281話

「全く、今年の一年は曲者ばっかりって聞いてたが、どいつもこいつも生意気だな」


「す、すいません……」


「はぁ…99回も同じ女子に告白する根性あるなら、もっと別な所にその根性を使えよ」


「いやぁ、良く言われるんですよねぇ~」


 誠実は現在、体育館裏で田岡から説教を受けていた。

 グランドからは大きな応援の声が聞こえており、軍別の集会がそれぞれの場所で始まったことがわかった。


「先生も言ってたよ、今年の一年はいろいろな意味でとんでもないって」


「まぁ、伝説の世代って感じですかね?」


「最悪の世代だってよ」


「あれ? ワ〇ピースかな?」


「たく、お前らを応援団にしたのは間違いだったか……」


「そうですよ、早く間違いに気が付いてください」


「お前が言うな」


 田岡は誠実を見ながら深くため息を吐いてガックリと肩を落とした。


「部活も引退して、あとは体育祭を頑張るだけだってのに…お前らときたら」


「あぁ、野球部って地区予選一回戦敗退でしたもんね」


「うるせぇ! わるかったな弱くて!」


「誰もそこまでは……」


「まぁ、いいや。お前、次からは静かに集会に参加しろよ。悪いけど、俺はお前らと違って最後の体育祭で勝ちたいんだ」


「わ、わかりました。すいません…」


「たく……少ししたらお前も来いよ」


 そう言って田岡は誠実を置いて先に軍の方に戻って行った。

 誠実は武司と件にどんな仕返しをしてやろうかと考えを巡らせながら田岡に続いて軍に戻ろうとした。

 すると、体育館で別な軍が集会をしていたようで、団員達の話し声が聞こえてきた。


「知ってるか? 青軍の応援団長、田岡だってよ」


「マジ? あの野球部万年ベンチの?」


「あぁ、なんか知んねーけど張り切ってんの」


「野球部で一度もレギュラー慣れなかったからなぁ~もう体育祭くらいでしか活躍出来ないと思ったんじゃね?」


「あんなへたくそ、体育祭でも活躍なんて無理だろ? 真面目だけが取り柄なんだぜ?」


「あはは! 言えてる言えてる!」


 誠実はなんとなく話を立ち聞きしてしまった。

 話しの内容から田岡が馬鹿にされていることがわかった誠実はなんだか心の中がもやもやしていた。

 確かに誠実自信のやる気は無かった。

 でも、田岡は真面目にそして人一倍やる気を出して体育祭に望もうとしている。

 それは悪いことじゃない。

 逆に俺達三人みたいなやる気の無い奴らの方が悪い存在だ。

 真面目に体育祭をしようとしている田岡が馬鹿にされることに誠実は納得いかなかった。


「嫌な話し聞いちまったなぁ」


 心がモヤモヤしたまま誠実がグランドに戻って軍の集会に参加した。

 集会では田岡が何かを力説していた。

 健と武司は珍しく真面目に話を聞いている様子で、誠実は二人の元に静かに近付いて座った。


「という訳でやるからには勝つぞ! その為にはお前らの力が必要だ!」


 前で話をする田岡はやる気に満ち溢れていた。

 そんな田岡を見ていた誠実は再び体育館で聞いた話を思い出し、モヤモヤしていた。


「お、誠実帰ってきてたのか」


「ゴリラに殺されなかったんだな」


「お前らさっきは良くもやってくれたな…」


 少しして健と武司が誠実の存在に気が付いた。

 誠実は二人から集会の内容を聞いた。


「なんか放課後に毎日応援練習するんだってよ」


「しかも応援合戦用の応援歌の練習」


「そうか……まぁでも俺らどうせ暇だし、やるならマジでやろうぜ」


「おいおい、どうしたどうした?」


「やっぱりお前、ゴリラに何かされたんだな? バナナか? 悪いバナナを食べたのか?」


「ちげーよ! なっちまったのは仕方ないしやるなら勝ちたいだろ?」


(それに俺は先輩の所属してる黄軍に勝たないとメイド服を着ることになっちまうからなぁ…)


 先ほど体育館で聞いた話と自分の置かれている状況を考え誠実は少し真面目に応援の練習に参加してみようと考えていた。

 


「結構疲れたなぁ」


「あんな声出したの久しぶり」


「はぁ……はぁ…死ぬ……」


「おい、イケメンが死にかけてんぞ」


「あぁ、いつものことだろ?」


「そうだな、いつもの事だわ」


 応援団の集会はミーティングの後に応援の練習があった。

 誠実たちのような日頃大声を出さない人に取って応援の練習はかなり体力を使い疲れていた。


「さっさと帰ってシャワー浴びたい」


「俺もだ、なんだったら風呂でも入ってかね?」


「お、良いな。久しぶりに三人で行くか?」


「悪くない」


「久しぶりに裸の付き合いでもすっか!」


 練習を終えた誠実達は風呂にいくことにし、三人でスーパー銭湯にやってきた。

 タオルの貸出などがあり手ぶらで来れてしかも何故か平日は空いているのがこのスーパー銭湯の良いところだった。


「はぁ~あ。汗くせぇ~」


「着替えは体育の着替えで良いか」


 なんて話をしながら中に入ると……。


「あ、誠実くんじゃん」


「え? 美沙? そ、それと山瀬さん!」


「三人もお風呂?」


 なんと偶然にも美沙と綺凛がスーパー銭湯にやってきていたのだ。


「あ、誠実君ちょっと今は私に近付かないで! 絶対今匂うから!」


「いや、いつも近付かねぇし……てか美沙はともかく山瀬さんもスーパー銭湯なんてくるんですね」


「美沙に誘われてね、この時期は汗掻いちゃうし、匂うとちょっとね」


「山瀬さんは汗かいても匂いません!」


「その発言はギリギリだと思うよ誠実君」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る