284話



「まぁそうだな、だからみんな燃えてるのさ」


「先輩も景品目当てなんですか?」


「あぁ……まぁそうだ……」


 田岡の歯切れの悪い回答に誠実は何か引っかかりを感じた。

 もしかして、田岡先輩には勝たなくてはいけない別な理由があるのではないだろうか?

 


「まぁ何にせよおまえらがやる気を出してくれて俺は嬉しいぞ!」


「任せてください!」


「俺らが本気出せば余裕っす!」


「俺は陰ながら応援する!」


「古沢は本当にやる気を出したのか?」


 かくして誠実達は真面目に応援練習を始めた。

 誠実は田岡が何かを隠しているのではないかという違和感を感じながらも、あの陰口の事を思い出して奮起していた。

 そんな中誠実達の知らないところでもう一つの戦いが幕を開けているとも知らずに……。




 誠実達の通っている西星高校には空き教室が多く存在する。

 そもそも西星高校自体の学内の面積が広く、グランドも二つ存在しており、様々な生徒の要望に対応出来るように空き教室なども多く存在している。

 そんな空き教室の一室に美少女達が集まっていた。

 その理由はとある一人の男子生徒についてだというから驚きだ。


「あ、あの……栞先輩」


「なんですか? 沙耶香さん」


「なんですかこの集まり?」


 その場に集められたのは栞と沙耶香、そして美沙と綺凜の四人だった。

 集めたのは栞であり、当の本人は自宅から持ってきたお茶を三人に振る舞っていた。


「なんとなくおわかりなのではないですか? この四人の共通点」


「まぁ……誠実くんが好きってことだよね? 厳密には誠実君の好きな人も居るけど」


「ちょっと美沙! それは終わったことで…」


 机を囲む形で座る四人。

 栞は余裕そうな笑みを浮かべ、沙耶香はそわそわしながら他の三人を見ており、美砂と綺凜はおちついてお茶を飲んでいた。

 そんな中話を始めたのは笑顔の栞だった。


「忙しいところごめんなさい、ちょっと話があって貴方たちを呼んだの」


「一体何の用ですか?」


「このメンバーだとまぁ…誠実君絡みの話ですよね?」


「そうです。実は体育祭には面白い伝説があるのをご存じですか?」


「伝説? 先輩その伝説ってなんですか?」


 栞の話に三人は耳を傾ける。

 栞はカップを置いて話し始めた。


「実はこの学校の体育祭には毎年恒例でとある景品が用意されているんです」


「毎年同じ物がですか?」


「えぇ、そうです。その景品は……交際応援券」


「交際応援券?」


「なんなんですかその券?」


「この券は生徒会の権限とその他の生徒の協力で券を使用した相手とその意中の相手の交際の手伝いをするという券です」


 栞の説明を聞き終えた瞬間、美砂と沙耶香は「えっ」と思わず声を漏らした。


「しかもこの券を使用した生徒と意中の相手の交際が成立する確率はほぼ100%」


「ほ、本当ですか!!」


「えぇ本当ですよ。その競技は借り物競走で、一位になった人にその券が送られます」


「なんでそれを私たちに?」


 興奮する沙耶香を余所に美砂は冷静に栞に尋ねた。

 

「私は借り物競走に出場します。もちろんこの景品が目当てです、一年生のお二人はこのことを知らないと思ったのでフェアに情報交換をしようと思ったんです」


「そうですか……でもライバルにそんな事を教えて良いんですか?」


「大丈夫です、私は負けませんので」


 そう言った栞の言葉には力強さがあったが、表情は笑顔だった。

 そんな栞の様子に美砂も沙耶香も負けていられないと心の中で思い、それぞれが借り物競走に出る事を決めた。

 しかし、この中でそんな状況について行けて居ない人物が一人居た。


「あ、あの……私はなんで呼ばれたんですか?」


 それは綺凜だった。

 このメンバーの中では一番この話に関係ない人物だった。

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