278話


「お前のせいでとんだとばっちりだぞ!」


「たく、健はもう少し空気を読んで欲しいもんだ」


「なんだ俺のせいか? そもそもあの脳筋馬鹿の先輩が悪いだろ?」


「お前が大人しくしてれば応援団になんてなんなくて済んだのに……」


「どうするんだよ、あの先輩絶対暑苦しいぜ……」


 集会の後、誠実達は教室に戻ってため息を吐きながら話をしていた。


「応援団って何するんだ?」


「応援だろ? あの暑苦しい学ランみたいなやつ着て応援すんだよ」


「馬鹿馬鹿しい、そんなことをして何になる? 応援して何かが変わる程世の中甘くない」


「いや、健そう言う話しじゃないんだよ……」


「明日から応援団員は放課後残って練習だと」


「マジかよ、折角生徒会が終わったのに……」


「サボれば良いだろ? そんなの。俺達が望んだことじゃない」


「でも、あの先輩だぜ? サボったら良くて火炙りだぞ?」


「良くても火炙りなんだな」


「諦めようぜ、大人しく三人で参加しようぜ」


「あぁ、誰かさんのせいで……」


「本当に誰かさんのせいで」


「全く困った奴が居たもんだ」


「「お前だよ!!」」


 仕方無く、三人は応援団員として体育祭に参加することを決めた。

 しかし、この出来事は体育祭の序章でしかなかった。

 この体育祭が止まっていた誠実と誠実に思いを寄せる女子達の関係が大きく進展することになるとは、誠実は思いもしていなかった。





「あの……前橋さん」


「ん? 何?」


「一体俺達はなんでこんなに密着しているんでしょうか? しかも外で」


「じゅ、授業の一環だから……し、仕方ないよね!」


 そう、これは授業の一環だ。

 体育の授業はこの時期になると体育祭の種目の練習などになる。

 そして、誠実が出ることになった種目は……。


「二人三脚って結構難しいな」


「そ、そうだね」


 沙耶香と一緒に二人三脚に出ることになってしまった。


(まさかこんな事になるとは……)


 この一つ前の授業での事。

 誠実達のクラスでは誰がどの種目に出るかの話し合いが行われた。

 正直体育祭にあまり興味のない誠実はどんな種目でも良いと思い、あまり話し合いには参加して居なかった。

 そして気が付いた時には沙耶香と二人三脚に出場することになっていたのだ。


(や、ヤバイこの状況はヤバイ!!)


「あ、あのさ沙耶香……す、少しくっつき過ぎじゃないか?」


「な、何言ってるの? くっつかないと上手く走れないよ」


「ご、ごもっともです」


(いやそうだけど! そうなんだけど! 当たるの! 男性高校生には刺激が強すぎる二つの大きな山が!)


 誠実は色々抑えるのに必死だった。

 そのため上手く走ることも沙耶香と足並みを揃えることが出来なかった。


「さぁ、もう一回息を合わせよ!」


「お、おう……」


(んなこと言われてもコッチはそれどこじゃないんだよ沙耶香さん!?)


 高校生にしては大きすぎるといつも思っていたが、密着すると更に大きさを感じてしまう。


「じゃぁ行くよ、せーの!」


「あ、やべっ!」


「きゃっ!!」


 そんなことばかり考えてしまっているせいか、誠実は沙耶香と息を合わせるのに失敗してしまった。

 そのせいで沙耶香は躓き前に倒れそうになる。


「おっと! 大丈夫か?」


「う、うん、ありが……」


 そう言いかけて沙耶香は黙り、どんどん顔を赤く染める。


「どうした沙耶……あ……」


 言い掛けて誠実も今の状況に気が付く。

 誠実の右手が沙耶香を支えたさいに思い切り胸を鷲掴みしている。


「わ、悪い!!」


「だ…大丈夫だから……そ、それに嫌じゃないし……」


(あぁ、柔らかかかった……女の胸ってあんなに……)


 と少しラッキーくらいに考えていた誠実。

 しかし、その最中にどこからともなく飛んできた小石が誠実の頬を掠り、頬に一本の切り傷が出来る。


「っち! 外したか……」


「伊敷の野郎、俺達の前橋さんの胸を……殺してやる……」


「なぁなぁ、男のチ〇コって無くても別に死なないよな? あいつの取っちまおうぜ」


(しまった、俺が迂闊だった!! うちのクラスは童貞を拗らせた馬鹿の集まり! そんな奴らの前で故意ではないとはいえ女性の胸に触るなんて自殺行為だ!!)


 男子からの殺意の困った視線を受けながら、誠実は冷や汗を掻き、授業が終わったらさっさと逃げようと作戦を立てるのだった。

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