283話

「はぁ……はぁ…おい…武司…」


「な、なん…だ……」


「か、顔真っ赤だぞ……出たら……どうだ?」


「は、はぁ? ま…まだまだ……これからよ……」


「や、痩せ我慢は……体に……毒だぜ?」


「おまえに……言われたく……ねぇんだよ……目がうつろだぞ?」


 あれから既に20分が経過していた。

 誠実も武司も既に限界を超えており、意地でサウナから出ないでいた。

 そんな二人を健は「アホだなぁ」なんて思いながらゆったりと湯に浸かっていた。


「く、くそっ!」


「も、もうだめだ!!」


 その結果、二人は勢いよくサウナから出てきて、そのまま倒れた。


「おーい、大丈夫かぁ?」


「し、死ぬぅ~」


「あぁ~目が回るぅ~」


「アホかこいつら……」


 武司と誠実はその後、従業員の人に脱衣所のベンチまで連れて行かれた。

 なんとか復活し着替えをして脱衣所を出た二人だったが、まだ多少フラついてしまい休憩所でスポーツドリンクを飲みながら横になっていた。


「おまえら馬鹿だろ、サウナは適度に楽しむもんだ。我慢比べしてどうする」


「だ、だってよぉ……」


「誠実が出ねぇから……」


「はぁ……これじゃぁさっぱりしに来たんだか、疲れにきたんだがわかんねーな」


 そんなことをしている三人の前に風呂から上がった美沙と綺凜が近づいてきた。


「あれぇ? 誠実君と武司君どうしたの?」


「あぁ、気にするなサウナで我慢比べしてのぼせたんだよ」


「何してるのよ……」


「うぅ……山瀬さんにかっこ悪いところを……」


「そんなもん……散々見せてるから今更だろ?」


「うるせぇ……黙れのぼせ田」


「おまえこそ黙れのぼせいじ」


「元気そうではあるね」


 二人を呆れた様子で見る綺凜と面白いものを見るように笑いながら話す美沙。

 呆れてはいたものの綺凜はこの三人の子供のようにはしゃぐ言動が嫌いではなかった。

 自分にはない全力で馬鹿なことが出来るこの三人の日常を少しうらやましいとさえ思っていた。

 だからなのか、綺凜はため息を吐いた後に誠実を見ながらわずかに微笑んだ。





「フレーフレー!青軍!」


「「「フレェェェェェェ!!フレェェェェェェせぇぇぇいぃぃぃぃふん!!」」」


 誠実が田岡先輩の陰口を聞いた翌日、誠実達は真面目に応援練習に参加していた。

 いままでの不真面目な態度が嘘のように真面目に練習に参加し、人一倍を声を出していた三人だったが……。


「な、なんかあいつら熱量すごくね?」


「昨日まで団長に怒られてたよな?」


「団長何かしたんすか?」


「い、いや……俺も戸惑ってる……」


 前日とのギャップに少し引かれていた。


「お、おいおまえら」


「あ、団長、オスッ!」


「お、おう……どうしたんだ? 急に真面目になって」


「昨日の団長の言葉に胸を打たれまして! うほっ!」


「そ、そうか? う、うほ?」


「ゴリラ団長、真面目にやるから絶対優勝するうほっ」


「おい古沢。おまえからだけ悪意を感じるんだが?」


 誠実達に近づき声を掛けた田岡も戸惑っていた。

 なんで誠実達がこんなにやる気を出しているのか理由がわからないからだ。

 だが、奇妙に思いつつも田岡は真面目に練習をする三人に少しだけだが好印象を持ち始めていた。


「まぁやる気があるのは良いことだ! おまえらに言われなくても優勝を目指すぞ!」


「そういえば団長、優勝したらやっぱりなんかもらえるんですか?」


 昨日の疑問の一つを誠実が田岡に尋ねる。

 

「ん? そうか、おまえらは一年だから知らないんだな。この学校の体育祭はすごいぞ。個人戦では順位事に賞品があるんだが、結構豪華でな! 去年の目玉は最新のノートパソコンやテーマパークのペアチケットだったんだぞ」


「マジですか!」


「しかも、全員平等にチャンスを与えるために体育で比較的運動が苦手な生徒にはハンデもつくしな!」


「だから二年と三年はここまでやる気なのか…」

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