわ」


「がっつりハマってんじゃないのよ」


 誠実は美奈穂に漫画を借りて部屋に戻り、続きを読んでいた。


「えぇ……台詞クッサ! 絶対こんなこと言わねぇよ……」


 偶然にも漫画の内容は体育祭の話題になっていた。

 主人公は学校でいじめられている女子高生、自分を変えるために体育祭で応援団に入るのだが、他の生徒から馬鹿にされてしまう。

 しかし、そんな主人公を漫画のイケメン達がサポートしていくという話だ。


「漫画みたいにこう上手く行けば良いんだけどなぁ~」


 漫画を読みながら誠実は田岡の事を考えたいた。

 自分でも面倒な事に首を突っ込んでいるのはわかっていた。

 しかし、自分も何かに一生懸命になることの大変さや真剣さを知っている。

 だからこそ、真面目に頑張っている人が馬鹿にされているのを見るのは少し引っかかるところがあった。


「俺たちだけが頑張って軍を優勝出来る訳でもねぇしなぁ……」


 漫画のようにイケメン達が全員を鼓舞してやる気を出してくれれば良いのだが……。


「ん? やる気を出させる? ……あ!」


(あるじゃねぇか! 男子だけだけどやる気を出させる方法が!!)


 誠実は美奈穂から借りた本を読み返しながら、何かを思いついた。





「おまえそれマジか?」


「大マジだ」


「でもそれ、絶対おまえあとで痛い目見るぞ?」


「まぁ大丈夫だろ」


 誠実は翌日学校に行き、昨夜思いついた作戦を武司と健に説明をした。

 誰にも聞かれないように三人は学校の屋上で昼飯を食べながら話をしていた。


「まぁでもその作戦なら間違いなく男子のやる気は増すな」


「だけど、当日にその作戦を実行しないとやる気は持続しないだろ?」


「まぁそうだな、そこは賭けだな」


「まぁ、うちの男子馬鹿ばっかりだし大丈夫だろ?」


「だと良いが……せめて黄軍には勝たないと……」


(負けたら栞先輩にメイド服を着させられるからなぁ……それだけはなんとか避けないと!!)

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